父と母を失った日、私は心に一瞬だけ深い怨念を垣間見た。あのどす黒いものが、悪意だろうか。あの冷たくて苦しいのが、憎悪だろうか。でも、今はもうほとんど覚えてはいない。父と母と過ごしたこれまでの人生が、その黒くて、冷たくて、苦しいのを、打ち消してくれたのは明らかだった。
母と父が光につつまれながら私を抱き締めてくれる夢を見た。
彼らは、自分を殺しに来たその暗殺者達を決して恨んではいなかった。同時に、自分を身代わりしたかつての恩人の事も怨んでいなかったに違いない。

あの二人は、この世から自分達が消える最期の瞬間まで私を、世界を、愛してくれた。

「わたし」

だから私も知りたいのだ。



「…―――、      生きる  」

生きる
母と、父が、めいいっぱい愛したこの世界なのだ

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