結局不良さん方は見るも無残な姿にされ、先百年は奴隷として死力の限りを尽くすといった契約を無理やり交わさせ、今回の暴動は大騒ぎにならずに収められた。
協力してくれた葉柱さんや賊学の方々、十文字君たち、そして後から駆けつけてくれた雲水さんと一休君にもお礼を言って帰路を辿る。


「いやぁ、今日は面白いもんを見たなぁ、天才金剛阿含君の慌てふためき泣き叫びチビる様は中々レアだろうからとりあえず雲水に教えてやっかな」
「誰がチビるか殺すぞカス。お前こそ結構なブチ切れ様だったじゃねぇか、その様じゃ先二百年は女できねぇだろざまあみろ死ね」
「ちょっと………二人共、私の頭の上で喧嘩せんといて…」


そうこう言っているうちに家に到着してしまった。
数秒の沈黙。チッとあからさまに舌打ったよー兄は、くるりと背を向けて来た道を戻り始めた。

「よっ、よー兄?」
「メンドクセェ事に無糖ガム切らしてることに今気が付きやがった」
「え」
「ここから一番近いコンビニでも往復すりゃ20分ちょいはかかっちまうだろうから、糞妹、テメェはとっとと家入っておねんねしてろ。糞ドレッドテメェはとっとと寺に帰れ」
「よー兄!ガムなら家にいっぱい、むぐ」
「はッ、シスコン兄貴が珍しく気遣ってんだ。有難く受け取っととくもんだろ」


後ろ手にひらひらと手を振って歩いていくよー兄。
私はその背中にたまらず呼びかけた。

「よー兄!!」

ぴたり、足を止めたよー兄。

「今日は、助けに来てくれてありがとう!捕まったのも、あの、よー兄が原因なんだけど………でも、絶対助けに来てくれるって信じてた……!」

よー兄は意地悪で、不器用で、怒るとものすごく怖いし、怒らなくても怖いけど、
でもわたしにはいつだってとびっきり甘い、
優しい、
大切な、私のたった一人のお兄ちゃんなのだ。

「よー兄は、いつも私のヒーローだよ……」


春の夜風が吹き抜ける。
振り返ったよー兄は、いつものように仏頂面で、長い人差し指を私に向けた。
あたりまえだ。
そう言われた気がして、微笑みが浮かぶ。よー兄はくるりと背中を向けて、今度こそ道の向こうに消えて行った。



「阿含さん、わたしね、よー兄に負けず劣らずブラコンなんです」

おもむろに話し出した私を見下ろす阿含さん。

「……よー兄以上に強いひとも、頭がいい人も、格好いい人も、
わたしのことを好きになってくれる人も………

わたしが、大切にしたいと思える人も、いるなんて思わなかったんです……!」

私は破裂しそうになる心臓を押さえて、阿含さんの襟首をぐいッとこちらに引き寄せた。反対の手で、サングラスを押し上げる。
驚いたような阿含さんの瞳とぶつかった。


「好きです、阿含さん、……すきです。
付き合ってください」

 

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