「なまえ、だね」

「…はい」

「顔を見せてくれるかい?」


その優しげな声に従って顔を上げた。背はそんなに高くない。でも、どこか威厳があって、それでいてあたたかいオーラをまとった老人だった。

「ありがとう。私はボンゴレファミリー九代目、ティモッテオというものだ」

――私は記憶の片隅に、ふっとその影を捉えた。


「………ずっと前に、私を助けてくれた…?」


暗い部屋、暗い目、笑い声。


「私を助けて…くれたこと、が…ありますか?」


そこに流れ込む金色の、眩しい光。
光の中に、この人を見た気がするのだ。


驚いたように目を見開いた老人、ティモッテオさんは、しかし柔らかく微笑んだ。

「そんな事もあった。…まだ君が幼い頃だ」

やっぱり。
私は再び頭を下げた。


「…ありがとうございました。私、あなたや皆さんのおかげで、まだ生きていられてる」

「なまえ…」

「今まで、助けられてる事にも気付かなくて、ごめんなさ、ほわっ!」


急にシャツを掴まれたかと思うと、ドスンと椅子にお尻が着いた。言わずもがなザンザスさん。

「ざ、ザンザスさん…?」

「テメェが謝んじゃねェ」

「え、でも」
口ごもった私に、ティモッテオさんは優しく語りかける。


「その通りだよ。」

「…」

「もしかしたら君は、自分の事をほんの少し、厄介者だと思っているかもしれないが」

「!!」


自分が厄介な人間だって、それは当の昔に気が付いていて。でもそれがこんなに人を巻き込んだ厄介である事に、私はつい最近気が付いたばかりで。それをティモッテオさんにずばり言い当てられてしまった事に、とても驚いてしまったのだ。


「それは違う。我々は、我々の意志で君達を護りたいと思っている」

「ティモッテオさん…」

「だから、なまえ。まずは謝らせてほしい…君達家族の秘密を守れなかった事を」

「!、そ、そんな」

「そして、許してくれ。」

「…」

「私達ボンゴレが、もう一度君達と、その秘密を護ろうとすることを」



私はただ、頷く他なかった。そして、九代目の瞳の中に、綱吉君の眼差しからも感じた慈愛のような、酷く優しいものを確かに見つけたのだ。

「―――…よろしく、お願いします…!!」


こうしてボンゴレ本部での、私を交えての会議が始まった。
私が席に着いた時、ザンザスさんはとても不機嫌そうに「ジジイの茶番につき合わされやがって」と呟いたから、もしかしたらザンザスさんはあの人のことが嫌いなのかもしれない。

(面と向かって尋ねる勇気は、なかったけれど。)

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