Agapanthus




私は調子にのり過ぎたのかもしれない…
思わずそう思わずにはいられない事件だ
だって、まさか
「このタイミングで、風邪引く?普通……」
あり得ないデショ
人生で1番大切な日と言っても過言ではないこの日に、まさか熱がでると誰が思うだろう
……いや、昨日の私が確実に悪い自覚はある
あの後逃げるかのように家に帰ってきた私の手元の携帯が、便利アプリの通知が着信を知らせるための振動を手に与えていた
そのまま何気なしに画面を覗いた目に入ってきた
"明日楽しみにしといて"
の、文字に動揺しすぎた
色々と考えながらお風呂に入って、髪を乾かす事を疎かにした為の結果がこれだ
遠足が楽しみで寝れなかった子供か!と自分に言いたいくらいに内心はしゃいでしまっていたらしい
「うううう、なんでこうなるの……」
普通に、風邪だわとお母さんに言われてしまった…
学校に休みの連絡を入れてくれたお母さんに感謝だけど、今日だけは行かせて欲しかった
そしてお母さんから情報を仕入れたのか、幼馴染み達におしかけられる始末
「なになになに!柚葵ちゃん風邪引いたの!?人肌恋しいよね!?そうだよね!?よーし!今日は徹ちゃんが横で一緒にねて「クソ川ボゲェ!!!!!」アゲェエエエ!!!」
…簡潔に説明すると岩ちゃんがその辺にあったティッシュ箱(お洒落な木箱に入れてる)を、豪速球で綺麗に角の部分を徹くんの後頭部に当てた
素晴らしいピッチングでした
そしてそこで徹くんを死なせない程度に痛め付けるのは流石である
「岩ちゃんアホなの!?俺死ぬとこだったよ!?」
「そんなんじゃ死なねぇよ!それよりも、てめぇが居たんじゃ話にならねえだろうが」
「だって柚葵が1人で可哀想!」
「いや…キニシナイデクダサイ」
同情はいらないから学校へいかせてください
……そうだよ、学校に行けなくて可哀想なんだよ!!
「今の大事な時期にお前が風邪引いたらどうすんだ」
「だって岩ちゃ」
「柚葵は子供じゃねぇんだ。その辺いい加減理解しろ」
「う"」
「柚葵すまんな…どうしても心配で、朝練無いから見舞いだけ来させてもらったわ」
「わざわざ大丈夫だったのに……風邪移っちゃうよ?」
「これくらいなら風邪は引かねえよ。こいつが添い寝するとかほざくから言っただけだ」
「馬鹿は風邪引かないもんね!」
「………」
「………」
「とうとう認めたな」
「認めたね」
「は!?なに!!?ふたりして!!」
徹ちゃん怒ったんだからね!とか言いながらもタオルをかえてくれる徹くんは優しいと思う
あ、そうか……元気だせよって意味で……
相変わらず幼馴染み達は分かりにくい性格をしているのだなと実感させられた
そして、そのお陰で孝支先輩に返事を返すのが遅くなってしまった
あの連絡の後になんで
"孝支先輩、すみません。風邪引いちゃいました……また埋め合わせします、すみません"
なんて打たなきゃならんのだ
恥ずかしすぎる…人生の汚点だよ……
「孝支先輩、どう思うかな……体調管理できないって呆れられてなければいいんだけど…そういう訳にもいかないよね」
あー…ほんと、今なら弾丸サーブ打ちまくるから風邪を治してほしいと神に頼めそうだ

その頃の烏野ー…
「はぁ…」
「?どうしたスガ」
携帯を握りしめる菅原に、クラスメイトでありチームメイトである澤村がお気に入りのジュースを飲みながら問いかける
その飲み方が豪快に見えるのは彼のガッチリとした体型だからかもしれない
それに反する菅原はため息の効果もあって、いつもより一回り小さく見えるようだった
「今日こそ勝負しようと思ったんだけど…」
「っえ!昨日してなかったのかよ!?」
「……いや、昨日してみろ?多分パンクして避けられるべ?」
「そんなことないと思うんだがな…」
昨日の二人の姿を思い出しながら、澤村はパンにかじりついた
「(むしろ、なんで付き合ってないのか疑問に思うくらいだったけどな)」
「んで、昨日勝負の下準備をしたんだけど…」
「おお!」
ようやく動いたのか!といいたげな顔で菅原を見る澤村は、手に持っていたパンをそのまま菅原に向け
「んで?結果どうなったんですか菅原選手」
インタビュー風に茶化したのだが
「延長戦に持ち込まれました」
「…は?」
思わぬ回答に動揺したためか、菅原がパンにかじりつくまで固まっていた
「っあ!おまっ」
「風邪引いたって連絡きた」
「風邪?」
あの、いかにも体調管理は第一の基礎!と言ってそうな柚葵が?と澤村も驚く
「俺も避けられてるのかなぁって思って、縁下にそれとなく聞いてみたら本当に風邪で休んでるらしくて」
「まあ、今日の朝は自主練だったから来ないことに関しては良いにしろ、あの柚葵が来ないなんて珍しいなとは思ってた所だったが…」
「だべー…あーこんなことならズルズルするんじゃなかった」
そう言って菅原はそのまま机に頭からくっつけた
「(その自覚があるなら進歩だな)」
「ぜってー…今度は逃がさない」
「……ほどほどにな」
二個目のパンに手を伸ばした澤村が見たのはいつもより冷静な目をし、口には笑みを浮かべる菅原だった
「(あ…これ時間の問題だな)」
清水に連絡しなくては…といそいそと携帯を取り出す澤村を
「(もう大地達にはもどかしいと思わせるつもりはないからな)」
決心がついた菅原が静かにその行動を見てめていた

