だって貴方が好きだから
皆で賑やかに過ごした端午の節句も終わって、今日はいよいよ五月の十二日
他の人達にとってはいつもと変わりない一日だけど、私と龍馬さんにとっては年に一度の大切な日
相変わらず毎日忙しくしている龍馬さんには、未だに聞けていないけど
(龍馬さんも覚えててくれてるのかな? ‥‥くれてるといいな)
凄く楽しみなのに、ちょっとだけ怖い
そんな複雑な想いを抱えながら、私は今日を迎えたのだった――
「えっと後は‥‥そうだ、お布団干さなきゃ」
「小娘さん、ちょっといいかの?」
「え? あ、龍馬さん!」
朝餉の後片付けを終えて部屋に戻る途中だった私は、廊下の角を曲がった所で龍馬さんに呼び止められた
「どうかしたんですか?」
「あ、いや‥‥」
龍馬さんはくるりと辺りを見渡して、誰もいないのを確認してから私にこそっと耳打ちしてくる
「その、何じゃ‥‥‥日和もええ事じゃし、今日はワシと一日『でえと』してくれんかの?」
「あ、いいですよ‥‥‥って、でえと!?」
何の気なく頷こうとして、中途半端な姿勢でぴしっと固まった
「そう、でえとじゃ」
「え、あの‥‥でも‥‥」
びっくりして目を瞬かせる私に龍馬さんがにしし、と笑う
「確か西洋では、好き合うちょる男女が連れだって出掛けるんを『でえと』と言うんじゃろう?」
―――確かに間違ってはいないけど、でも
"好き合うちょる男女"
「‥‥‥っ」
その言葉と目の前の笑顔に、心拍数が一気に跳ね上がる
龍馬さんと想いが通じ合ってからもうずいぶん経つけど
龍馬さんの愛情表現はいつも突然で、しかも直球だから私はいつだってドキドキさせられっぱなしなのだ
(何か私ばっかりドキドキしてるみたいでちょっと悔しいけど、この笑顔を見たら何も言えなくなっちゃうんだよね‥‥‥)
「小娘さん?」
黙ったままの私の顔を覗き込んで、龍馬さんがはっと息を呑む
「ど、どうしたんじゃ! 突然そんなに顔を赤くして‥‥もしや熱でもあったんか!?」
「‥‥っ!? ち、違います! 本当に大丈夫ですから!」
途端に心配そうな顔になった龍馬さんが、熱を計ろうと自分のおでこを近付けてくるのを、私は必死になって押し返す
「こりゃ、遠慮なぞしちょる場合かっ」
「だから違うんですってばー!!」
『でも龍馬さん、夕べだって遅くまで大事な手紙を書いてたのに、本当にいいんですか』
喉元まで出かかった言葉は、いつの間にか霞のように消えていた
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