XANXUSに抱えられながら来た道を戻る最中、なまえは考えていた。――何と言えばいいんだろう。
あれだけ酷いことを言って屋敷を出た私を、受け入れてくれるとは…とても思えない。

不安から無意識のうちに、XANXUSのシャツを掴んだ。すっと下がった赤い眼が私とぶつかる。
「、あ」思わず小さく声を上げてしまったのは、私を抱えるXANXUSの腕に力がこもるのを感じたから。


目の前に扉が迫り、私はXANXUSの腕を叩いた。
「……下りるね」
静かに地面に下ろされながら、私は視線を扉から離せなかった。

(数日前も、この扉をくぐった時は、自分から開ける日が来るなんて思わなかったな。
みんな、私のことを許してくれるかな…)


取っ手を握る私の震えた手に、XANXUSの手が重なる。――…驚いて見上げる間もなく、取っ手は回された。
漏れ出てきたオレンジ色の明かりが目にかって眩しい。
それでも、目の前の光景に一瞬、呼吸を忘れた。


「なまえ」

そこには、さっき広間にいた全員がいた。
頭の中でいくつもの言葉が錯綜する。顔を上げるのが怖かった。
(ごめんなさい)
(さっきは嘘を吐きました)
(本当はお金なんていらない)
(本当は、お母さん達を愛してる)
(本当は、本当…に)


XANXUSが少し腰をかがめ、私の耳元で囁いた。
「目を見ればわかるはずだ。」
「…!」
「感じろ。…視覚で、聴覚で、空気を」

言われるままに、視線を彼らに向けた。


「…」



俺達は死者に償う真似はしねぇ、とXANXUSは言った。そうしなければ死んでしまうから、と。
でも、私はどうしても、それだけではないように思えるのだ。
――死者に償うこと。それは死んだ人間を冒涜することに等しい。
昔どこかの映画でそんな台詞を聞いたことがある。XANXUS達は、もしかしたら同じような事を考えているのかもしれない。

顔を上げた先で彼らは、私達を見つめていた。
その瞳には陰りはあれど、どこか先を見据える光もあった。

「俺達は、テメェの思うほど…―――」


私は、小さく微笑んだ。


「……ただいま」


泡雪

スクアーロの冷たくない方の手が、私の頭をぐしゃりと撫でた。
「…馬鹿野郎」

  また、ちょっとだけ涙が出た。

top
×