ピピッピピッ
「…下がったわね。無意識に無茶しすぎて頭がオーバーヒートしてたんだわ」
「オーバーヒート…」
「風邪といえば風邪だったし、部活も丁度なかったんでしょ?休んで正解よ」
確かにそうなんですが本日はメインイベントが控えてたんだけどな!……なんて言えないけど
「そういえば繋心くんからフルーツもらってるわよ」
「烏養くんから…?」
「あと、元気になったらメールでいいから連絡くれって言われたけど…なにかした?」
「…いや、なんもしてないから部活のことだと思う」
何か裏があると思ったよ烏養くん

「という訳で手っ取り早く電話してあげたよ烏養くん」
「…俺、歳上なんだが」
「療養中の私に連絡してこいっていう方がどうかと思うけどね」
これがデート中じゃなかったことが幸いだわ
「まあ、一代事件でもあったから電話してきたんだと思ってるから話は聞くよ」
「あ、ああ…ちなみに昨日の日向と影山が衝突した事は…知らねぇか」
「え、なにそれ」
「……だよなぁ…お前真っ先に帰ったもんな」
「ちょっそれはいいから詳しく!」
なんでも私が自分の事にいっぱいいっぱいになってる時に、あの変人コンビはなんと練習をしていたらしい
しかも、谷地さんを巻き込んで
通常ならバレー馬鹿が発動してしまったのか〜と受け流すところだけど、あのギクシャクした後だ
翔ちゃんも試合に出られなかった分相当たまっていただろう
欲のままスパイクに挑んだが、コンビネーションは失敗
しびれを切らした飛雄が今の翔ちゃんを全否定したらしい
それに怒ったか悔しかったか分からないけど、あの翔ちゃんが飛雄に飛びかかったらしい
幸い谷地さんが龍を連れてきて大事にはならなかったようだけど、怪我も被った二人は更に険悪ムードになってしまったらしい
「事態は最悪の方向にいってるじゃない」
「そうなんだが、な」
「?」
「日向も影山も目標が定まった」
「どういうこと?」
「今までは二人で鍛えさせていたもんだが、今度は己達個人を鍛えさせる」
「というと?」
どうやら烏養くんは、翔ちゃんを烏養くんのおじいちゃんである烏養(元)監督の元へと送り出し、飛雄には翔ちゃんの空中での余裕をもたらすため
「スパイカーの打点付近で勢いを殺す?」
「ああ」
「…普通に考えて人間に出来ることだとは到底思えないんだけど?」
「いや、あいつはやれる。今までの変人速攻のトスも神業だ。人間にできることを証明したやつがやるんだ」
「確かにそうだけど」
飛雄に負担をかけすぎないだろうか?
「あいつは及川徹みたくスパイカーが求めるトスが100%出きるわけでもねぇ」
「飛雄はコート上の王様だから…か」
「だが、自分で攻撃に繋げてぇやつに出来ない事はないからな」
なるほどね
バレー馬鹿な天才は成し遂げてくるか
その後、烏養くんは明日来れるようにちゃんと寝ろよ!と言って電話を切った
………まって
変人コンビ問題は解決したけど
私の問題解決してなくないか

