あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 06




その日、カガリは一日中腹が立っていた。
教室の隅で講義が始まるのを待っていたカガリはいつも藍色の髪の青年が座っている席を見た。
今日はその席には誰もいない。
いつもはある人だかりもない。

「カガリ、まだ怒ってるの?」
「・・当たり前だろう、だってあいつら」

呼びかけたのはフレイ。
飲み物買ってくると教室を出た彼女の手にはしっかりとジュースが握られていた。
フレイはそれを「はい」とカガリに渡す。
カガリはそれを受け取る。
フレイにしては珍しく、いちごミルクだ。
カガリはそう思ったけど何も言わずいちごミルクを口に含んだ。

「甘い・・」
「でしょ、甘いものはストレス発散になるからね」
「・・ありがとう」

友達の気遣いにカガリは嬉しくなって微笑んだ。
フレイもにっこりと微笑んだ。

「今ならフレイちゃんのお悩み相談もあるわよ」
「・・・・・・あんなの、アスランがかわいそうだ・・」
「あら、そのザラ君を大嫌いだー!って
言いながらやけ食いしてたのはどこの誰だったかしら?」
「それとこれとは話は別だ!!」

フレイは口に手を当ててウフフと笑った。

「けど、まぁ確かに。
昨日は倒れたザラ君を誰も助けようとしなかったわね。
所詮、それだけなんでしょ?
ザラ君のまわりにいる人達って」
「ちょっ、フレイ声大きい」
「あら、カガリもそういうの気にするのね」

フレイは意外そうに言った。

「けど実際そうなんじゃない?
ザラ君は家柄もいいし、才能に溢れてる。
優しいしね。
だから今のうちに媚を売っておきたいのよ。
軍人学校って特殊な環境だしね」
「・・・・そうなのかな?」
「やっぱり、何かあるの?
カガリとザラ君」
「別に何もないよ、あいつが言ったんだろう?
大嫌いってさ」
「・・・・・・けど、この後授業が終わったらお見舞い行くんでしょ?」
「!」
「優しいわね、カガリは。
私はそういうカガリが大好きよ」

それと天邪鬼なところもね。

「・・・・フッ、フレイ!
別に昨日急に倒れたからって心配とかしてるわけじゃなくて!
私のせいだとか言われたら嫌なだけで!!」
「ふふ、素直じゃないわね」

そういうところ私は大好きよ。
ともう一度声に出してフレイは言った。

「フレイの奴・・」

それでもフレイの言うとおり授業が終わって、

氷と水と・・・と役に立つかなというものを買ってアスランの部屋に向かっているのだからどうしようもない。

「(なんで分かったんだろう、
私お見舞いにいくなんて一言も言ってないのに)」

しかも、その上教室を出て行くときにザラ君によろしくとまで言われてしまった。
友達って怖い。
そんなことを考えている間にアスラン・ザラのネームプレートがある部屋にたどり着いた。

「(こいつルームメイトいないんだ)」

ひとりだけの名前にカガリは怪訝そうな顔をした。

「(しかも、鍵開いてるし)」

カガリはため息を吐いて申し訳程度にノックをしてから部屋に入った。
部屋に入るとそこにはベットで寝息を立てるアスランがいた。

「寝てる・・?のか・・」

そりゃそうかと、拍子抜けして緊張していた気持ちが少しだけ落ち着いた。

「それにしても、何もない部屋だな」

あんまり回りを見渡すのもどうかと思ったのと灯りがついていない部屋だったこともあり、
よく分からないがとりあえず娯楽のための何かは見当たらなかった。


・・*・・

「・・・ん」
「目、覚めたか?」

うっすらを目を開けるとぼんやりと部屋の輪郭が見える。
そしてそこには見慣れない・・人?がいた。

「誰・・?」

掠れた声で呟く。

「・・・・カガリだけど」
「カガリ・・?」

カガリ・・?
ああ、そっかカガリか。

「突然押しかけてごめんな。
けど熱出して寝てるときは鍵閉めた方がいいと思うぞ?」
「・・うん」

アスランはベットに横たわったままふにゃんと笑った。

「!?//」
「??」

驚いたカガリをアスランは不思議に思った。

「えっと・・・、何かいるものとかあるか?」
「・・・いらない」
「けっ、けど喉渇くよな?」
「うん」
「じゃっ、水買ってきたから!」
「(なんだコレ、アスランおかしくないか?
だってあいつが私に笑いかけるなんて、
・・・・昔と変わらない笑顔を見るなんて、いつ振りだろう。
熱だからなのかな?)」

