「ここが生徒会室か〜! あっ、かっこいいなお前!! なんて名前なんだ!?」
突然入ってきた黒い塊……が会長を見るなり叫ぶ。うるせえ。ていうか色々突っ込みどころがありすぎるんだけどどうしたらいい?
会長を見ると、口パクで転校生だと教えられた。転校生ってことはあの今をときめく彼(笑)ですか。じゃあその取り巻きの役員はどうした。
そう思ったのがフラグだったのかなんなのか。きゃいきゃいと騒がしい集団が黒モジャに続く形で生徒会室に飛び込む。
「ちょっとぉー。りっちゃん、まってよぉ」
「元気ですね、私の凛は」
「副…のじゃな…。俺、の…」
上から順に会計、副会長、書記だ。名前は知らない。
「みんな遅いぞ! ちゃんとついてこいよ!」
「りっちゃんが足速いんだよ〜」
会計の言葉で気を良くしたのか、急に思い出したかのように会長に名前を聞く黒モジャ。俺も顔はいい方で、親衛隊もいるけど名前は聞かれていない。……会長見捨てて隠れてるからな!! 会長を生贄に、さっさと机の下に潜ってよかった。会長が転校生だと告げた直後に隠れて大正解。
会長の口が裏切り者と罵っているけど、無視だ無視。元々先輩後輩の関係でしかないから、助ける義理なんてない。
「なぁ! 答えろよ!!」
会長さんお名前なんですかタイムは未だ進行中だったらしい。さっさと諦めて答えちゃえばいいのに。
「……五十嵐創〈イガラシーハジメ〉だ」
「俺は藤堂凛〈トウドウーリン〉! よろしくな!!」
会長の顔がよろしくしたくないと言っている。ついでに言うと、こっちをすごく恨めしそうに見てる。見るな、バレるだろ。
「創、さっきからどこ見てんだ? ちゃんと俺の話を聞かなきゃだめなんだぞ!!」
あ、『俺の』って言った。そこは嘘でも『人の』にしとこうよ。自己中全開で笑っちゃうね。
ていうか副とか会計とか書記がすっげえ会長のこと睨んでるけど。大丈夫かね? ま、頑張れー。
「ああ、うっかりぼんやりしてたんだ。すまない」
「と、特別だからな! 創なら赦してやるよ! 親友だし!!」
へぇー…。親友なんだ。良かったですね〜とニヤニヤしながら口パクでそう言い、拍手をする素振りを見せてみると、会長のコメカミに青筋が出来た。うはは、怒ってる〜。
「何を笑ってるんだ? 庶務の有馬律?」
この野郎、と心の中で全力で罵ったのは言うまでもない。野郎、当てつけにばらしやがった。
「有馬? 有馬がいるの?」
「隠れ…てる?」
「出てきなさい、有馬」
なぜ仕事をさぼるお前ごときに命令されねばならない。このまま会長の一人演技として処理されればいいと思い、俺は一切の言葉を無視した。
が、この場に常識を知らない奴がいることを俺は忘れていた。
だって、普通人の仕事スペースに上がり込んで、人のデスク下をのぞきこんで初対面の奴の腕を掴んで引っ張り上げてくると思わないじゃないか。
だから、油断した。腕を掴ませてしまった。…触らせてしまった。
触れた途端に流れ込んでくる醜い感情の渦。
《欲》《欲》《欲》《欲》《欲》《欲》《欲》…
恐らく俺の顔を見たのだろう。触れた瞬間、奴の俺に対する情欲が流れ込んできて、気分が悪くなる。
──嫌だ。
気が付いた時には、後のことを一切考えず、奴の、転校生の腕を振り払っていた。
「やめろ…ッ! 気持ち悪りィ…!!」
敬語キャラを取り繕う余裕もないままに、俺は言い放った。一瞬、空気が凍った。
しかし、その空気を打ち破ったのはまたしても黒モジャだった。
「なんでそんなひど、ひどいこと…っ!! うわあぁあ!!」
「そーだよ! ちょっと顔がいいからって調子乗らないでよね〜」
「凛…泣かせた…死ね…」
「そうですね。身の程を知っていただかなくては」
選んだ言葉がまずかった、と遅まきながら気付いた俺だったが、どうにも体の震えが収まらない。まずい、どうしよう。
吐き気とパニックとで混乱して動けなくなった俺の背中を、何か温かいものが包んだ。
「大丈夫だ」
優しく背中を擦られ、すこし落ち着く。会長の気持ちが流れ込む。それは俺にとって甘く、優しく、落ち着くものだった。木の下で昼寝をするような、そんな心地よさに俺は息を吐いた。
「かい、ちょ」
「ん?」
「たす、かった。ありがと」
心地よさそのままににっこり笑うと、俺を罵っていた輩から転校生、会長を含む全員が固まった。
俺に見惚れるとは、奴ら本当に節操がない。
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