あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 13


「アスラン起きろーー!!」
「ん・・・?」

カガリの呼び声でアスランは唸り声をあげる。

「カガリ、おはよう」
「おはよう」

むくりと布団から出てきて上体を起こしたアスランはぼーっと宙を見る。
頭をボリボリと掻く姿はかつて軍学校で学年一のエリート生とは思えない程の
間抜けさだ。
けれどそんな姿を見られるのが自分だけだと思うと愛おしくてしょうがない。

「ご飯できてるぞ!」

もう一度そう呼びかけてカガリはアスランの部屋から出た。

この家でアスランと二人暮らしを初めて1ヶ月になる。
結局アスランと私が軍学校を辞めて頼ったのはアスランの父親だった。
銀髪でどこか強硬そうな佇まいに鋭い目。
第一印象は正直に言えば少し怖かった。
けれど笑うと目元はチャーミングな皺が刻まれ、
不思議な程アスランと似たものを感じた。
手術を受けると聞いたとき彼は本当に嬉しそうに笑ってくれた。
あのときマメが潰れた硬く大きな手でした握手の感触を私は一生忘れないと思う。

『ありがとう。カガリさん・・』

息子を私の勝手な我儘で殺すかもしれないのに。
それでも希望へと歩みを進めた息子をどこか誇らしげに
彼は笑ってくれた。
それに私は随分と救われた。

お前はアスランを好きでいていいんだよと言われたような気がした。

「アスラン、飲み物は?」
「んーー、コーヒーで」
「了解。淹れておくから顔洗ってこいよ」
「ーーん」

返事とも頷きとも取れない言葉でアスランは洗面所へと向かった。
少しして戻ってきたアスランは顔を洗い、櫛で髪をとかし終え、
席に座った。
ものの数分でいつものかっこいいアスランの出来上がりだ。
いくら櫛でといても寝癖が直らずヘアースプレイとヘアーアイロンで
格闘した自分の髪を無意識に撫で付ける。
カガリもアスランの前の席に座って手を合わせた。

「カガリ」
「ん?」
「今日病院一緒に来るんだよな」

食器を流しに置いて腕まくりをしたところで、
アスランが声を掛ける。
振り返ってアスランを見る。

「当たり前だろう?
第一家にいてても何もすることないじゃないか、私」
「・・・・そうだな」
「何だよ」
「うん。
いよいよ明日なのかって考えたら、ちょっとな」

そう。
メンデルに来て、ユーレンという人に治療をお願いした。
薬治療は概ね良好。
そして今日の診察結果によって、アスランは手術を受けて凡そ2年の眠りにつく。
しかも眠りについたまま目覚めない可能性の方がずっとずっと高い。
怖くないかと聞かれたらもちろん怖い。
それでもアスランと一緒に生きる未来に希望を見ずにはいられなかった。

・・*・・

その日の診療結果は良好だった。
ウイルスも薬の効き目もあり随分と活動が緩やかになったらしい。
明日手術を行います。よろしいですね?
ユーレン医師の言葉に私とアスランは頷いた。

そしてふたりが暮らす家に帰ってきた。
明日からはここに一人で帰ってくるのだと思うと寂しい。
ふたりで過ごすのが当たり前だったからひとりで過ごすことを考えると不安になる。

「なぁ、カガリ・・」

そうしてぐるりと部屋を何となしに見ていたらアスランが私を呼んだ。
大好きで愛しい人の声。

「もしカガリに好きな人が出来たらさ、」
「アスラン、私怒るぞ」

非難めいた表情でカガリがアスランに詰め寄る。
アスランは微笑みカガリの掌を両手で包み込んだ。

「カガリ、冗談じゃない。
大切なことだかたらちゃんと聞いて?」
「・・・・・」

聞きたくないとい逃げ出したいのに
アスランの真剣な目がそれを拒む。

「もし俺が2年経っても、3年経っても5年経っても目覚めなくて、
カガリが俺よりも一緒に生きたい人が出来たなら」
「・・・アスラン!!」

フルフルとアスランが首を横に振った。

「俺を殺して」
「アスラン!!??」

何を言っているんだ!!
もう我慢が出来ないという風にカガリは拳を振り上げるがなんなくアスランによってそれは止められる。

「父に話して置いた」
「あすらん・・?」
「もし、俺がいつ目覚めるか分からなくても少しでも可能性があるなら、
生命維持は続けて欲しいと。
けれどそれでももし、カガリが、カガリに大切な人が出来たなら。
俺がいらなくなったら」
「アスラン!!」
「カガリに俺の生命維持装置を止めて欲しい」
「アスランッ!!!!」

悲痛なカガリの叫び声にも変わらずアスランは微笑んだ。
ポロポロのカガリの瞳から零れる涙をアスランは拭った。

「せっかく目覚めてもカガリが傍にいてくれないのなら、
生きている意味なんて俺にはないから」
「そんなの、そんなの絶対にないっ!!」
「人の気持ちに絶対なんてないよ」
「そんなことない!!」

