あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 10




シャワー室から出て簡単にシャツを羽織ると、部屋の呼び出し音が鳴った。

「(カガリだろうか?)」
「ザラ、1限前にすまないがいるか?」
「・・・ジュール先生?」

アスランはモニターでジュール先生がいるのを確認し、
慌てて扉を開けた。

「すまないな、準備中に」
「あっ、いや・・」

そもそもサボろうと思っていたのではいともいいえとも言えず、
どこか居心地の悪そうにアスランは返事をした。

「アスハに昨日伝言を頼んでいたのだが、
聞いたか・・?」
「伝言・・?いいえ聞いておりませんが」

そうか昨日カガリが俺を待っていたのは
ジュール先生の伝言を伝えたかったからなのだろうか。
それなのに、怒鳴って追い返して、
・・・まぁ結果的に昨晩はふたりして泣き叫んで同じベットで疲れて眠ってしまったのだけれども。

「そうか・・・、まぁよい。
・・・お前、自分の身体について知っているのか」
「・・・」
「お前はAGH菌に感染している」
「・・・・・・・・・・・・・・・・知っていますよ」
「お前・・」
「これでも医者の息子です。
自分が冒されていることぐらい知っています」

あまりのも気の毒そうに見つめるイザークにアスランは微笑んだ。

「感染したのは戦時中です。
市街地を狙ったミサイルの爆撃地の近くに俺はいました。
そのとき負った傷口から感染したみたいです」
「・・・・・治療は?」
「もちろん」

寧ろ治療をして貰いたいがために
義息子になったのだ。

「だが、」

お前の身体は感染したままだ。
症状を和らげる治療を菌を殺すことは根本的に違う。

「2%だそうです」
「・・っ」
「治療方法を開発したユーレンという医師が言うところの成功確率だそうです。
世界中、それこそあらゆる有能な医師に当たりましたが、
治せる見込みがあると俺に告げてくれたのは彼だけです」
「・・」
「治療方法は存在します。
けれど、身体の抵抗力がその治療に耐えうる保障はどこにもない。
治療には時間を有します。
一度治療が始まってしまえば数年間ベットで眠り続けます。
眠ったまま目覚めない確率が98%。
そんな無謀な賭け、誰が乗るというですかね。
幸い侵攻は遅いらしく2年ぐらいは生きられるぐらいです」
「ザラ・・。なら、どうしてこの学校に?
ここは軍学校だ。
未来のないお前が通って何か利があるのか」

誰しもが軍人にならないのならばそれがいいだろう。
この学校に通っているものは例えば軍人になることでの破格の給料・制度だったり、
家が軍人の家系だったり、中には敵軍への復讐に燃えるものもいるだろう。
戦争があるから軍人がいて、戦争があったから軍人という職業はある。

「利・・ですか。
そうですね。ずっと会いたい女の子に会うことができましたから」
「!・・そうか」

俺の答えがあまりのも意外だったのだろう。
俺も自分で言っていて少し恥ずかしい。
それでもやっぱりこの学校に来たことで得られた利はやはり、
カガリともう一度会えたことだから。
そして何となく昨日のカガリを思い出す。
泣きながら好きだと言ってくれたカガリ、何度も交わしたキス。
また頬がにやけそうになるのを必死に押し殺した。

「大丈夫です。
後残された2年の猶予を楽しむ気ですから」

心配そうに未だこちらを見つめるジュール先生に微笑んだ。
本当に何も心配いらないのだ。
残りの限られた時間を大切な人と過ごせる。
それはとても幸せなことで、それは今から酷く楽しみなのだ。

ガタタタッ・・・

「あっ、え・・・・・・」

扉の前で体制を崩しているカガリがいて、俺は目を見開いた。
もしかして今の聞かれてい・・・た・・・・?
動揺を悟られないようにカガリに手を伸ばす。

「カガリ大丈夫・・?」

伸ばされた手を掴むことなく、ぼろぼろとカガリの瞳から涙が零れ落ちる。
昨日もこんな風に俺はカガリを泣かせた。
本当に俺はカガリを泣かせてばかりだ。

「わ・・た、し・・ジュールせんせいの伝言伝え忘れてて、
それで、戻ってきて、・・・扉のロック開いてたから・・・わたし、
ごめんな・・さぃ・・」
「うん。別に怒ってないよ」

カガリが泣いている理由を分かっていながら、
俺はその言葉をカガリにあげない。
カガリを優しく抱きしめてそこに突っ立たままのジュール先生に目をやる。
目くばせをすると困惑気味にも頷いて、部屋を出て行ってくれた。
そのことにほっとしながら、俺はカガリの背中を撫でててやる。

「あすらん・・・?」
「何?」

涙を浮かべたままのカガリが俺をじっと見上げてくる。

「今の話ほんとう・・、なのか?」

ああ、やっぱり聞かれていたのだ。
状況から見てもそれは確実だったが、出来れば聞かれて欲しくなかった。
今、ごまかしたらもしかしたらうやむやにできるかもしれない。
けれど、聞かれてしまったなら真実を話すべきだろう。
俺はカガリとずっと一緒にいたいと願っているし、
実際2年後俺には必ず’死’が待っているのだ。

「うん。本当だ」

声が震えた。
ジュール先生にはあんなに簡単に言えたことなのに、
相手がカガリだというだけで、唇が渇きうまく言葉が出せないでいる。
それでも静かに真実だけを淡々とカガリに告げた。


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