五条悟には弟がいた。
双子だから兄も弟もないかもしれないが、兄の方が偉いので兄は悟だ。
ある日、二人揃って屋敷の外を歩いていると不意に気配を感じた。後ろを振り向くと、黒髪の男が悟たちをぎょっとした様子で見つめている。呪力を感じない、不思議な奴だった。弟も同じように感じたらしく、興味深そうに瞳を輝かせている。
「変な奴」
「なにあれ、術式ないの? ざっこ」
口々に感想を零す。それで悟は満足してしまったのだが、弟は違ったらしい。
「悟、俺あっち行ってくる!」
「はぁ〜?! 俺と遊ぶんじゃなかったのかよ」
「別に今日は遊ばないってだけだろ。また誘えよ」
半ば振りほどくような強引さで弟は黒髪の男の方へ走っていく。弟と男は知り合い同士で約束でもしていたのかと訝しむも、男からそのような素振りは感じられない。俺のこと放ったらかしにしやがって。背を向けて歩き出す。部屋に帰ってなお唇を尖らせては文句を言う悟に、使用人がケーキを出してくれる。イチゴのショートケーキだ。わぁと顔を綻ばせ口いっぱいにケーキを頬張る。
「うめぇ」
食べている間に、何に対して怒っていたかは忘れてしまった。でもまぁ多分、つまらないことだろう。きっと。
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