五条悟には弟がいる
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 五条さとるには弟がいる。だけど双子だからどっちが兄かは分からないんだよ、おかしいね。さっちゃん(童謡風に)
 高専にいよいよ入学することになった一週間ほど前。五条の家にはかの禪院甚爾の姿があった。幼少期に「また遊ぼーぜ」と言って以降、結局一回も会うことなく今日まで来てしまった。そもそも一方的な口約束だったし、当の甚爾は覚えてもいないだろうが。

「おい、坊」
「は? 誰オマエ」
「テメェじゃねぇよ、こっちの坊だ」

 威嚇する弟をあっさり躱し、トージは俺に声をかける。

「俺?」
「また遊ぼうって約束したのはテメェの方だろうが」

 当たり前のように言われ、絶句する。目を瞬かせると、トージは「ぶっさ」と鼻くそを飛ばしてきた。汚い。念のため無限を張っていてよかった。

「トージ、知ってた? 動物園にいるゴリラはうんこを投げるんだぜ」
「ゴリラならそりゃ投げるだろ」
「いんや、ゴリラだから投げるんじゃねーよ。動物園にいるから投げんの。お客さんがうんこにビビって逃げるのが面白れぇんだってさ」

 トージのそれ、動物園のゴリラ並みの行動じゃん。ウケんね。

 プククと笑う俺につられ、弟もクククと喉を鳴らす。分かりやすく馬鹿にされたトージの額に青筋が浮かぶ。

「ほぉ? 坊は博識だなぁ?? 禪院のゴリラに人の首絞めるとどうなるか教えてくれねぇか??」
「死ぬッ! 今無限張ってないから死ぬってギブギブ!」
「だっさ。マウント取られてんじゃん」

 弟は観戦の姿勢でのんきにポケットの飴を舐めている。知り合いだからと無限を解いた俺が間違ってた。ついでに弟なら助けてくれるかもなんて淡い期待を抱いた俺のことも拳でぶん殴っとこ。俺でも弟がアイアンクロー決められてたら大笑いしてセコンドに回るわ。だって面白ぇもん。

「ってか、そろそろ飽きた。もういこーぜ」
「ぐぇっほ、さっきまで首絞められてた兄貴を見て他に言うことねぇの?」
「超ダサかったわ」

 ふと、言葉の応酬が途切れる。トージがまだいることを視界の端で確認した俺は、「あ、そうだ」と口を開く。

「俺便所行ってくる」
「おー、先行ってるわ」

 ひらり、手を振り見送る。弟が廊下を曲がり姿が見えなくなる。

「悟様!」
「あ? なに」

 背中越しに、弟と下女のやり取りが聞こえる。

「さ、トージ。庭に爆竹投げ込んで遊ぼーぜ」




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