五条さとるには弟がいる。
双子だから兄も弟もないかもしれないが、兄の方が偉いので兄はさとるだ。六眼も髪も声も術式もお揃いだが、ただ一つだけお揃いではないものがある。弟が気付くことは一生ないだろうが、さとるがさとるである所以は全てそこに詰まっていた。
「あ、できた」
「ずっりぃ! 俺もすぐできるようになるかんな!」
順転術式『蒼』を先に修得したのはさとるだった。足をダンダンと強く踏みならす弟のせいで手入れされた庭が荒れる。「蒼〜」ともう一度見せびらかせば、オマエ性格悪いって言われない? と空色の目が細められた。お互い様。
べぇと舌を出すと弟も負けじと舌を出す。しまいには両目を強く引っ張りあっかんべーを披露しあった。同じ顔が全力で威嚇している様子の滑稽さに「ぴぎゃー」と吹き出すと、弟も同じことを思ったのか「ぶひゃー」と腹を抱える。天使のような見た目の双子は、笑い方が悪魔じみていた。
「なぁ、なんか面白い遊びしらねー?」
「面白い遊びー? あっ、さっきアリの巣見つけたからそこに水淹れて棒突っ込もうぜ」
「おっイイネ!」
訂正、笑い方も悪魔じみていた。
子供ってほら、純粋にひどいことしちゃうから……。
五条家の人間は、その言い訳を十数年に及ぶまで口にする羽目になるとはまだ知らない。
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