Agapanthus




「やべー!やべー!夜中に出発するってドキドキする!!」
「前回お前ら遅刻だったもんな…」
「単細胞はいいよね…どこでも寝られてさ…」
「なんだと!!」
時刻は深夜0時…私は既に眠たい
みんな元気だなぁ……サーブ打ちすぎて私は体力無くなったぞ
「柚葵さん大丈夫ですか?」
「仁花ちゃん…私このまま寝れそう」
「柚葵さぁあん!?」
あ、やばい…ほんとに寝れそ……仁花ちゃんの温度心地良い…
「今回も早朝に向こうへ到着予定です。今回は有り難いことにOBの滝ノ上さんが運転手を申し出て下さいました!」
「チーッス、ウチで何か買えよ」
「お願いしあス!」
『しアース!!』
「夜中だから静かにねっ」
「あっスミマセンつい…」
うーん…みんな凄いなぁ
もう私は限界を感じてきたぞ
早く座席に着きたい……
「柚葵さん?柚葵さん」
「あー…仁花ちゃんが二人見える」
「わ、私が二人!?」
「そろそろ柚葵の限界点が越える」
「っえ」
「菅原!」
「ん?」
「柚葵連れてって」
「おー了解」
「(即了解なんだ……あ、菅原さん本当に柚葵さんの事好きなんだろうなぁ…柚葵さんも服握ってるかわいい…)」
「ひと、か、ちゃん…」
「違いますよ〜孝支くんですよ〜」
「んー…」
「「(菅原/菅原さん楽しそう…)」」

何故だか左側に暖かみを感じる
あれ…?私イマドコにいるんだろ
ガタガタと振動がお尻に伝わってくる
あ、そうか遠征……仁花ちゃんにすがり付いてからの記憶がないぞ?
ということはこの左側にいるのは仁花ちゃ
「すー…」
んが孝支先輩になった
あれ?おかしいな???なんだこの状況
またバスでのハプニングじゃないか!
あれだ、これはあれだ
先に起きちゃダメなパターンだよね?!そうだよね!?
よし、二度寝しよう

「柚葵、柚葵」
「んん」
顔に軽い衝撃がはしってる
何事……
「埼玉着いたぞー」
埼玉?埼玉……
「あ、目あいた」
「…?」
「柚葵起きろよ〜」
「こ、う…し……」
「!」
「せん、ぱ……い?」
「あ、ああ……(び、びっくりした…心臓に悪すぎる)」
目の前に色素の薄い髪と特徴的な眉毛…
孝支先輩が、目の、前……?
「ふぁ!?」
「うぉ!!?」
「お、おおおおおはようございます!?」
「お、おはよう」
「バ、バス先降りますね!!!」
「あ」
急いで身を整えてバスからかけ降りた
二度寝してたらまさかの起こされる方になってるだなんて…!
こっちもこっちで心臓に悪い!

一方バスでは
「赤い顔見られなくて良かった…」
片手で顔を覆う菅原が取り残されていた


「よう」
「ん?」
「よく寝れたか?」
「あ、クロ」
「迎えに来てやったぞ〜」
慌てて降りたバスの外にはクロと研磨達が迎えに来てくれていた
あ、そうだ…私合宿中クロ達と一緒か……クロと…
「…え?なに?なんでそんな嫌そうな顔してんの」
「クロにこき使われる合宿にまたなりそうだなって」
主に自主練で
「違いねぇな」
「なあなあ!スカイツリーどこ!?」
朝から元気ハツラツな翔ちゃんが前回誰かが言っていた台詞を叫んでる
平和だなぁ……
あ、孝支先輩もバスから降りてきた
「えっスカイツリー…?」
「あっ!アレってもしかして東京タワー!?」
「エ"ッ…あれはー…普通の鉄塔…だね…」
あ、まただ
またクロの顔が悪い感じにニヤついてる
「なんなの宮城には鉄塔ないの?あの会話デジャブるんだけど」
「東京にある鉄塔は大体東京タワーに見えるんだよ地方人は!」
「おい暴言。あとここ埼玉な」
珍しくムキになった大地さんに対して孝支先輩が突っ込んだ
今回は森然高校で合宿らしい
虫は多いけど涼しいから夏にはもってこいな合宿場所なんだとか
「日向ー!身長伸びたかー!?」
「リエーフうるさい」
「第一声から失礼だな!たった2週間で伸びるか!!」
「俺は2o伸びたぞ!」
「ガーン」
今日も今日とてリエーフくんの調子は良いらしい
「という訳で今回も柚葵を頂いていきマスネ」
「あげないんで、貸すだけナンデ」
恒例のクロと大地さんの手の握りあい(あれは握手じゃない)でよく分からない争いをしてるけど、知らないふりして研磨に着いていく
孝支先輩とはしばらく離れちゃうけど、なにかあれば話しかけにいこう
さっきも急いでしまってたから、変に思われてなければ良いな…

