ラクリマ・マレディツィオーネ。人を魅了し判断力を鈍らせる麻薬。


(…成程な。)
心の中でそう呟いたXANXUSは、目の前でぽろぽろと涙を溢し続けるなまえをじっと見つめた。一粒。また一粒。
透明な滴が白い頬を滑るたびに、腹の奥が疼くような。

――ベロッ


試しにそれを舐めとってみれば、ほのかな甘みが舌先に広がる。数秒すると、じんわりと脳が痺れるような奇妙な、それでいて恍惚とした感覚が広がった。

呪われた、その涙は、持ち主の感情に伴っているとでも云うのだろうか。
快感にも似た甘い痺れの裏で、XANXUSの胸に過ったのは些細な息苦しさだった。――だが


「悪くねえ」


夢に魘されて流れた涙がこの甘さなら、喜びにうたれて溢れた涙なら?恐怖に満ちた時のそれはどうだ。身を焼くような快楽の最中で、生理的に零れた涙の味は……?


「ざ、っ」
「るせぇ」

体を起こしたXANXUSはなまえに覆い被さるようにして、もう片方の頬を丁寧に舐め上げた。赤い目尻に残った滴のかたまりも、ちゅ、と音を立てて吸い上げる。
どんなに強い酒を飲んでも滅多に酔わないXANXUSだったが、そのたった数滴の涙を口にしただけで、まるで酒瓶をいくつも空けたその後のように気分が昂揚していた。


(いっそのこと俺がぶっ壊しちまうか、)

誹謗や排斥には慣れてる。今更誰にどんな目で見られようが俺は構わねェからな。
ぼんやりと思考を傾けたXANXUSが指先でなまえの顎をすくい、自身の唇を寄せた時

「ざ、んざすさん…!」

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