あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 14(End)


「―――カガリ」

名前を呼ばれて振り返った。

「キラ」
「今日、ラクスが一緒にご飯食べようって、
予定空いてる?」
「えっと、ごめん。
今日は・・・」
「そっか、・・・今日も病院?」
「うん」

あれから、アスランが治療のために眠りについて5年が経った。

「けど、びっくりしたよー。
カガリと再会したと思ったら男と同棲してるなんて」
「人のこと言えないだろう?
キラに至っては結婚してた癖に」

目の前で口を尖らせるのは、キラ・ヤマト。
何を隠そう生き別れた私の兄だ。
アスランが闘病生活に入ってから私はバイトを探した。
アスランが起きている間は少しでも一緒にいたくて何も出来なかったけれど、
アスランが闘病生活を始めたらずっと決めていた。
これはアスランにも既に話していて、
だからこそ眠りにつく前日アスランはあんなこと言ったのかも知れない。
働き始めたら世界は広がるだろう。
その広がった世界で別の幸せが見つかることもあるだろうかと。

「(馬鹿だよな。
いくら世界が広がったって好きなのはアスランだけなのに)」

現に5年経った今でもその思いは消えずに確かに胸の中にある。

「(寧ろそっちの方こそ20歳になった私を見てまた誰だ?とか他人行儀な対応したら今度こそ怒るからな)」
「カガリ?」
「あっ、ごめん」

仕事はメンデルの微生物研究所の受付で、
そこで社員として働いていたキラと偶然再会したのだ。
キラは戦後、私たちを迎えに故郷に戻ってきたらしい。
けれどそこは焼かれた大地があるだけで家はもちろん父も母もそして私もいなかった。
そこでキラは家族が全員死んだと思ったらしい。
その頃は死者の他に行方不明者も多数いて情報は錯綜していたから
仕方がないかもしれない。
そしてキラは軍から籍を抜き、縁があって微生物研究所に勤めたのだそうだ。
私もキラを探そうとは考えていたけれどよく考えれば見つけて貰おうという考えはなかったのだ。
どう考えても自分で探すよりキラに探して貰う方が早かったのだ。

「ううん、急いでいるのに呼び止めてごめんね。
今度カガリの彼氏に会わせてよ。
5年間もカガリの心に居座っている人を」
「いいぞ、今度な」

堅物で真面目で優しいアスランと、物臭で穏やかなキラは意外に話が合うかも知れない。

「うん」

腕時計を見るともう次のバスの時間が迫っていて、
カガリはキラに別れを告げて走り出す。

「それと!」

カガリは立ち止まり、振り返った。

「5年じゃない、12年だ!」
「!!
・・・そりゃ年季の入ったことで」
「だろう!」

カガリは嬉しそうに微笑み、再び駆け出した。

・・*・・

「カガリさん、今日も来てくれたのか?」
「はい」

病室に行くと先客がいた。
アスランのお父さんだ。
あれから毎日ほとんどの様に顔を合わせている。
私にはもう父がいないからアスランのお父さんと話すのはもう一人の父親が出来た様で嬉しい。
けれどまだアスランと結婚していないのにお父さんなんて呼ぶのは憚られて
私は彼をパトリックさんと呼んでいる。
パトリックさんは席を譲ろうとしてくれたがそれをやんわりと断る。

「今日でもう5年になりますね」
「・・そうだな」

カガリはベッドで穏やかに眠り続けるアスランの顔を愛おしげに見つめた。
腕にチューブが繋がれ栄養剤が投与され続けている。
もう5年もこうしてアスランは眠っているのだ。
ずっと待っていると誓った。
誓ったけれど、もうこのままアスランは目覚めないんじゃないかって怖くもなる。

「アスランは寝坊助だから」
「・・・カガリさん」
「?」
「私はアスランが治療に入る前ある話をしました」
「・・・」
「この子がもう二度と目覚めない可能性だって十二分にある」
「・・・」
「アスランは君に辛い選択を押し付けているかも知れない。
けれど私は君がどういう選択を選んでも恨みはしない。
それにアスランも。
君はもう5年もアスランのことを待っていてくれたのだから・・」

