倒れ込んだ女の上に跨っているというのに、まったくもって俺らしくもないことに、その気にならない。背景のタンポポ畑と女の間抜けヅラのせいだ。
身体を起こし、女の腕を掴んで引き起こす。

「名前は」
「え?」
「なーまーえ。とっとと言えカス」
「ひっ、……蛭魔、なまえ」
「………あ゛?」

聞いた苗字だ。
たしかに顔つきもどことなく………いやいや、ねェか。それはねェわ。
俺の知っている、あの蛭魔妖一は、巧みにトラップを重ねた戦略を選り好み、えげつなさとその攻撃力のみで這い上がってくるようなカス野郎だ。
この女があいつに関係している奴ならば、その片鱗くらい伺えるハズだろうが。まあ、ともかく聞きゃ解かるか。

「もう一度、聞く。イエスかノーで答えろ」
「…は、はい」
「てめェに兄貴は居るか」

ふるふる、首を左右に小さく揺らすなまえ。何だ、やっぱり人違いじゃねェか…と思ったのもつかの間、なまえは涙ぐみながら呟くように言った。


「兄というか、悪魔が、ひとり」


成程どうやらこいつは、あのヒル魔の妹らしい。性格は全くと言っていいほどの正反対である。もしや演技でもしてるのかと疑ってかかれば、いよいよ泣かれそうになったので止めた。


「よ、よー兄のお友だち…ですか」
「誰があんなカスと友達だ!あ゛ー?」
「うわああん」



泣かれた。



***



「…ねえ、モン太…今日のヒル魔さん何時にも増して機嫌悪くない?」
「めちゃくちゃ不機嫌MAXだぜ」


「…遅ェ、何してやがんだ、あんの糞方向音痴!!」


泥門部室にてヒル魔の乱射と、訳が解からないといったセナ達の悲痛な叫びが木霊したのは、もはや言うまでも無い。
――その時。控え目なノックの音がヒル魔の耳に届いた。


「おい、ハアハア三兄弟。テメェ等そこ退きやがれ、邪魔だ!」


十文字達に何時ものように意見させる間もなく、ヒル魔は部室の戸を開け放ち、外にいた人物を引きこんで戸を閉めた。唖然とするセナ達を背に、ヒル魔はその人物にジャカリと銃口を突き付ける。


「うきゃあああ!よ、に…!何すんの」
「テメー、朝、俺が言った言葉を、一文字足りて間違わずに復唱してみやがれ!!」
「ご、午後四時に部室」
「その後だ!」
「遅れたらブッコロスやーはー……ちが、これには訳が!」


すっかり竦み上がってしまってる少女は、ヒル魔の背後に固まっているセナ達に目をやった。

「う…!(あれは絶対SOS求めてる目だ!)モ、モモモン太」
「こ、ここはアイシールド21!セナの出番だぜ!」
「(やっぱりー!)ひ、ヒル魔さん…!その子は一体」

ぐるん、ヒル魔の残虐そのものな表情がセナに向く。

「あ?…こいつか?俺の妹だ」
「へえ、ヒル魔さんの妹…………えええええ!!」

ちょッ、マジっすかヒル魔先輩!ハ?ハァ!?ハァアアア!?様々な声響き渡る最中で、なまえは、明らかにひと波乱ありそうなこの先を想像して目眩がしたのだった。

 

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