折れた手首は治せるし、砕けたあばらも治せるがイカれた頭は治せない。ゴトウシュサマに呼び出された広間には耳慣れない声があった。客が来ているのかと首を傾げつつふすまを足蹴で開け放つ。
「失礼しゃーす」
「おう来たか。五条のに挨拶しろ」
なんだ、客は五条悟だったのか。相伝を継ぐ異母弟を奪い取ったとかいう、あの。
ご機嫌なゴトウシュサマに促され、床に額づける。
「禪院芥と申しまぁす。お初お目にかかりゃーす」
まぁ目ェ見えねぇんだけどさァ。
ジョークジョークと軽く笑うと、五条悟は絶句する。俺の目元にきっちり巻かれた包帯が呪術師にありがちな目隠しとしてではなく、正しく医療用品として使われているのだと分かったのだろう。とはいえ怪我自体はずっと前の物だから頑なに包帯を巻き続ける意味というのはあまりない。
五条悟の反応にゴトウシュサマの機嫌はますます良くなる。ハピハピ直毘人なんだねゴトウシュサマ。ゴトウシュサマが嬉しそうで俺も嬉しいよ! これぞシェアハピ!
「こやつの術式は人体を回復させる術式でなァ」
「……まさか、」
五条悟の声が震える。
「どこまで治せるか限界を図ってやっていたら……壊れてしまったようでなァ」
「そういうこともあるよゴトウシュサマ! 切り替えて次いこ次!」
「じゃれるな。そこからずっとこのイカれた調子よ。元は生真面目で薄暗い人間だったんだが」
「急に褒めるじゃないですか。えっへへへ」
「褒めとらんわ、この気ちがいが」
――目に日本刀を入れただけでこの様とは。
心底疲れたという調子で俺の目の説明をしたゴトウシュサマだったが、先ほどから黙っている五条悟の顔を見たのだろう。愉快そうに笑い「だがまァ」と口を開く。
「お前のその表情を見られただけで生かした価値があったというもの。4月からはお前の生徒だ。よく教えてやってくれ」
ゴトウシュサマの声がニヤニヤと笑っている。
これってつまりあれじゃん? つまりは生まれてきてくれてありがとうってことじゃん?? 禪院直毘人なりの精いっぱいのありがとうじゃん? いや知らねぇけどさ。
「ゴトウシュサマ、俺も生まれてきてよかったよ!」
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