カーテンを開けた窓から夕日が差し込み、
病室がオレンジ色に染まる。

「私は・・・、待ちます」
「!?」
「だって、約束しました。
アスランが目覚めるまでずっと待ってるって、
5年でも10年でもずっとずっと。
それにあんなこと言われて」

もう5年も前のことなのにアスランの言葉をしっかりと覚えている。

「悔しいじゃないですか。
アスランに試されたみたいで、時間に負けたみたいで。
だから目覚めたアスランに言ってやるんです。
どうだ、凄いだろうって、私がどれだけアスランのことが好きか分かったかって。
だからずっとずっと待ちますアスランが目覚めるのを」
「・・・」
「私、花瓶に水入れてきますね」

息子と二人きりになった室内でパトリックは呟いた。

「本当にあんな健気な子を5年も待たせるなんて、
一体お前は何をやっているんだ。
男の甲斐性はどうした・・・?」

花瓶に花を挿して水を注いだ。
治療は成功した。
アスランの身体からウイルスは死滅した。
ユーレン医師の話ではいつ目覚めてもおかしくないらしい。
けれど長い睡眠のせいで免疫力が低下したからなのかアスランは目を覚まさない。

本当は怖い。
私だって、パトリックさんの言うとおりアスランがこのまま一生目覚めないこともたくさん考えた。
だから今私に残っているのは変な意地とプライドだけなのかも知れない。
5年も眠ったままの人を愛し続けるのは酷く心細くて寂しい。
辛い時に抱きしめてくれる腕もない、愛を囁いてくれる口もない、
あるのは遥か彼方の誇張されて美化された思い出だけ。

「(早く帰ってきて欲しい・・。
じゃないと、本当にアスランが好きなのか分からなくなっちゃうだろう・・・っ!!)」

そう考えたらもう涙は止まらなかった。

・・*・・

涙が止まってから病室に戻ったらそこにはもうパトリックさんの姿はなかった。
日は沈み辺りは暗くなっている。
カガリは花瓶を棚に置いてそっとベッドの傍の椅子に座った。

眠っているアスランの肌に触れる。
5年間も病室にいたアスランの肌は白くどこか儚げで頼りない。
これが軍学校でナンバーワンの成績を修めていたアスラン・ザラだなんて誰が思うのだろうか。

「アスランも怖いのか?」

アスランはもう目覚めたくないのだろうか。
治療も成功して後は目覚めるだけなのに。
元々成功度の高い手術じゃないのは知っていた。
知っていてその高いリスクを負わせたのは私だ。
短い未来じゃなくて一緒に長い時間を共に歩きたくて。
カガリはベッドの上に置かれたアスランの手を両手で握った。

「私はまたアスランと笑い合いたいよ」

カガリは目を閉じた。

・・*・・

ピクリとアスランの指が微かに動く。

「・・・・」
「すーすー」
「・・・・」

白い病室の真っ白な天井。
遠くで聞こえる微かな音。

「・・・こ・・・は・・?」
「すーー・・」
「んっ」

身体を起こそうとするも力が入らず動くことも出来ない。

「(・・・・治療は成功したのだろうか)」

アスランは手を動かそうとするが、その手に繋がれた手に気付いた。

「カ・・・ガ・・・、リ・・・・?」
「・・・・・・ん・・・・」

しっかりと絡み取られた手の先には金髪の女性が眠っていた。
あどけない寝顔を晒しながら眠っている女性は紛れもなく愛しい人で。
本当に、カガリは証明してくれたのだ。
カガリの長い睫毛が震えて琥珀の瞳が現れる。

