静かな生活(1/4)




「龍馬さん、お帰りなさいっ」

仕事を終えて帰ってくると、軽やかな足音を立てて嬉しそうに出迎えに来てくれる。

「あぁ、今…戻った」

その姿に頬を緩めて、ふわりと揺れる柔らかい髪を軽く撫でると、少し恥ずかしそうに目を細めて微笑む。

きしきしと、小さく軋む音を聞きながら二人で並んで廊下を歩き、わしが出かけていた間の、些細な出来事を楽しそうに話す小娘の声。

先刻まで身を置いていた喧騒とは打って変わった静かな空気に纏われ、それだけで、こんなにも気持ちが和らぐ。

横顔を見つめていると、小娘はふとこちらを向き、目と目が合い、お互いに微笑んだ。


わしの部屋まで一緒に歩き、わしの少し後ろで立ち止まった小娘に向き合うと、小娘はにこりと笑って口を開いた。

「それじゃ、何かお手伝いする事があったら、声かけてくださいね」

そう言う小娘の顔を黙って見つめると、小娘は首を傾げてわしを見た。

「どうかしましたか?」

「いんや。ただ、こがな明るいうちに帰って来たのは、久しぶりやき…。やけど、仕事が残っちゅうき、小娘と一緒に居られん…」

はぁ、と大きく溜息を吐き、項垂れてぶつぶつと呟くと小娘はくすくす笑った。

「ありがとうございます。私も一緒に居たいんですけど…」

「ほいたら…」

「だめですよ…お仕事してください!それに私も、まだやることあるんです…」

「…ほうか…」

わしは、随分と情けない顔をしているのだろう。小娘は困った様に眉を下げて笑うと、わしの袖をくんと少し引いた。

「終ったら…一緒にのんびりしたいです」

「ん…」

わしは頷いて、またにこりと笑っている小娘の頬を指の背ですっと撫でると、小娘はわしに背中を向けて、足を出す。


気を、遣わせてしもうたかのう…


軽やかな足音を立てて去っていく小娘の背中を見つめながら、頭を掻いて息を吐く。









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