あなたを想うだけで傷だらけです | ナノ
パロディノベル



  心とは裏腹に 05


夢を見た。
いつだったか、小さい頃の夢。
キラキラした少女が自分に向かって笑っていた夢。
あの頃は何も無かったけどただ隣にいた少女のおかげでただ楽しくてしょうがなかったあの頃の夢。

「夢か・・」

そう呟いた少年はベットから這い出して、髪の毛を掻き揚げた。
えらく、懐かしい夢だったような気がする。
少年は机の上に無造作に置かれたペットボトルに入った水を口に含んだ。
少年ことアスラン・ザラはこの軍学校で常に上位を争うほどの成績優秀者だった。
だが、先日の実技テストは0点。
周りの人物はどうしてザラ君が・・、という風だった。
何がどうしてザラ君が、なんだか。
あいつらは俺のことなんか何一つわかってやいやしない。
唯一分かっていてくれていた人は、・・・もういない。
・・だろ?
動きやすさを重視してあり、デザイン性も優れた制服に袖を通しアスランは部屋を出た。

・・*・・

教室の窓際の席の住人は机に体をあずけた。

「あ〜」
「カガリ、元気ないわね」

隣の席に座るカガリの友人でもあるフレイは紙コップに刺さったストローを指でいじりながらにっこりと笑った。

「・・うん」
「まぁ、仕方ないわよね。0点だものね」
「違う!!アレはあいつが!!!」

カガリは席を立って大声で主張した。
フレイはため息をついて宥めて席に着かせた。

「何言ってんの。全治二ヶ月。
それ以上遅かったら一生歩けなくなってたんでしょう?」
「・・うん」
「ザラ君には、感謝される謂れはあっても恨まれる筋合いはないわよ。
ザラ君だって0点になってるんだから」
「・・・」

フレイはジュースを飲んで、尚も続けた。

「けど、なんていうかさすがよね。
いざと言うときは成績よりも人を救うことを優先する。
並大抵で出来ることじゃないわよ」
「・・・・だから、困ってるんだよ」
「?」
「あー、もう何なんだよアイツ!!」
「・・何があったか知らないけど御礼ぐらい言っときなさいよ。
ほら、確か課題たんまり貰ったんでしょ?
それ口実にしてさ」

どうせ一人で解けないんだから。とフレイは笑った。
カガリは渋々といった風に頷いた。
数分後に教室から入ってきたのは噂のアスラン・ザラだった。
カガリはすぐさま反応して、慣れない松葉杖を駆使しながらアスランに近寄った。

「・・ザラ君」
「・・・・」

アスランはカガリの声に反応してカガリの方に振り向いたがそれだけだった。

「・・・テストのときは本当にごめんなさい」
「・・・」

聞こえたのか聞こえていないのかアスランの反応は未だ無かった。

「あの、だからっ!」
「・・別に謝る必要はないだろう?」
「え?」
「君は俺がした行動によって理不尽な思いをしたんだろう?
なら謝る必要はないだろう」
「・・それは」

カガリは思いがけないアスランの返事に目を見開かせた。

「俺は無闇に意見を変える奴が一番嫌いなんだよっ」
「!!
・・・なんだよ。それ!!
分かったよ、ああもうお前がしたことなんかめちゃくちゃ迷惑なんだよっ!!
・・・それに私だってお前のことなんて大っ嫌いなんだよっ!!」

あまりのアスランの物言いにカガリは頭にきてそう叫んだ。
敬語なんて忘れていた。
そうして回れ右をしてゆっくりと自分の席に戻っていった。

「・・カガリ、あんた」

席に戻るとフレイが声を掛けてくれたが、カガリは何も聞きたくなくて耳を塞いだ。

「(・・もうわけが分からない。
どうして謝ろうとしただけなのに、そんなことを言われなければいけないんだ・・)」

カガリの胸は理不尽な怒りで一杯になった。

・・*・・

食堂でがむしゃらに食事を取っている少女がいた。

「あーもう!!
ヤケ食いだぁ!!
・・うっ」
「大丈夫?食べすぎよアンタ」

のどに詰まった食べ物を水で飲み込んだ。
背中をフレイが擦ってくれる。

「ありがとう。フレイ。
でも、フレイだって見ただろう、アイツの態度!!
アスラン・ザラなんて大嫌いだ!!」

ガタン
そう、叫んだ同時に食堂に大きな音が響いた。
誰もがその音のする方に目を向けた。

「・・・え?」
「ザラ君?」

そこには青白い顔で床に横たわったアスランがいた。
近くには椅子が扱けている。
どうやら、音の原因はその椅子らしい。
まわりがザワザワとし始めた。
アスランは一向に動く気配がない。
気絶しているのだろう。

「(・・なんで、誰も助けてやらないんだよっ!)」

遠巻きに見ている生徒には同じクラスの子も多くいた。
いつもアスランと仲のよさそうに話している子もだ。
だが、そいつらも仲間と話しているだけでアスランに助けもしないし近寄りもしない。

「(・・・足、こんなんじゃなかったら。
私が担いでいくのに)」

カガリは歯痒さで拳を強く握った。

「お前ら、そこをどけ!
何もしないなら邪魔だ!!」

暫くして表れたのはイザーク・ジュール。
実技の先生だった。

「ジュール先生!」
「フレイか・・。
気絶しているみたいだから保健室に運ぶぞ。
少し肩を貸せ」
「うん!
カガリ、行きましょう」
「えっあうん」

項垂れるアスランを担いで保健室に向かった。

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