そして時は待ってはくれないのだ
「おはよ」
「お!?おおおおはようございます!!」
「はは!元気になって良かった」
「こ、孝支先輩がいると思わなくて驚いたからですよ!」
「ん?だって熱下がって学校いけるって言ってたべ?迎えに行くっしょ」
普通に朝練向かうために家の曲がり角を曲がった瞬間、想い人がいたらそれはびっくりするでしょ
しかも、まさか朝一番に顔を合わせることになるなんて思ってなかったから心臓が忙しく動いてる
「また、昨日のリベンジはさせてな?」
「っへ!?」
孝支先輩、怒ってなかった…?
「…別に怒ってないからな?そりゃ避けられたりしてだったら怒るだろうけど」
「えっ?私」
「顔に出てた。柚葵の事はすぐ分かる」
それって、プラスに考えていいんですか…?
私は孝支先輩にとってどんな存在?
「柚葵は特別」
顔を少し傾けながら放たれた言葉に私の思考は停止寸前だけど
「ほら、早くしないと大地に怒られちゃう」
ねえ、孝支先輩
それは、妹みたいな感情ですか?
それとも

恋愛感情ですか?

鈍い私でも分かってしまったかもしれないんです
そんな瞳で語られると、嫌でも分かっちゃうんです
このまま、曖昧な関係でいいんですか?
ぎゅっと鞄を持つ手に力を込めながら、これが孝支先輩の手だったらどれだけ良かったか…と思いながら私達は学校へ急いだ
「柚葵、おはよう」
「潔子さん…」
「…なにかあった?」
また顔に出てしまってたのかな…もどかしいこの距離とさよならするために潔子さんに頼っていいものか…
これは何となく私が、私達が解決しなくちゃいけない気がする
「私は大丈夫です!自分で解決してみせます…!…ただ、谷地さんが大丈夫かな、と」
「仁花ちゃん?」
「はい、翔ちゃんと飛雄の騒動がトラウマになってなければいいな…と」
男子高校生の喧嘩なんて容赦のないものだっただろう
私の問題より、その喧嘩を目の前で見ていた谷地さんが二人を見て怖いと思わないか心配だ
「大丈夫だよ」
「?」
「仁花ちゃん、柚葵が思うより強いと思うよ。今日も私達より早く来てるし」
「え」
潔子さんの視線の先を辿ると、綺麗に畳まれた制服が既に籠に入って仕舞われていた
「…なるほど。流石、曲者1年生組と付き合える女の子ですね」
「柚葵は仁花ちゃんが入ってから思い詰めてるよね…?自分の存在意味を考えてる」
「え"」
思いがけない言葉に手元が狂った
するっとスカートがそのまま重力に従って落ちていった
「東京合宿の時、私は悲しくなったんだからね」
「き、潔子さん?」
そうだった
すっかり忘れてしまっていた
潔子さんがその話題を出さないから、てっきり気にしていないものだと思っていたけど
「…私が柚葵に相談せずに仁花ちゃんを連れてきたから、柚葵が自分をいらないって思っちゃったんじゃないかって」
「!」
そうは思わなかったといったら嘘になる
私はマネージャーを出来ていないことを潔子さんに悪いと思っていた
潔子さんは潔子さんでこのまま烏野が強くなるなら、私1人にマネージャーをさせる事に負い目を感じていたから新たなるマネージャーを探してきた
勿論、自分が居なくなるから後釜を探してくれたのが大きな理由というのは分かってる
だけど、心の中で私は頼りなかったのか
相談も何もなしに谷地さんを連れてこられた事に虚しさを感じたのも事実
「そう、思ったことも、あります」
「うん」
「でも、ちゃんと私の事を考えてくれて嬉しいって思ってもいました」
ああ…今日はなんて日だろ
知恵熱が出そうなくらいに頭がパンクしてるけど、ここで逃げてはダメだ
「だけど、谷地さんが入ってきて心から歓迎してない自分がいて、そんな自分に嫌気も指して…恥ずかしくて…!」
こんな気持ちになるのはあのとき以来かもしれない
「こんなやつだと知れたら皆に嫌われる、それなら離れてしまえばいいとも、多分心の中ではあったんだと思います」
「柚葵…」
ジャージのファスナーが上がる音、私の息の音、潔子さんの息の音
周りは静寂で世界から切り離されてるみたい
「でも、間違いでした。谷地さんと話してて分かったんです。なんて勘違いをしてしまったんだろうって」
皆に心配をかけてしまった
なんて子供じみた拗ねかたをしてしまったのだろうかと
谷地さんはなにもしてないのに、自分は人を評価してたんだと
そんな資格もないのに
「馬鹿だな、と思いました。人それぞれなのに何決めつけてたんだろうって。私はいらないなんてなんで皆が言ってもないのに自分が評価して思ってしまって」
過去のトラウマもあるからなのかもしれないけど
「今は私を必要としてくれてる人が烏野にもいるって事は分かってるつもりです」
「柚葵は烏野に絶対的に必要な人だと私は思ってる」
「!」
「だから、柚葵は存分にしたいことをしてほしい。そのためのサポートも私と仁花ちゃんでするから」
「潔子さん…」
「私も相談できなくてごめん。忙しい柚葵に負担かけさせたくなかった…でも、勘違いさせるのも良くないよね。今度からはちゃんと三人で頑張ろう」
「はい!」
一つの歯車が噛み合った

