初!初!
20/25
午後の授業も終わり、放課後です。
すやすやと睡眠勉強していたのでお目目ぱっちり。よぉし、家に帰ってれっつごろごろ!
「春菜、これから用事あるかい」
暑いのかシャツだけになっているだーやまくんです。なんというタイミング。私を止めないでいただきたいです。
だーやまくんの金髪が太陽の光にきらめいています。今日の空は午後も機嫌がいいみたいですね。
「そうですね、家に帰ってごろごろします」
「その前に俺の買い物に付き合ってくれないかな」
「そんな嫌そうな顔をしないで。ほら、三つ編みの先輩のことどうにかしたんでしょ」
そう言われるとついていくしかなくなってしまいます。このまま帰っても神威さんが私の頭の中にひっつき虫になってますしね。
ごろごろは次の機会にとっておきましょう。
私とだーやまくんは玄関で靴を履きかえ、外に出ました。
「どこへお買い物に」
「欲しい本があってね」
「だーやまくん。なぜこの高校へ来たのですか。私ずっと不思議だったんです。不思議で不思議でかなわなかったんです。夜は普通に寝れましたけど」
「寝れたんかい。春菜でも寝れないときがあるのかと少し期待したよ。むしろ寝ないでくれ気になって眠れないでいてくれ。まぁいろいろとね、事情があるんだ」
「私が一番好きなこと、それは寝ることなんです。その時間を削るようなことは神様でも閻魔様でもできないのです。言いづらかったら言わなくても大丈夫ですよ」
「お前授業ほとんど寝てるし。寝顔かわいいからいいけどせめてそこは起きておくようにしなよ。そのうち話すよ、今はそのときでないだけ」
私は他人の隠し事にはあまり深く追求しないのです。誰にでも隠したいことはあるでしょう。私の隠し事は……
思い付きませんね。素直に生きているとおっしゃってくださいまし。
「めい、俺以外のオトコど何処へ行くんだい」
校門へ向かって歩いているときでした。あの男が後ろから声をかけてきたのです。
私は怒っています。彼の今日の態度にぷるぷると震えているのです。心の中では。
私は歩く速度を速めました。
「先輩、今日の春菜の相手は俺ですよ」
「そんな決まりを作った覚えはないね。道端の糞になりたくなければ消えてくれないか」
だーやまくん、何故話してるのですか。私が16年生きてて一番速く歩いたというのに。きっと馬よりも速かったんです。チーターよりも。私は風のようだったのに止まるしかありません。
歩を止め後ろを振り向き、二人の様子を伺うことにしました。はやくしてくださいね。それと神威さん、私はお下品な物言いは嫌嫌よ。
「今から放課後デートするんですよ。先輩は夜兎工の三羽烏らしく、その辺の高校ぶっ潰してきてくださいよ」
「生憎この辺りはもうやってしまったんだ。みんな弱すぎてね。めいそんなやつじゃなくて俺と放課後デートしようよ。いいほホテル知ってるよ」
「ちょっと変なとこにつれていかないでください。春菜は純情ですから余計な知識を与えないでください。というか、春菜は今あなたに不満があるのですよ」
「俺に不満かい。心外だなあ」
「というわけで今日は俺と放課後デートなんで。さようなら」
だーやまくんはくるりと後ろを振り向き、私に「行くよ」と言って手を引きました。さっきまでゆっくりと歩いていた彼の足は少し速くなっています。私はおろおろとついていき、ちらりと少し後ろを振り向きました。神威さんは不満げに、なんだか悲しそうに私を見つめています。私はだーやまくんの背中を見つめ直しました。まだ春ですが、ずんずんと気温は上昇しているので少し汗ばんでいます。
校門を出る直前、とてつもない力が私を振り向かせました。
「明日、おしおきだからね」
「気を付けていくんだよ。それとオトコ、俺に隙を見せたら死ぬよ」
彼は私の頭をひと撫でし、校舎へと去っていきます。
だーやまくんは言いました。
「ムカつくぜあの先輩は」
私の初ちゅーは、触れるだけのものでした。
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