泥門高校購買部付近にて。なまえは手に財布を握ったまますっかり困り果てていた。


「どうしよう」


先程よー兄にお使い(断じてパシリではないよ)を頼まれてここへ来たのだが、流石お昼どき。混んでいて全く身動きが取れなくなってしまった。この時ばかりは、自分の背丈を怨む。



「…あ。お前」
「?」
「大丈夫かよ」
「っと…同じクラスの、十文字くん」


彼が引っ張り出してくれたおかげで、やっと人混み地獄から解放された。依然としてお使いは達成できていないのだけど。(どうしよう…このまま収穫なしで帰ったら本当の地獄が…)


「あいつのパシリか」
「お使い、です」
「見たところ何も買えてねェな」
「うっ…」
「早くしねーと売りきれるぞ」
「!」
「おい、無暗に突っ込むな!お前チビだからまたすぐ」
「で、でも」
「いいか。こう言う時はこうすんだよ」


十文字は口の横に手を添えて声を張り上げた。「ヒル魔!!」「え」数秒の混乱の後その場に残ったのはなまえと十文字だけになった。


「ほらな」
「わ…我が兄ながら恐ろしい」


十文字となまえは目的の品を選び、空っぽの賽銭入れに小銭を入れた。


「お前、これからどこ行くんだ」
「よー兄が部室に来いって」
「そうかよ。じゃあな」
「どうもありがとう、十文字くん」


「……おい!」


少し進んだところで呼び止められたので振り返れば、十文字くんが信じられないといったような目をこちらに向けていた。(え…何かしたかな)


「もう一度聞くけど、お前どこ行くつもりだよ」
「…アメフト部の部室です」
「逆方向だ!」
「ええ!?」
思わず声を上げたなまえ。十文字は少しだけ上った階段をトントンと下り、溜息を吐いてなまえに並んだ。

「…部室まで、な」
「ご、…ご迷惑おかけします」

 

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