五条悟はおかしな奴だった。馬鹿で軽薄であっさい倫理観。人を見下すことしか知らないみたいに無暗に人を煽ってくる。クソガキのまま大きくなった高校生、それが五条悟である。
そんな悟には自分の言ったことを忘れる癖があるらしく、時折記憶の抜けたような言動をした。
「あれ、傑。その飴どうしたの。ガキみてぇ」
「……君が私にくれたものだろう」
大きく渦を巻いたぺろぺろキャンディを片手に座っていると、通りがけの悟が声をかけてくる。そうだっけと言う口調はどこか適当で、他に何か考え事をしているようだった。
「にしてもなんで飴」
「呪霊がまずいって話をしたからだろ。なんのおさらいだよ」
「あーそうだったそうだった」
まずいならもっと早く言えよ。
苛立たし気に呟かれ、思わず笑い声が零れる。
「だから、何のおさらいだよって」
「は」
「さっきと同じこと言うものだから、つい」
一瞬きょとんと無防備な表情を見せた悟だったが、舌をべぇと突き出し眉間に皺を寄せる。
「だっよなぁ!? 言わずにモノが伝わるかってぇの! 甘えんなバーカ! もっと早くに甘えとけよ傑馬鹿!」
「急に怒り出すのやめてくれよ。ウザイ」
「はぁ???」
喧嘩しようぜ、傑
綺麗な顔面に笑みを浮かべ、悟はボキボキと拳を鳴らす。
『後で殴るからな』
不思議と後回しにされた喧嘩は今ここで回収されるらしい。
「いいけど、勝つのは私だよ」
「傑ぅ、自信過剰は呪術師に禁物だって知らねーの?」
互角の勝負をした二年後、九月。教室の机は四つから三つになった。
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