「逃げて!逃げるのよ…!!」

誰?

「おかあさん!」

「ここは危険なの。ここは危険なの!もう、私達ではあなたを守れない」

「おかあさん!!」

「………っ、ごめんねぇ」

傷だらけな、美しい女の人。そして、女の人に縋りついて泣いているの子供は……わたし?

「いやだぁ…!ひとりはいやだ!」

暗雲が空を覆う、寒い夜。
石畳の冷たい階段。

ここはどこ

「いいえ。あなたは行かなければ――」

「おか、あ、さんも!いっしょに」

「   、

強くなりなさい!!」

「!!」


「あなたはひとりで生きてはいけない!だから、自分や、自分の愛する人を守れるように、つよく」





「つよぐなりなさい…!!!」

美しい女の人は、エメラルド色の瞳から大粒の涙をぼろぼろと溢し、少女の背を押した。少女は首を振った。縦に。


最後に、その血まみれの手に自分の頬をすりつけ、「ciao」、泣きながら少女は紡ぐのだ。



「ciao、Madre.」

またね


きっと、またね、ママ



はっと目を覚ました時、目の前にはザンザスさんがいた。

人前で泣いてはいけないとあれほど言われていたのに、切なさに。息苦しさに胸が痛み、感情の抑えが利かなくなった。
後ろを向こうと慌てて身じろきしたものの、ザンザスさんの両掌に顔をはさまれてそれも叶わない。


「な、ぎま、す……けど…?」

「知るか。」

「、う゛」

じわじわ涙に侵食される視界で、ザンザスさんが滲む。
夢から覚めた時、ザンザスさんの姿を見て安心してしまった。恐ろしい夢だったから、では、ない。あの少女を襲った孤独から、すくい取られた気がしたから。


「、ぅ……っく、ひ」

そしてあの少女は、わたしじゃない。


「。



 おか、あさ…ん」


遠い昔の、母の姿だ。

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