誕生日と奪われたもの 後編




朝、目を覚ますと俺はタカヤの上に寝ていた。
そう言えば酔った勢いでキスしたなと思い出し、ニヤッと笑みを浮かべた。まだ眠っているタカヤの唇をそっと指の腹で撫でて、触れるだけのキスを交わす。

「どんなことをしても俺のもんにしてみせっから。逃げんじゃねーぞ、タカヤ。」

眠っているタカヤを起こさず、眠気を覚ますためにシャワーを浴びに向った。


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「じゃなー阿部ー!」
今日は明日明後日が試合ということでミーティングだけで終わった。榛名との待ち合わせ場所に向かう。途中、スポーツショップへ寄り道して榛名に良さそうな物を買って走っる。

「おっせーよ。」

待ち合わせ場所に既に榛名が待っていて、少し肌寒かったのかホットのコーヒーを持って車に寄りかかっていた。

「俺に早く会いたくて走って来たのか?」
「違います。それよりメシ何処いくんすか?」
「心配しなくてもかたっ苦しい何処は行かねーよ。」

乗れよと親指をクイッと助手席の方を指す。
指示された通り助手席の方に周り座ると、それを確認した榛名が車をまわす。

「前、あげた御守りまだ持ってるんすね。」

榛名が車を買ったのを聞いて、事故されたらたまんないと思った俺があげた交通安全の御守り。多分、今年買ったのであろう御守りと一緒に吊り下げられている。

「タカヤが俺のためにくれたやつだからな。」
「御守りの有効期限は一年っすよ。期限切れの御守りで事故に遭われたら堪んないんで、神社に返してください。」
「わーった、そん時はタカヤも来いよ。」
「ハイハイ。」

俺が居なくても返しに行けんだろ。と思いながらも、何でか榛名を甘やかす自分に溜息が出る。アレされた時も文句を言おうとするが、何故か榛名がすっげえ嬉しそうな顔すっから何にも言えなくなんだよなぁ。本当、訳がわかんね。けど、一つわかることは昔ほど榛名が嫌いじゃない。そんな自分に嫌気がさす。

「タカヤ先に降りてろ、車止めてくる。」
お店前に降りて榛名が来るのを待つ。お店は居酒屋みたいなところだが、其処らへんのチェーン店とは違う高そうな居酒屋だ。
(まさか飲むわけじゃねーよな?)
少し不安になりながらも、戻って来た榛名と共に店へ入る。

「お久しぶりです、大将。」
「お〜榛名、待ってたよ。」
大将と呼ばれた男は榛名の肩を軽く叩いて熱く歓迎する。

「その子は、同じとこの後輩か?」
「いや、こいつは中学ん時の後輩ッス。」
「初めまして、阿部です。」
ぽんっと頭に手を置かれる。俺は手をどかしてから大将に挨拶を告げる。

「そりゃ長い付き合いだな!君のポジションは?」
「捕手です。」
「へぇ〜、と言うことは元はバッテリーだったとか?」
「そういう事になりますね。」

大将は交互に俺たちを見てニカッと笑い、奥の個室へと案内され飲み物を聞いてからその場を離れて行った。

「この部屋はVIPじゃねーと入れねー所なんだぜ。」
「何、さりげなく自慢してんすか。」
「それだけ俺はすげーって事を言いたかったんだよ。」
「そんな事言わなくても、元希さんは凄いですよ。」
「なっ…」

顔を赤く染めてまるで金魚見たいに口をパクパクさせている。

「失礼致します。」
その後に戸を開けて来た仲居さんらしき人が飲み物を持ちやすい所に置き、「お料理はどういたしましょう?」と榛名に問いかける。

「いつもので、よっしく。」
「かしこまりました。」

一礼してそのまま出て行く仲居さんを見送って先程の学園内の会話に戻る。

「お前さ、時々素直な事言うから心臓にわりーよなー」
「すいませんね。」
「まぁ、そう拗ねんなって。とりあえず乾杯しよーぜ。」

お互いアルコールの入っていないグラスを持って乾杯を交わす。

「元希さん誕生日おめでとうございます。」
「おう!」

其の後はお酒も入っていないのに終始ニコニコしている榛名と途中、手が空いた大将がやってきて野球ばなしで盛り上がり、ハプニングもあったりしたが楽しい食事を過ごした。ベロベロの大将に見送られ、駐車場に向かう。

「食った食った!しっかし、驚いたよな。まさか大将がベロベロに酔ってタカヤを奥さんと間違えるなんてさ。」
「俺は奥さんと間違えてキスしてこようとした大将を必死に止めてた元希さんに吃驚しましたね。」
「仕方ねーだろ。タカヤじゃよけれねーと思ったからよ。」
「心配しなくても除けられたのに。」
「うっせーな、……タカヤちょっとこっち来い。」

そう言って駐車場の死角に引っ張り込み、腕ごと抱き締められる。腕を封鎖されたのと、前のめりに抱き締められているため動くことが出来ない。「何してるんすか?」と聞くと「タカヤ補充」と訳のわからないことを言われ、そのまま呆然と立ち尽くす。これは一体いつ迄続くのだろうか、とぼんやり考えて居ると抱き締められていた力が弱まった。解放されたのかと榛名を見上げると、昨夜のように唇を塞がれ再び抱きしめる力が強くなる。口付けが深くなればなるほど力が奪われていくのを感じる。榛名にパワーを奪われているような感覚だ。ようやく解放され、残っている力で榛名を押しのけ唇を拭う。

「………明日、投げるんでしょ?帰りましょう。」
「おー」

死角からでて車に乗り帰宅する。
「なんでこんなことしたんすか?」と言えなかった。多分、きっと聞いてしまえば俺たちの関係が変わってしまう、そう感じて聞けなかったんだと思う。知らなくていい。榛名がやる事なんて気まぐれに決まってんだ。
もう、昔みたいなことにはなりたくから。
会話の無い車内でそう心の中に呟くのだった。





あとがき
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完結が遅れてしまい申し訳ないです。
榛名のお誕生日小説?でした。
当初はギャグ風味に終わらせるつもりが、何故かシリアス風味っぽくなってしまいました。多分、続きます!
あ、阿部プレゼント渡せてないやないか!!

何はともあれ
HAPPY BIRTHDAY MOTOKI !!




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