私の中にあるのは確かなアスランへの恋心だ。
ずっとずっと続く。
変わったりなんかしない。

「・・・・・そうだな。
じゃあ俺にそれを証明して?
目覚めた時にカガリの顔が一番に見たい」
「言われなくても証明してやる!!
絶対!!絶対に!!私の気持ちをお前に知らしめてやる!!」

くすくすとアスランが笑った。

「うん。
待ってる」

アスランが柔らかく笑ってカガリを抱きしめた。

「うわっ」

アスランの手が頬を撫でて見慣れた顔が近くにあることに気付く、
カガリはそっと目を閉じた。

「・・・・・・んっ・・ふあっ」

なぞる様に唇が触れ合って、下唇を啄む様キスをされる。
アスランだってキスの経験値は私と同じだと思っていたのに、
いつのまにか翻弄されている。
何だかそれが悔しくてカガリはアスランの唇を啄むように唇を奪った。
アスランは少し驚いた様だが、目を閉じてそれを受け入れた。

唇と唇を離し息がかかる距離感で見つめ合う。

「ははっ、ちょっとびっくりした・・」
「・・・・アスラン・・、なんかキス慣れてる・・」
「??
そうか・・?カガリだって自分からしてきてたしお互い様じゃないのか?」
「あっ、あのな!?」
「そりゃ慣れもするさ。
こんなにいつもカガリとしてるんだから」

もう一度アスランに唇を奪われる。
アスランにキスをされるとドキドキしてアスランのことしか考えられなくなる。
アスラン、好き、大好き。

「ふ・・っ・」

口内にアスランの舌が入ってきて、舌を絡み取られる。
頭がクラクラする。
アスランが好き。
抱きしめてくれるアスランの腕が好き。
触れ合うだけで熱をくれる唇が好き。
目を開けると入ってくるアスランの長い睫毛が好き。
ふとアスランの目が開かれて柔らかく細められたアスランの瞳が好き。
全部好き。
だからアスランがいつかいなくなるなんて考えたくなんかない。
ずっとずっと、アスランと一緒にいたい。
アスランがいなくなるなんて考えたくもない。
それなのにアスランはそれを笑って受け入れる。
分かっている。
アスランはたぶんそう強く生を望んでいるわけではない。
私が望んだからアスランは生にしがみ付いてくれただけ。
だからそんなありもしない可能性を口にする。

私が他の誰かを・・なんてある筈がないのに。
第一出会ってからずっと、アスランがいないときだってずっとアスランが好きだった。
アスランとの約束を覚えていた。
覚えていても仕方がないって、アスランはそこかにいっちゃったんだって、
諦めようとしたのに消えなくて。
再会して、アスランに私よりも大切な人がいると知って傷ついて、
アスランに跳ね除けられたってそれでも今こうしてアスランと一緒にいたいと思っているのに。

それでもまだアスランは私の気持ちを疑う。
どうしたらアスランは私の気持ちを信じてくれるのだろうか。
アスランのキスを受け入れながらそんなことを考え始めて、
自然と手はアスランの服に伸びた。

「カガリ?」

アスランの声には反応せずアスランのシャツのボタンを外した。
薄い黒のカーディガンのボタンを外して、
下の白のシャツの襟元のボタンを外す。
現れ出た首元にちゅっとキスをして強く吸い付くとほんのりと紅く色づいた。

「カガリ・・っ?」
「ん・・」

ボタンを次々と外して胸元に指を這わした。
男の人がどこを触られたら気持ちいいかなんて分からないけれど、
アスランに気持ち良くなって欲しいとそれだけを必死に考えて
アスランに触れる。

「・・っあ」

舌と尖らせて胸の頂きを舐めるといつもより少し高いアスランの声。
気持ちいいのだろうか・・・。
ちゅっ、っちゅ・・と唇に触れる様にキスをする。
その度にアスランの身体が少し震えた。
見上げるとじんわりと涙が浮かんだアスランの表情が目に入った。
気持ちいいんだ・・。
カガリは嬉しくなってボタンの全て開けたシャツを肌蹴させたて、
ズボンに手をかけた。
けれどその腕はアスランによって捉えられる。

「ダーメ」
「なんで?」
「そんなことされたら、俺満足して目覚める気無くなっちゃう」

さっきまであれほど欲にまみれた表情をしていた癖に
明るくアスランは笑う。

「続きはまた今度」
「今度って・・、だって・・」
「うん。
だから2年後かもしかしたらもっと先かもしれない。
俺が目覚めてカガリが目の前にいてくれて、
そしたら続きをしよう?」
「・・・・・・・バカ」
「うん。
今度はちゃんと俺がカガリを気持ち良くするから。
それを楽しみにちゃんと起きるから」
「バカ////」

思わず涙が零れて、アスランの胸に顔を埋める。

「お前寝坊助だからちゃんと起きるか心配だ」
「うん」
「でも、ちゃんと私が起こすからな。
今日みたいに朝ごはん用意して」
「うん」
「だから・・・っ」
「うん」
「ちゃんと起きなきゃ許さないんだからなっ!!」
「うん。
ちゃんと起きる。だから待ってて。カガリ」
「うん・・・」

頷きはアスランの唇に吸い込まれた。




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