「今日最初は試合ないんだね」
「おー」
「ちょっと気になるから烏野みててもいい?」
「…それは俺に許可とらなくてもいいんじゃね?」
「まあ、一応音駒にいるし…キャプテンに許可もたなきゃダメかなって」
「変な気を使うなんてなんかあったか?大丈夫か?」
「今日第3体育館行くのやめよ」
「すまんかった許せ…まあ、猫又監督もみるようだし一緒にみてくれば?準備終わったら」
「仕込み終わってるから大丈夫」
「はえーな」
「じゃあ、ちょっと監督達のところ行ってくるね」
「おーいってらぁー」
今回烏野は今まで実戦で試したことがないことを、ぶっつけ本番に試す
本来ならば慣らして試すとは思うけど、烏野に慣らすという言葉は通じない
しかも今日の一番最初の相手は梟谷
「こんなもってこいの舞台…生かさないわけないわ…」
好都合な相手にどう立ち向かっていくだろう
「おお、来たかね」
「お邪魔してもよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
丁度試合が始まるようだ
メンバーに翔ちゃんが入ってる…
うん、ボールペンを何度もカチカチと鳴らしてしまう
こっちが緊張してどうするんだって状態だけど…わくわくする
さあ
「っしゃあ!」
ゲーム開始だ

「西谷!」
「ッシャア!!」
「ナイスレシーブ!!」
綺麗に飛雄の元へと上がるボール
ここからの攻撃はやはり…
「あのヘンな速攻来るぞ気をつけろ!」
新しくなった速攻のお披露目になるか…?
てんっコロコロコロ…
…滑らかな音が静寂なコートに鳴った
翔ちゃんの元へと行くはずのボールは1人分短く落ちてしまった
「どうした影山!らしくねーな!」
「スンマセン…!!」
あの神業を数日で完成させたらそれはそれで
「化け物だよ…」
まだまだ未完成で正解だし、それに
「翔ちゃんは気づいた」

尚もミスは続き、トスが短くなったボールに対し翔ちゃんは左手で落ち着いて処理することを見せてきた
それぞれが違う事を実感し始めている今
「ほほーっ」
「…楽しそうですね、猫又監督」
「実際楽しくみさせてもらってるよ」
前と違う烏野に気づいた人もいる
この歯車が揃ったときが烏野の本気だよって今は見せつけとく時期
「うーん小気味良い!小気味良い程に!噛み合ってないねぇ!」
「アッ」
孝支先輩が入ったコートでは、練習していたシンクロ攻撃をやろうとしたのだが
「……ミスもつきものですから」
「うんうん」
ボールは選手たちを無視するかのように、頭上を越えて行ってしまった
猫又監督を楽しませるのは今の内だけにしたい!
「スマーン!」
「うお!?烏野の連中!今、シンクロ攻撃やろうとしてなかったか!?」
謝る姿がかわいすぎです孝支先輩
「レフト!」
「スガさん!」
「スマンカバー!」
スパイクをレシーブしたのは孝支先輩
ということは
「任せろォオ!!!」
「おおっ!?」
バックゾーンから踏み切ってのリベロのジャンプトス
これには猫又監督も驚いてはいるけど、夕よ…
「あっ」
「ア"ッ!?」
ボールはそのまま触れられることなくコートへ落ちる
夕はネットギリギリに着地
跳びすぎである
「おい、あいつら今日どうした大丈夫か」
「くっそー!!」
今はいい
今はいいんだ
「どうしたんですかね、烏野……柚葵さん、皆調子悪いの?」
「いえ」
「ほほ!その逆じゃないか」
「?」
「やっぱり気づかれてましたか」
「カラスだけあってさすがの雑食性。深い山の奥だろうと歌舞伎町のど真ん中だろうと食べられるモノは全て食べ、自分より強い者は利用し、生き残る」
脳を使ってるように思えて本能で動く
「恐らくあれは驚くべきスピードで進化している途中だよ」
「木兎さん!!」
「オラァッ」
スパイクはブロックをはね除け烏野のコートに決まる
そう、1人だけまだカラスに成りきれていない
「――…ツッキーは除いて…ですけどね」
「…やはりそうか」
何かがツッキーにはある気がする…
それを取り除けれさえすればきっと月島は
「さて、今度は我々の番だよ」
「はい」
まずは目の前に集中しよう

「お疲れさまでした」
「おー…」
今日の試合はこれで終わった
あとは自主練習の時間だけど、ちょっと今だけは…
「…気になんなら行ってくれば?」
「っえ"」
「烏野…今日全敗だろ?」
そう、我が烏野は新しい事にチャレンジしまくったお陰で全敗
今も絶賛負けへの道まっしぐら
「まっ少しぐらい遅れたって気にしねーから行ってこいよ」
「…いいの?」
「今日は鍛えなきゃならんやつもいるしな」
といいながらクロの視線は発展途上のルーキーくんを捕らえた
ああ、今日レシーブがやばかったもんね
「ありがとう、クロ」
「おー」

