五条がいっぱいコレクション
4
 手洗い、うがい。
 家に帰ってまずすることといえばその二つが代表格だが禪院家生まれ禪院家育ちの芥くんともなれば報復、呪殺の二つが頭にくる。

 という訳で早速使えるようになった術式反転で補助監督と先生を亡き者にした。禪院家はほら、実戦練習を大事にするおうちだから大丈夫だよねっ!
 因みに術式反転された人間は先の呪霊のように霧のように跡形もなく消え失せるので完全犯罪が可能だ。ほ〜ら屑どもは地球に還元しちゃおうねぇ。こんな屑を還元されて地球もさぞ迷惑だろうが俺もこんなものを産み落とされて迷惑だったのでお互い様だ。

「芥。昇級祝いだ。飲め」

 先生の顔をした当主が酒を注ぐ。自分の盃には別の酒瓶から注ぐあたり、俺の注がれたこれは毒なのかもしれない。先日の任務から更にいくつかの任務をこなした俺は、一級呪術師になっていた。昇級したからといって家での扱いが改善される訳ではない。クソ当主は相も変わらず俺の耐久テストにお熱のようで、手足の切断から骨の粉砕と人の体を使って好き放題に遊んでくれる。その程度で済んでいるのは先日の任務に関する報告を上げる際に負った怪我を偽ったためだろう。これでうっかり「頭吹き飛ばされたけど治しました☆」なんて言った暁には毎日脳漿炸裂ボーイになるところだった。は〜〜禪院家はクソ。

 これだけたくさん遊んでいるのだからそろそろ痛覚が鈍っていい頃だと思うのだが、生憎とその気配はない。残念。

「……ありがたく」

 受け取った盃を一気に飲み下す。毒で喉の爛れる感覚は、アルコールで焼ける感じに少し似ていた。

「オ゛ェッッ」

 かぽりと血を吐く。畳が赤く染まるのを見ても当主は愉快そうに手元の盃を傾けるだけだ。

 シャラリ

 四つん這いになりゼイゼイと血の混じった唾液を零す俺の耳に、金属の擦れる音が聞こえる。

「芥。顔を上げろ」
「は、がッッあぇッ、あああ」

 熱い、痛い、痛い、冷たい? あああ痛い痛い苦しい痛い痛い痛いッッ!!!!!!!

 俺の左目に日本刀が突き刺さっている。緩慢な動作で刀が引き抜かれる。刺したところとまた違うところが切れたのか、目から血が噴き出る。痛みに喘ぐことしかできない俺を、当主の瞳が冷たく見据える。

「失望させてくれるなよ」

 クソクソクソクソ!!! 両目をつぶされる直前に見たのは、代り映えのしない先生の顔。出演回数多すぎだろ。超売れっ子俳優かよ死んでくれ。

「ぁえ、」

 つぷり

 深く深く日本刀が突き刺さる。頭の奥がスースーする。脳みそが壊れちゃ?ったねあは、あは、アハハハハハハッ。視界が赤、黒、赤赤赤赤赤赤ッ!!!
 何も見えない、分からない。死ぬ死ぬ死んじゃうアハハハハッ。

 痛い痛い痛いぃぃぃぃもう何も分からない。眼窩に刺さったままの刀を引き抜く。血が噴き出る。体が冷たい。

「ばんしょぉ、さいせ……ッ」

 術式が発動する。脳が修復される。

「ハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 頭が軽い。喉に血がたまる。ドロドロとしていて息がしづらい。床に吐き捨てる。アハ、なんも見えねぇ。

 目を治そうとして、気付く。これ治さない方がいいんじゃね??
 ここで下手に全快してしまえば「なんだまだいけるじゃん☆」と耐久テストが更に過酷なものになることは必至。それは避けたい。しかも治したところで見えるのは嫌いな奴の顔だ。いい加減死人の顔は見飽きた。とくれば治す理由なんてない気がする。寧ろ目を潰してくれた当主が愛おしくなってきた。もっと早く目を潰せばよかった。流石当主、いやゴトウシュサマ! 腐りっぷりが天才的! 天才的だけに天災的ってかやかましいわ。

 早々に結論を出した俺は視力が戻らないよう調整しながらほどほどに目を再生させる。

「あ、が……は、」

 息も絶え絶えの俺にゴトウシュサマがほうと呟く。

「生き延びたか」

 お陰さまで!!!!!

 返事をするより早く、俺の意識は闇へと溶けた。





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