「・・・おはよ・・・かが、・・り」
「アスラン・・・?」

カガリの瞳が驚きで開かれる。

「うん」
「本当に・・・?夢・・・?」

カガリは恐る恐る手を伸ばして頬に触れる。
こそばゆい感覚に目を細めると、カガリの大きな瞳からポロポロと涙が落ちる。

「・・お帰りなさい!!」

カガリはアスランの首に抱き着いた。
動かない腕を必死に動かしてカガリの背中に手を回す。

「た、だいま・・」

そう言って微笑んだ。
腕かにある確かなぬくもりに心地よさを感じながら、
アスランは自分が生きていることを確かめた。

・・*・・

「身体は・・?」

朝目を覚ましたら病室で、昨日はそのまま眠ってしまったらしい。
アスランが入院している病室は個室で寝泊りも許可されているから、
職員も何も言わなかったのだろう。
見ると毛布が肩にかかっていた。
だからいつもだったら、嗚呼またここで眠ってしまったんだと少し反省して、
朝帰りするのだけれど。
開いた瞳が写したのはそれだけではなかった。

今まで眠っていた人が、アスランの瞳が優しげな翡翠の色を浮かべていた。

「・・・あんまり・・」

水差しで水を飲まして、アスランの瞳を覗きこむ。
アスランだ。
5年間ずっとずっと待ち望んでいたアスランがいる。
好きなのかどうかも分からないなんてどうしてそう思ったのだろう。
目覚めたアスランを見たら心の奥から湧き溢れてくる。
好きだという感情。
声を聞いてその優しい声が好きだと思う。
優しい翡翠の瞳を見て綺麗なその瞳が愛しいと思う。
背中に回された腕の重さが心地いいと思う。
アスランがこんなにも好きだ。
5年経ってもそれはずっとずっと変わらずにあったのだ。
ただ分からなくなっていただけ。

「先生呼ばないと・・」

そんなことをすっかりと忘れて抱き合ったことに恥ずかしくなりながら、
カガリはナースコールに触れる。

「待って」
「アスラン?」
「その前に、カガリ。
ありがとう、待っててくれて。
本当に目が覚めて一番最初にカガリが見られて幸せだった。
今まで待たせてごめんな」
「・・・・・・・」

アスランは今私がどれだけ嬉しいか分かっているのだろうか。
またボロボロと涙が零れ落ちる。
何か言いたいのに喉の奥から熱いものがこみあげてきて、
言葉にならなくてカガリは何度も頷いた。

「カガリは泣き虫だな。
どうせなら俺はカガリの笑顔が見たいよ」
「・・・・・馬鹿」

カガリは呟いて涙を拭って精一杯微笑んだ。

「うん。
カガリの笑顔大好き」
「・・・////」

ああもう。
好きだ。
アスランが好きだ。
好きすぎておかしくなりそうだ。

「今まで待たせて、ごめん」
「うん・・・」
「これから一緒に生きて行こう」
「うん!!!!」

アスランが起きたら言おうと思っていた文句も嫌味も、
アスランの唇に吸い込まれた。



END







・・*・・

お付き合いありがとうございました。
この話も長かった。
こういう終わり方になりましたが、どうでしたでしょうか。
気に入って頂ければ嬉しいです。

ちなみに最初この話を考えていたときは全く違う結末を迎える予定でした。
・アカデミーで誤解は解けずそのまま軍人に。
・偉くなったキラの護衛にアスランとカガリが選抜されるが、
アカデミー時代と同じように冷たい態度のアスランに怒りを覚える。
・アスランが病気で後1年の命であることをカガリは知る。
・冷たい態度も全てそのせいで、
けれどカガリの傍にいたいがためにアカデミーを卒業し軍人になったことを知る(ここらへんのアスランの気持ちはほぼ同じ)。
・それを知り詰りあい叫びあいの末結ばれる。
・恋人としての濃厚な1年を過ごす。
・アスランの死をカガリが看取る。

基本は同じなのですが、
カガリがアスランの病気を知るタイミングが違うのと
病気に勝つか負けるかの違いですかね。
こちらの設定の方が好みの方は妄想してください!
パーティー会場でスーツ着て拳銃を隠し持ってインカムをこっそり仕込んで
キラの護衛をしているアスカガ軍人コンビはきっと凄く萌えますね。

途中で結末を変えたのでいろいろ矛盾点があって、
結構後半辛かったのですが(自業自得)、
最後にアスランとカガリが笑ってくれたのでよかったです。

2008/01-2013/7


prev next

[back]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -