あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 07


アスランは目を覚ました。
頭がぼぉーっとする。

「熱、出てるんだから、当たり前か・・」

目を擦りベットから這い上がると暗い部屋に灯りがひとつだけついていた。
さっきまで誰かいたような気がするけど、誰だっただろう。
アスランは考えたけど、それが誰だったかは思い出せなかった。
とりあえず、顔を冷たい水で顔を洗う。

「あ」

テーブルの上にはビニール袋に入った食料・・?だろうか、
とタオルが置かれていた。
それに写真立てが倒れていた。
アスランはそれを起こす。
何かの弾みで倒れたのだろうか?
そういえば、とおでこに乗っていたタオルを思い出す。
ずぼらな俺が、ましてや熱を出しているのに自分でタオルを濡らして絞っておでこに乗せるだろうか。
そんな手間のかかることするはずがない。
確信があった。
やっぱり誰か来たんだ。

俺はそんなに人付きあいがいい方ではないし、
俺自身も人と馴染もうとする努力を怠っているため友達もいないといっていい。
いるのは、俺の後ろ盾に興味のある連中だけだ。
それに――・・
誰かが入ってきたならいくら熱を出していようが、
嫌でも目を覚ます。
そういう風に生きてきたんだ。

・・*・・

翌日俺はいつものように授業に出席した。

「大丈夫だった?
ザラ君」
「もぉー、心配したんだから」
「ほんと、ほんと、
ザラがいねぇから退屈でよ」

そんなクラスメイトの言葉に俺は微笑んだ。

「うん。
ごめんね。心配かけて」

内心アスランはこのクラスメイトを馬鹿にしていたが、
とりあえず笑うことにした。
営業用スマイル。
もうすでに俺の特技になりつつある。

やっぱり、違う。
結局昨日部屋に来たのはこいつらではない。
だとすると・・。

「(・・・・カガリか?)」

ふとアスランの頭の中に浮かんだのは彼女だった。
カガリはもう忘れているだろうが、昔俺とカガリは同じ孤児院にいた。
それだけでなく俺にとっては唯一心を許せる人だった。
大人は生きる為に必死で何の後ろ盾もない俺が信じられるのはカガリだけだった。
どんな辛いことがあってもカガリの笑顔を見れば俺も笑えたし、
希望を得られた。
あの頃の俺にとってカガリは世界そのものだった。
だから、頑張れた。健気に生きたいと思えた。

・・*・・

「カガリ・・」
「あすらん・・?」

俺は蹲って泣きじゃくるカガリに声を掛けた。

「お昼もらってきた」

そこにはひとつのおにぎり。
具も何も入っていない小さなおにぎりをを俺は二つに割った。
綺麗に半分には分かれなくて、俺は大きい方をカガリに差し出した。
目に涙を潤ませたカガリはそれを受け取り口に含んだ。
俺はカガリの隣に座った。

「水は、いる?」

カガリはフルフルと首を横に振った。

「そう」

俺は頷いて、お握りを口に含んだ。
もう慣れた味だ。
冷たくて温かさのかけらもない、ただ食べるための、生きるための食事だった。

「・・・・お母さんのごはんが食べたい・・」
「・・・・」

カガリがボソリと呟いた。
カガリの両親は戦争で亡くなったと聞いていた。
そうか。
アスランはカガリを自分の方に抱き寄せた。

「平和になったら、俺がごはんつくってやる」

俺の言葉にカガリは目をぱちくりした。

「・・・・お前、料理を作れるのか?」
「ちょっとは・・」

カガリの涙はいつのまにか止まっていて、アスランはにっこり笑った。

・・*・・

「昔話、・・所詮戯言か・・・」
「何、アスラン君。何か言った?」
「いいや」

まわりの声に合わせてアスランはにこりと笑った。

「アスハさん、少し話しあるんだけどいいかな?」
「・・・」

考えていてもしょうがないのでアスランはその日の昼休みカガリに話しかけた。
肝心のカガリはフイと顔を横に逸らす。
前回の件で随分嫌われてしまったのだろう。
まぁ、あれは半分八つ当たりだったし、しょうがないよな。

「アスハ、いい?」

わざと強く言って、逃げ場を無くす。
カガリは渋々頷いた。
教室であまりしたくはない会話だったので、俺達は場所を移動した。

「私、屋上初めて来た・・」
「そうなのか?」
「えっ、だって立ち入り禁止・・」
「鍵は掛かってないから結構穴場だろ?」

ここで授業をサボってる奴もいるしな。

「お前真面目なくせに?」
「別に授業をサボる為だけじゃないだろう?
この学校で空を一番近くに感じられるのはここだけだしな」
「空・・・?」
「うん、空。
俺結構好きなんだ、空見ることがな」
「・・空・・」
「それにここだと、戦闘機も飛んでないからあの頃を思い出さなくてすむ・・」