「おー柚葵、復活したか」
「…烏養くん、今日は病み上がりだからサポートで」
「わーってる。それで例の件だが」
「柚葵、私は先に行ってるね」
「あ、はい」
本音が言えてスッキリしたからか、潔子さんがマネージャーの仕事に急いで行く姿にも罪悪感を感じなくなった
「…なんか成長したか?」
「秘密」
「……そうかよ。とりあえず日向の件だが、今の段階で影山と同じチームだとお互いが気が散ってしまう可能性があるよな」
「主に飛雄は、誰よりも厄介な敵は翔ちゃんだと思ってるからね…多分今は離しておいた方がいいと思う」
「そしたら当分日向はBチームで鍛えさせるか」
翔ちゃんがBチームに入ることによって大分変わってくる
まず、変人速攻コンビがいないから点の取り方も変われば、翔ちゃんの攻撃がシンプルになる
そこから皆がどうやって点をとるか…
「あ」
「ん?」
「烏養くん、ちょっと考えがあるんだけど」

「じゃあ、今日はここまで」
「自主練したいやつは女子の方に許可取ってるからそこでも練習していいぞ」
東京から帰って来て皆が自主練をしたがるものだから、大地さんは女子バレー部のキャプテンに声をかけてくれたようだった
確かにみんなやりたいことはバラバラだもんなぁ
「柚葵」
「はい」
そんな私は第一体育館にいる
新しい武器を備えるために
「これって?」
「ブラジルの攻撃の動画?」
烏養くん自前のi Padで動画を再生する
「…おっ一斉に動き出した!」
「確か、森然の攻撃がこんなだったな」
「そうです。うちには飛雄という天才がいるかもしれないですけど、孝支先輩みたいに静かで丁寧にゲームメイクしていくセッターもいます。その中で攻撃の数を増やすことは」
「ブロックを欺く事に繋がる」
「はい。この同時多発移動差攻撃(シンクロ攻撃)が出来ることによって、飛雄のような完全攻撃セッターから変わった孝支先輩も誠実且つ攻撃セッターになれると思いまして」
「攻撃的に……」
「ただ、シンクロ攻撃は見よう見まねで出来るものではなくて、相当難しくはなると思います。ですが、今の烏野にもっとも向いている攻撃方法だとも思います。どうでしょうか?」
今日の朝、烏養くんに提案した案だけど、みんなが乗っかってくれるかわからない
だけど、やる価値はあると思うんだ
「…やろう」
「孝支先輩…」
「今持てる武器があるなら持っといて損はないだろ?」
「はい」
「よっしゃあああ!!!俺は俄然やる気が出てきたぜぇええ!!」
「龍うるさい」
やらないなんて選択肢は最初から無かったみたい


「夏!!休み!!だーっ!!やることは大して変わんねーけどなーーっ」
時は流れて夏休み
何時ものように部活がある毎日
今日は潔子さんと仁花ちゃんと(名前呼びさせてもらう事にした「ずっと思ってたんだけど!仁花ちゃんって呼んでいい!!?」「ひぇ!?あ、はははい!!」という感じで)武ちゃんで、部活が終わる少し前におにぎりをみんなに振る舞おうと家庭科室を借り、作ったものを体育館の道のりを歩いていると雄叫びが聞こえた
「恥ずかしくないのであろうか」
「田中さんらしいですね」
「皆…自主練の前に、おにぎり要る?」
潔子さんの言葉に
『!!!要りますっ』
犬のように飛び付いた龍、夕、翔ちゃん
そして
「柚葵の握ったおにぎりどれー?」
「こ、孝支先輩」
「これかな?」
ちょっと歪な形になってしまったおにぎりを指差す孝支先輩
「あ、当たってます…」
「お、当たった?前まで食べてたもんな〜柚葵のもーらいっ」
そう言いながら美味しそうにおにぎりにかぶり付く孝支先輩を見て錯覚を起こしそうになるけど
私達付き合ってないですよね!!?
「おお、スガがやりおる」
「柚葵ちゃんの挙動不審感すごいな」
「菅原が本気だしてきた…」
3年組は静かに見守るのであった

「さて、明日から再び東京遠征です!今回はまるっと一週間!長期合宿は春高予選前、最初で最後です。悔いの無い様、このチャンス貪り尽くしましょう」
『(言い方…)』
ここで歯車を噛み合わせなければ次はない






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