変色橙色の少年
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彼女に嘘をついたのは2回目だったかな。
最初は確か……ひねりちぎれてしまえ、とか言ってたっけ。何ともグロテスク。女の言うことではなかろう。
まぁでも、今の方が俺に響いた。
大嫌いだからね。女からそんなことを言われる日が来るとはおもわなんだ。彼女への気持ちに気付いた俺には、少しばかりではないほど見に染みる言葉であった。ほんと、俺は嫌な性格をしている。何に対してもね。女に対しては手慣れてるはずなのにな、本気になると上手く行かなくなる。
彼女はお弁当を食べ終えたらさっさと帰ってしまった。声をかけても振り向かなかったから、俺の嘘にさぞかしお怒りだろう。
俺は、柄にもなく戸惑っていた。
こういうときは、アイツだよネ。
「急にどうしたんだよ。嬢ちゃんは」
「ちょっとね。そういえばさ、やらないの。俺をめいに告らせるヤツ」
「脈無さそうだしねェ。俺たちがこれ以上介入して意味があるのか」
「ないね。お前は黙って見ていろよ、阿伏兎」
「へいへい」
俺は屋上に阿伏兎を呼び出した。面倒くさがりながらもちゃんとやってくる。授業にでなくて高校を卒業する気があるのか。
阿伏兎の言う「脈無し」は、間違っている。俺はあると考えている。最初は今まで男と関わりが少なかったせいだろうと思っていたが、どうも俺に対して何やら思い悩んでる姿が見られる。彼女にちょっかいを出す男が俺しかいないからだろうか、とも思ったが彼女の同じくクラスのアイツにはなんとも思ってなさそうだ。故に、彼女の頭の中の大部分は俺で埋まっているだろう。だからといって、そうそうはうまかいかないものらしいね。男と女と言うものは。
「めいをね、怒らせてしまったんだ」
「めずらしく相談かい。そりゃあ厄介そうだな」
「大嫌いだと言われた」
「……それはそれは。ちなみに、何をしたんで」
「最初はね、本気だったんだけど。後々に照れ臭くなってしまって、嘘だといってしまったんだ。めいはそのことを重大に思っていたらしくて、口も聞いてくれなくなっちゃった」
「……あんたでもそんな感情あったんだな」
彼女と関わりを持ってからというもの、俺の内心は驚くべき変化を遂げていた。今まで感じなかったもの、感じれなかったものを感じた。捨てていたと思っていたものは、心の奥底にしまいこんでいただけだった。自分のことは自分が一番わかっているはずだったのに。半分もわかっていたのだろうか。
俺をこ変えさせた彼女には責任をとってもらわないとね。ああ、はやく手に納めたい!
「お前さんが嬢ちゃんと仲直りしたいのなら、やることは一つ 」
俺の考えてることなぞお見通しか。俺が思い付かなかった解決方法を、奴はいとも簡単にわかるらしい。そこが、生きてる時間の違いなのだろうか。
俺は目を少し開いて阿伏兎を見、静かに耳を傾けた。
「謝るんだな」
「馬鹿にしているのかい」
「どう考えてもアンタが悪いのだから、あたりまえだろう」
「そりゃまぁ、少しは悪かったかなと思っているよ。0.0000000001%くらいは」
阿伏兎は呆れたようにため息をひとつついた。
俺はいつまで強がっているんだ。
「アンタはやったことないだろが、悪いことしたら謝るのは当たり前だぜ。俺が言うのも変だが。まわりくどいことしても嬢ちゃんには伝わりにくいと思うしな」
「じゃあなんと言って謝ればいいんだい」
「そりゃあ、悪かったとかごめんとか」
「俺には難しそうだ。阿伏兎が代わりにいってきてよ」
「おじさんがしたって意味ないだろーが……」
「じゃあ手伝って」
「……やれやれ」
こうして、俺達はチキチキ☆めいにごぺんなさいゆるしてにゃん作戦を決行した。
しかし、ここからが長かった。
俺は人生で初の謝罪になかなか踏み出せず、阿伏兎の胃はキリキリと悲鳴をあげた。
「ほら!あそこに嬢ちゃんいいるぞ!!いってこい!」
「男と歩いてるじゃないか。浮気だ」
「そういってる場合じゃねぇだろ!アンタ謝る気あんの」
「今頑張ってるところだよ。でも今回はやめておこうかな」
「それ何回目……」
「おっあそこに入っていったね。いってみようか」
「そこ女子トイレ!だめ!」
「なんだよ、行けと言ったり行くなと言ったり。殺すぞ」
「だから殺しちゃうぞじゃないの……。アンタそんな性格だっけ……」
「妄想でできてるのだから少しくらいおかしいところもあるんじゃないかい。原型は残ってる。それより、口調がよくわからなくてあまり書けないお前の方がずっとおかしくなってるんじゃないか」
「ちょ、裏事情はやめて悲しい」
めいのことを追いかけたりしたが、後ろから見つめるだけでなにもできなかった。
俺にもこんな情けないところがあるとはね。
午後からずっとめいを追っていたら、とうとう放課後になってしまった。
俺達は屋上へ戻り、阿伏兎は柵にもたれ掛かって座っている。俺は空を見上げた。
「……謝らないんですかい」
「謝るよ」
「じゃあさっさと言ってきてくださいな。おじさんの胃はもう限界だぜ」
「うるさいなぁ」
俺はもう一度彼女を探しにいった。まだ帰っていないといいけれどな。金髪男と放課後デートなんてしないだろうな。あれ、フラグ立てちゃったかな。まぁ、そんなことは俺が絶対に阻止するし。あの男も命が惜しいだろう。俺がどういうヤツかわかっているだろうし。
「めい発見」
彼女はもう玄関からでて校門に向かって歩いていた。
彼女の隣には、夕日に照らされてキラキラと輝く金髪の男が歩いていた。俺の予想は嫌なとこで当たるものだね。
それにあの男、俺に喧嘩を売っているのかい。ただではすまさないよ。
俺は玄関を抜け、数時間求めていた彼女のもとへ近づいた。
「めい、俺以外のオトコと何処へ行くんだい」
俺の心臓は、いつもより速くとくとく動いていた。
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