「ハァーッ」
「見事全敗…」
「いっそ清々しいな」
「こんなにダッシュしたのは烏養監督が居た時以来っス…」
「ですよね〜」
『!』
「お疲れ様です皆さん」
『柚葵!』
「…俺は夢を見てる?」
「孝支先輩、私からは綺麗な目が見えてますよ?」
「幻覚?」
「スガ…」
「スガさんがおかしい…」
ダッシュを終え、芝生で伸びていた孝支先輩と大地さんと龍の元に忍び寄り、孝支先輩を上から見下ろしてみたんだけど
「大丈夫ですか…?」
「うん、元気でた」
「ならよかったです。皆さんタオルどうぞ」
「あれ?音駒はいいのか?」
「はい、自主練習に入ったので」
「あー…ペナルティーしてるの俺らだけだから…なんか惨めな気がしてきてしまうな」
「ペナルティーもペナルティーでやるだけ力はつくんでやると得!くらい思ってたらいいんじゃないですか?」
「…だべー」
「それにしてもヘンな感じがするな」
「柚葵にタオル渡してもらうの久々だかんな」
「ふふ、私もそう思いました」
マネージャー業を烏野でするのは久々だなぁ
こんな風に皆の顔色伺いながら出したりするの
「今日シンクロ攻撃失敗してましたね」
「…見られてたか」
「今は失敗していいと思いますよ」
そのための練習試合なんだから
「よし!ちょっと烏養さんにiPad借りてシンクロ攻撃の動画確認すんべ!」
「よっしゃ!」
「っス!」
「俺はサーブ打ってく、全然足りねー」
「柚葵は?」
「今日は少し孝支先輩達のシンクロ攻撃の様子を見て第3体育館に戻ります」
「おお!柚葵がいてくれるなら助かるな!」
「よっし!んじゃ早速いくべー!」
「え!ちょちょちょ!こ、孝支先輩!」
助けてー!という私の声は皆に無視をされた
手を握られて下り坂をダッシュは流石に怖いです孝支先輩!!
「こ、こうっ!こうし!せんぱっ!まっ!!あっ」
やばい!!転ける…!!
身体がふわりと浮いた感覚が分かった瞬間視界を閉じた
それと同時に捕まれていた方の手が引っ張られ暖かいなにかに包まれた
「い……いたくない?」
もう地面と対面するはずなのに痛さはなく、この安心する感じは一体…?
「柚葵、大丈夫?」
孝支先輩の声が間近から…?
「あ、あれやばいな」
「だめだ…!柚葵が!」
抱き締められ……???
「ひえ……」
「柚葵…?柚葵!?」
私の記憶はそこで途絶えた

「やりすぎた」
「やりすぎだな」
「だってまさか意識失うとは思ってなかったべ……そんなに怖かったんだな…」
「「(それは違う)」」
「…にしても清々しいなんていったけど、不甲斐ないよな」
「?」
「全敗って、伸びしろがあるにしても"全部負けてる"」
「…そうだな」
「それだけまだまだ努力が必要なんだ。影山、日向にだけに頼ってたら甘えだもんな」
「まあ、スガはスガだし、影山は影山だからな」
「だべ。だから決めた」
大地達にはこの間誓ったはずだけど、この現状を素直に受け止めることは俺にはできない
それに、なんでも器用にできる訳じゃない
今は、今だけはこのメンバーを優先したい
この面子で春高に、東京にいきたい
だから
「ん?」
「やっぱり俺、春高予選まで…柚葵には…」

ーー…

「本当にすみませんでした…!」
「俺も無理やり引っ張ってたしお互い様だべ〜」
そんな気にすんなくていいのに〜なんて、にこにこしながら隣を歩く孝支先輩に言われたのだけど
気にするわ!!!
あの、あの抱擁でよもや倒れるとは……仕方ないけど!仕方がないのだけど恥ずかしい!恥ずかしいもんは恥ずかしい!!
「さっ!気を取り直して今日もよろしくな!」
「…はい!」
過ぎたことはしょうがない!今日は少し長い時間孝支先輩と一緒にいれるんだ
「厳しめでいきますよ!」
「…できればお手柔らかに頼みたいなぁ」
聞こえなかったフリをしておこう
「龍!いつも通り自信がある感じできて!」
「う!うぃっす!!」
「大地さんはレシーブと同時に走れるようにしてください」
「わ、分かった」
「孝支先輩は迷わないでください!迷った時点で失敗です!」
「は、はい!」
「(((き、厳しい)))」






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