あの夏の日を忘れない
14
「お、応援……」

 親衛隊が親衛対象の恋人を良く思うかというのは、当たり前だが隊によるらしい。とはいえ、ここまでの歓迎ぶりも珍しいだろうと青の引きっぷりを横目に思う。

「えっと、つまりその、親衛対象である青と、俺の付き合いを認めてくれるってことでいいのか、な」

 剥がれかけた猫をかぶり直しつつ尋ねる。隊長の高梨は笑い声を零しつつ、俺の隣の青を見る。

「まぁ、平たく言えばァ〜、そうとも言えなくもないね、みたいな」
「そもそも夏目のこと親衛対象と思ってないし、俺ら〜」
「反応のいいおもちゃよな」
「な〜」

 きゃらきゃらと笑い混じりで繰り広げられる会話に、ぽかんと口を開く。

「あれ、あんま理解を得られてない感じ?」
「いや、何というか色々カルチャーショックで……」
「まぁほら、アレよ。俺っちたちは夏目の非公式親衛隊ではあるけど、便宜上そう名乗るしかないだけなの。ふふ、どっちかってーと応援(笑)し隊が本分だから、そう考えてもらった方が受け入れやすいんでない、ナイナイ? ブッフフ」

 語感のよさだけで喋っているのではと失礼なことを考えながら曖昧に頷く。

「赤。こいつらのことを理解しようと思っちゃだめだぞ」

 奇妙な助言を不思議に思う俺に、青は説明を足す。

「俺たち、よく街で遊んでただろ?」
「ああ」

 含むところが多い言葉ではあるが間違いではない。

「俺たちの横でよく笑い転げてる連中がいたのは覚えてないか」

 いただろうか。

「よく思い出せ。橙が赤に初めてアタックを仕掛けた日! 横でゲラゲラ笑って自販機横のごみ入れを蹴倒して笑い死にかけてたやつがいただろ」
「えー……」

 いたような気もしてきた。

「他にも、迷子になった桃を俺が回収に行くことになった時も過呼吸になるほど笑って地面でのたうち回ってたし、俺が赤に絡みに行ってあしらわれてる時もヒーヒー笑ってドブに落ちてたし、赤がでかいこと言った敵チームを五秒で伸した時も飲んだ水を鼻から零しながら笑ってたんだけど」

 あー………。

「それ、こいつら」

 とんでもないオチがきた。咳き込む俺に三人は「チスチース」とピースを決める。

「いやね、っふ、中等部の最初の方はつっまんねー顔してた夏目がある時突然面白くなってさ? 風紀室偶々通ったら相沢前イインチョーに赤兄貴のことプレゼンしてるじゃん? んっふふふ、まぁ気になって街まで着いてっちゃうよね。んで、フヒ、おもろいから親衛隊作っちゃうよね」
「夏目全く相手にされてなくてマジおもしろかった」
「サイコー、夏目サイコー」
 
 ぐっと立てられた坂本の親指を青が逆方向に曲げる。悲鳴を上げた坂本が「なんちゃって」と言いつつオモチャの親指を取り外す姿に、二人は膝を叩いて笑い転げる。二人の笑いに坂本も釣られて室内はもう笑い袋状態だ。

「夏目に時々着いてってたら、族と間違って絡まれるからまぁ退かすじゃん? ヒヒ、んで折角だから俺っちたちのチーム名も決めたのよ」
「――GeRerrrって」

 ゲラだから???
 
「ぶっふふダセー!」
「名乗りたくね〜! かっこわりー!」

 自分たちで付けた名前に大ウケする三人組。ああ、なんかこれ視界の端の方で見たことある光景だぞ。疲労感を覚え溜息を吐くと、青と溜息が重なった。言わずとも分かる。同じ気持ちなのだろう、三人を見る目がどこか遠い。

 ――「いや、あれは親衛隊っていうかだな」
 風紀室で青の言った意味が今なら分かる。確かにこれは親衛隊であって親衛隊じゃねぇな。親衛隊っていうか笑い袋だ。

「あ、そだ。ぶっふふ、GeRerrrからお二人にお祝いがてらちょっとした情報を」
「GeRerrrって、ふふ」

 笑いの余韻が残る顔で、精いっぱいの生真面目さを演出した高梨は、人差し指を立てて言う。

「げ、GeRerrrの仲間には俺たちの理念に共感した学外の子もいるんだけど」

 笑い袋に共感したやつがいるのか。笑いそうになった俺を遮ったのは、高梨からの情報だった。

「最近、Coloredの周りで不穏な動きがあるらしいよ」
 





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