カガリは頭を傾けて考えた。
うん。
きっとそうだ。
まだ、寝ぼけてるから、あんな風に笑うんだ。
心の中でそう頷いた。

「(けど、久しぶりに見るアスランの笑顔。
何も変わってなくて、面影がそのままで。
・・・かわいいな)」

なんてことを考えてもう戻らないあの頃を思い出したら涙が出てきそうだったけど、
必死に堪えた。
あれはもう夢。
昔々の物語。
夢はもうとっくに過ぎて、私たちは子供じゃなくなって。
アスランは私を忘れて。
アスランは私が大嫌いで。

昔みたいにはなれない・・けど。
それでも、アスランが熱のせいで、おかげで笑ってくれていてくれるのなら、
私も前みたいに接せるのかも知れない。
けど、

「そうだ、アスラン熱測った?」

アスランは静かに首を横に振った。
今と過去の境界線はしっかりしないと。

「そっか、ならこれ医務室から借りてきたから」

とカガリは体温計をポケットから取り出した。
他にもタオルやバケツ、いるかいらないかわからないものまでカガリは持ち込んでいた。
まぁ、孤児院出身ということもあってこういうとき結構気は効く方なんだとカガリは自分でそう思っていた。

「いらない」

体温計を差し出した手をアスランに掴まれた。

「へ?
・・・けど、熱、測っといた方がいいと思うけど?」
「うん。
だから、カガリが測って?」
「え・・・?」
「よく、そうしてくれただろう?」

「・・・え・・」

声が震える。

何・・・を言ってるんだろう、アスランは。
そんなの・・そんな、昔のこと。
私がよく熱を出したアスランにおでこをくっつけて体温を測っていたのは遠い昔のこと。
アスランが覚えている筈がない・・のに。
けど、もしかしてアスランは覚えていてくれてる?
私のこと。
・・・ううん。
そんな筈ない。
覚えていてくれるなら、今のアスランと私の関係になんかならない・・よな?

「カガリ?」

アスランは心配そうにカガリを覗き込んだ。
アスランの顔が近い。
私。
何、だろうコレ。
凄く、どきどきする。

「・・・・・っ。
駄目だ、そんなの不確かだろう?
せっかく体温計を持ってきてあるんだからそれ使えよな!!」
「・・・・・・・・」

そう言うとアスランは渋々と体温計を受け取った。
しばらくして体温計が鳴って、表示板にはアスランの体温が表示されていた。

「38℃」
「・・ん」
「やっぱり、熱あるな。
じゃあ、氷も持ってきたからそれでタオル絞ってくるな。
洗面所借りてもいい?」

アスランが小さく頷いたのをカガリは確認して洗面所に逃げ込んだ。

「・・はぁー」

やっぱり、駄目だ。
熱を出して弱っているアスランは幼い頃の面影を残していて、
囚われそうになる。

「何なんだよ、いったい。
アスラン!!」

欝惜しげにカガリはそう呟いた。
鏡に映る自分の顔をペチペチと叩いてから、
水で自分の顔を洗ってから冷水で絞ったタオルを握ってカガリは洗面所に出た。

「・・・・・て、寝てるし」

そこにはスヤスヤと寝息を立てて眠るアスランがいて。
無理させたのかなとカガリは苦笑を覚えた。
タオルをおでこに乗せてやり、もう帰った方がいいだろうかとカガリは思案を巡らせた。

「電気、ひとつぐらいつけていいかな・・」

あまりに部屋が暗すぎて、目が慣れてきたといっても。
限界はあるし、せっかく持ってきたものもよく見えない。
タオルとか、食べ物はいるから、置いていこう。
熱が引いた元のアスランに余計なお世話だと言われたらそのときはそのときだ。
カガリは灯りをひとつだけ灯し、テーブルの上に飲み物やら、
食べ物やら必要だと思われるものを並べていった。

コトッ
手に硬い何かが当たる。
写真立て・・?
私が倒しちゃったのだろうか、それは伏てある写真立てだった。

「って、コレ私・・?」

写真立てを起こすとそこには幼い頃の、
戦時中同じ場所で同じ時間を過ごしたあの頃のふたりの写真があった。
ボロボロの服を着て、顔も真っ黒になっていて、
それでもふたりとも精一杯笑ってる。
私にとっては大切な思い出。
私の初恋の記憶。

「・・・・・・どうして、アスラン?」

更に私の頭はこんがらがった。

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