俺の家族を奪ったあの日の景色。
曇り空の日に俺の住む町に爆弾を落としていった何機もの戦闘機。
燃え盛る炎に崩壊した建物、泣き叫ぶ子供、そして肉塊と化した両親。
今でも目に焼きついて離れない光景。
夜になると魘されるように何度も夢を見た。
今でこそないが、曇り空と戦闘機の組み合わせはアスランにとってはトラウマだった。

「あの頃?」
「ああ、あの頃・・」
「・・・・・あのさっ、私・・お前に聞きたいことがっ・・」
「何?」
「昨日、お前の部屋に入ったとき、・・」
「・・・・・そうか、やっぱりカガリだったんだ」
「え?」
「見苦しいところを見せたな。
すまなかった」

アスランは用件は済んだと言わんばかりの早口でそう言って、
屋上から去っていこうとした。

「待って・・」
「・・・何」
「・・なんで?
なんで、そんな人を寄せ付けない言い方をするんだ!」
「・・悪いが、こういう性格だ」

アスランは言って、扉を開ける。

「違う!昔のアスランはそんなんじゃなかった。
そんな人を寄せ付けない人じゃない、寧ろ人を惹きつける人だった」

そして、カガリの憧れの人でもあった。
その人はカガリに何も言わず離れていってしまったけど。
その人はずっとずっとカガリの心の中に居ついて離れなかった。
アスランは扉から手を離してカガリの方を向いた。
その瞳には怒りが宿っていた。
カガリは肩を揺らす。

「・・写真立てを倒したのもカガリ?
写真を見て思い出した?」

なんで、なんでアスランはこんな怖い顔で私を見るんだろう。
皆に見せる笑顔が偽者だって分かってる。
それでもそんな偽者の笑顔すらもアスランはカガリに見せない。
いつもきつく当たったり、跳ね除けたり皮肉を言ったり。
カガリはぎゅっと自分の制服を握った。

「違う・・。
私は学校でアスランに会ったときからあのアスランだって分かってた!!」
「けど、カガリは結局他人行儀だった。
いくら、・・傍にいたって、時間を共有したって。約束をしたって。
過去は過去の遺物さ。現在そして未来には繋がらない」
「何言って?」
「本当はちょっと期待してた。
名簿にカガリの名前があったとき、覚えてくれてるかなって。
別れも言わず去った俺のこと怒ってるかもしれない。忘れてるかもしれない。
けど、それでもいいやって。
もしかしたらカガリとあの頃のような関係が築けるかもって・・。
けど、実際は違った」

屋上に吹く強い風がアスランの髪をたなびかせる。

「・・覚えてないんだと思った。忘れられてるんだって。
それはしょうがないことだしずっと昔のことだ。
だから、新しい関係をまた築こうと思ってた。
けどカガリから返ってきたのは完全なる拒絶」

ひゅっ

カガリが息をのんだ。

「だろ?」

冷たいアスランの目がカガリを見つめる。

「しかも俺のことわかってたのにか・・。
・・結局そういうことなんだよ」
「違うッ!」
「違わなくない!
一度離れてしまったらもう駄目なんだよな。
カガリは俺を嫌ってるんだし。
それは自業自得だし俺の責任。別にカガリを恨みはしないよ」

なんだろう、口が止まらない。
傷ついたカガリの顔を見てもう頭は十分だと判断できているはずなのに、
口が止まらない。
次々に溢れ出す今まで溜め込んでいた思い。

「けど、だからこそ。
そんなカガリに今の俺と昔の俺を比べる資格なんてないっ!
カガリがこの数年間で俺を嫌い憎んでしまったように。
俺にだってこの数年間で変わったよ。
それを何もしらないカガリに否定なんてされたくないっ!!」

アスランは叫んで、それから扉を開けて屋上から出て行った。
鈍く響く扉の閉まる音がまるで絶望したアスランの心の扉が閉まる音に聞こえた。

「・・・アス・・ランッ」

カガリは泣き崩れた。

・・*・・

「(・・・矛盾してるな、俺。
カガリに否定されたくないって。
意識してるのバレバレ・・。
ハハ・・、今度こそ本当に修復できないな・・)」

扉を背にしてアスランは呟いた。

「お礼、言い忘れたな・・」

そして、授業開始のベルが鳴った。

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