一週間が過ぎても、俺と会長以外の役員は生徒会室に姿を見せなかった。
俺と会長は仕事が忙しくててんてこ舞いだ。
しかも、会長が変に俺に懐いてちょっかいを出してくるので正直うざったい。
「律〜、茶」
「自分で入れろハゲろ死ねバ会長」
「……」
俺が暴言を吐きだすと、会長は黙って渋顔をする。そして、自分で簡易キッチンに向かい、お湯を沸かし始めた。……気が付いたら名前呼びのことはもう突っ込まない。散々跳ねのけたが徒労に終わったのだ。俺はもう諦めた。
「律は何を飲む?」
「……、お任せします」
なんというか、この人一向にめげないよなぁ…。俺様だけど、なんだかんだ自分でやってることの方が多いし。気遣いも出来るし。結構、細やかな性格をしていると思う。今だって俺の分までやろうとしてるし。
「律はマグカップ、紺だよな?」
「はい」
俺様で偉そうなのに、人のマグカップの色とかご丁寧に覚えてるし。
会長もこの学校に通う以上お金持ちの御曹司だろうから、帝王学でも学ばされたのだろうか。そうなると、あの俺様な性格は後から来たものなのかもしれない。
後からだろうと前からだろうと周囲の人間にとっては関係ないし、些細なことなのだが。
「ほい、コーヒー。ミルクと砂糖はご自由に」
会長は、ミルクと砂糖の入れ物を先に机に置いてから、俺にマグカップを手渡そうとする。
「ありがとうございます」
手を伸ばして受け取ろうとすると、会長はわざわざ俺の手にしっかりと手を添えてきた。
「……離せ」
睨みあげてそう言うと、会長は肩を竦め、
「嫌なら振り払えよ。……コーヒー零れるけどな」
執務机の上には書類がある。今ここで零れるのを厭わずに振り払うと、書類がダメになってしまう。折角処理した書類も台無しになってしまうし、再発行してもらわなくてはならない。それは人手不足の今、致命的な痛手となる。
かと言ってこのままでいるのも、会長の感情が俺に駄々漏れでキツイものが……、
そこまで考えて、ふと固まる。会長の感情が流れ込んできてもそこまで不快に思っていない自分に気がついたからだ。
「……離せよ」
動揺して、取敢えずさっきの言葉を繰り返す。会長は、俄かに力を強めた。
「なにすん、」
「だって嫌がってないだろ」
会長が俺の言葉を遮って言う。俺は動揺のど真ん中を指摘され、体がピクリと震えた。
「大人しく俺のこと好きになれよ」
会長が俺の唇に顔を寄せる。あと少しで会長の唇が触れる、と思った時。
突然、バーンという音とともに生徒会室の扉が乱暴に開かれた。
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