「ヒル魔!?な、なぜここに」
「待ち合わせ場所を工場に指定しといて自分らは高みから見物しようって腹積もりだろ」

そう、主犯三名となまえが居たのは賊徒学園校舎の屋上だった。

「この辺で廃工場が見通せんのはここだけだからなァ」
「くっ…」
「大方、俺が向こうに出向いたら集めてた糞雑魚どもにタコ殴りにさせようとでも思ってたんだろうが、――そう簡単には行かねェ」

ヒル魔がそう告げたのとほぼ時同じくして、工場の方からヒル魔の名を呼びかける声が響いた。
三名のうち1人が、屋上から身を乗り出してそちらに目をやると。――驚愕。

「こっちは片付いたぜ」
「口程にもねー雑魚の集まりだったな」

山積みにされた手下達。
周りで和気あいあいとしているのは、先程まで殺伐とした空気を醸し出して居た不良共だ。
「や、奴ら喧嘩してたんじゃ」
「ありゃ全員族学の奴らだ。まあ、泥門(うち)のも数人貸したけどな」
「カッ!こっちはいい迷惑だぜ」

ケケケケ、と邪悪な顔で笑い続けるよー兄の後ろから、葉柱さん、そして

「あ、阿含さん!?」
「カスチビ、……テメェピンピンしてんじゃねぇか……」
「え、え、えっ私?」
「ケケケケ……なまえ、こいつお前からの連絡が途絶えて以降延々走り回ってたらしい」
「テメェ余計なことほざいてんじゃねぇ!」
「阿含さん……」

一気に訪れた安堵の波に、思わず視界が滲み始める。


「ヒ、ヒヒヒヒル魔に、賊学の葉柱と、神龍寺の金剛阿含………!!?お、っおい、もうどうすんだよ、コレ!!」
「どうするもこうするも、逃げるしかねぇよこれは!!」
「バカヤロウ!こ、っこここっちには人質が」


とん、背中に熱を感じる。
私の肩を抱える腕には酷く覚えがあって、今度こそ私は涙を溢して俯いた。

「うぅう……阿含、さん、!」
「……こんな奴らにビビってんじゃねぇよ、カス」
そんなことを言いながら、抱き寄せる手はひどく優しい。

「び、びびってない……、安心、しちゃって」

そう言うと、阿含さんは少し驚いた後嬉しそうに口角を上げた。そうかよ。だって。
ともかく、こうなってしまえば可哀想なのは挟み撃ちにされた三人の不良さん方だ。

「テメェ等覚悟は出来てんな。
歯ぁ食いしばって死ね」

私はぎゅっと目をとじた。
残忍な笑みを浮かべたよー兄より無表情で怒りを露わにするよー兄の方がよっぽど怖かったことは、新しい事実でありもう二度と目の当たりにはしたくない出来事であった。


 

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