五条悟には弟がいる
3
 五条の家には双子がいる。どちらが兄かは知らないが、付いてきたガキは自分を兄だと名乗っていた。

「俺五条さとる! オマエは?」
「クソ生意気だな……、禪院甚爾だ。覚えなくていい」
「えっなんで?」

 俺を変な奴だと宣ったくせに、心底意味が分からないという顔をするガキに舌打ちをする。本人に言わせてぇってか、趣味が悪い。

「天下の悟様からしたら俺みてぇな呪力のない奴は猿みたいなモン。だろ?」
「確かに雑魚いなとは思ったけど」
「クソが」
「でも! 覚える価値もないなんて、俺は思わねーよ」

 じっと空色の目が俺を見つめる。息がしづらい。気味が悪いとでも言おうか。遠く離れた存在であるはずの五条悟が、ひどく近い場所にいるような錯覚を覚えた。そんな筈はない。にもかかわらず、自身の根柢のひっくり返る音が聞こえる。ぐわん、ぐわん。金属のたゆむような音が耳から離れない。

「気持ちわりぃ」
「ひっでぇ。ま、いいや。じゃーね、トージ。また遊ぼーぜ!」
「ハイハイ、五条家の後継ぎ様は俺のことなどさっさと忘れやがってください」
「……忘れねーよ、俺はね」

 その顔が酷く寂しげで、耳をほじっていた手を止める。ピンと小指を弾くととれたての耳垢が坊の方へ飛んだ。

「うわっきったね!」
「おんやぁ〜? ご自慢の無下限はどうしたのかな〜!?」
「うっせぇ雑魚! 次会う時は無下限で弾いてやるからな!」
 術式の無駄遣いにも程がある。次と口にしたくせに、五条の坊はここから数年、姿を見せることはなかった。
 守る気ねぇ約束なんてするんじゃねーよ、クソガキが。




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