誕生日と奪われたもの 前編




「あーべっ!これ見ろよ。」

昼休み食堂で野球部の数人でご飯を食べている中、後からやってきた部の奴が目の前に露出の多いアダルト雑誌を向け、飲んでいた味噌汁を思わず吐き出しそうになった。

「うわっ、きったねー」
「ゴホッ、お前がいきなりんなもん見せるからだろうが!」
「な、阿部、この子どう思う?」

指差された方を見ると黒髪ショートの気の強そうな女性だった。

「お前、こーゆーのタイプかよ。」
「ち、ちげー!この子が何だか阿部に似てるって話。」
「はぁ?」
「阿部が女だったらこんなんだろうなーって、昨日他の奴らと言ってたんだよ。」
「んな言う時間あんなら、練習に使えよ。」
「時にはこういう息抜きも必要なんだぜ。」

バチっとウィンクを決めて「さーて俺も飯食お」と机にアダルト雑誌を置きっ放しにして券売機に向かう。ふと、その女性らしきプロフィールの処に誕生日5/24と記されていた。その数字を見た瞬間不快に感じ、それを消し去るように残りの飯を平らげた。


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5月も中旬、梅雨前の季節に元希さんの誕生日がやって来る。
昨年同様、携帯の通知に『元希さんの誕生日迄あと○○日』の他に5月前にやって来た彼奴は、アラームに表示される画面に『5月24日は元希さんの誕生日』と必ず設定されたので嫌と覚えてしまった。
シーズン中で互いに試合があるって云うのにも関わらず、本人は祝えとしつこく言うので仕方なく祝わなければならないし、元希さんが来るってことは"アレ"をまたやられるんだろう。
はぁ、と深い溜息がこぼれる。
いつ来ても困らないようにとおかずは沢山冷凍保存してあるが、外食っていうケースの場合、暫く弁当持参だな。弁当用のご飯の炊く気力も置いとかねーと。と、いざという時の脳内シミュレーションを何回かして、さぁ、いつでも来いよ状態をつくっておく。
20日の朝、彼奴からのメールが来ていた。
「21日の夜行く」
確かその日は先発で次の日は調整がてらのオフだったはず。
祝いは22日の夜だろうなと予測して「解りました」と返信する。俺はもう一度、脳内シミュレーションして来るべき日に備えた。




そして当日、週末に控えた試合の為に帰宅は21時を廻る。
来るのは23時を過ぎるだろうと思い、それ迄の間に布団やら着替えやらを用意し、風呂とご飯を済ませておく。あまりにも遅ければ明日も朝早いので先に寝てしまおう。鍵は持ってるしなんとかすんだろ。
待っている間、溜まっているレポートの中から提出の近いものを仕上げる。レポートをやっていると時間はあっという間に23時。そろそろ寝ようと思ったところにチャイムがなる。
玄関扉を開けるやいなや酔っぱらった彼奴が俺の方に倒れ込むように抱き着く。対処しきれなかった俺はそのまま彼奴と一緒に後ろの方へ倒れる。

「…っいてぇ!あんたねぇ、いきなり抱きつくのやめてもらえませんか?」
「あ〜タカヤの匂い。」

人の話を聞かず胸元で鼻をスンスンさせる。

「扉閉めたいんでどいて下さい。」
「おーどいたらチュウてくれんのか?」
「どいてくれたら考えます。」
「おーし、絶対だぞ!」
「ハイハイ」

扉を閉めて鍵を掛け、置きっ放しの鞄を持って中へ入る。
彼奴はパンツ以外の身につけていた服を脱ぎ去りベットへダイブする。

「脱いだら洗濯機の中に入れてくださいって何度も言ってるじゃないですか。」
「おーわりわり」

酔っ払いに言っても無駄だろうが、時々母親扱いするところがあるからちゃんと言わないと気が済まない。脱ぎ散らかしたものを洗濯機に放り込み、肩を冷やさないように上着を持って行き着させる。

「なータカヤチュウは?」
「酔っ払いはもう寝て下さい。」
「チュウしてくれねーと寝れねぇ!」
「はーい、おやすみなさい。」
「あ、勝手に電気消して寝るんじゃねぇ」

無視を決め込んで寝ていると、ベットからおりて床に敷いた布団の方に勝手に入り込み、仰向けで寝ている俺の前に覆いかぶさる。

「元希さん、寝れないのでどいて下さい。」
「キスする約束だろーが。するまでどかねぇ。」
「あ、ちょっと…もときさ………んっ」

名前を呼んだ拍子に口を塞がれた。

「タカヤ…」

息を吸おうと口を開けると、彼奴の舌の侵入を許してしまいさらに角度を変えて深い口づけをおとされる。絡み合う音が響き羞恥を誘う。抵抗したいのに手は彼奴の手によって塞がれ、為す術もなくただ、その行為を受け入れ次第に意識は遠のいていった。





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