諸君、私は、たばこが嫌いだ。


静雄の家の近くにある路地にて。
私の手には1カートンのたばこ。
もう片方には2リットルペットボトルのミネラルウォーター。
静雄の部屋から拝借しました。


ふと改まってその手のたばこを見る。
彼がこの銘柄にしたのは確か2ヶ月前。
前のたばこから変えたのは、味が悪かったとか、そういう理由ではなかった。
…物足りなくなったと聞いた。
様はもっとキツイたばこにしたくなったということだ。
まったく体に悪い事この上ない。

回りの包装紙をびりびりと破く。いくつかのたばこが包装紙の支えを失って、転がって落ちて行く。


なんでたばこが嫌いかって、身体に悪いからだ。


カートンで家においてあるのは、それだけ彼のたばこの消費量が多いからだ。
そりゃあ並大抵なものではない。大抵吸ってる。
毎日1箱半ぐらい吸うらしい。多いときは2箱。信じられない。

転がったたばこを拾って一箇所に集め、一つ一つのビニール包装を剥がす。
ダイオキシン的な何かが出たら嫌だし。
淡々と全部のたばこの包装を剥き終わったので、ビニールごみを上着のポケットに入れた。


なんでたばこが嫌いかって、彼が凄くそれに依存しているからだ。


たばこを積み上げて、適当に突っついて崩して、ふと思い出す。
彼がそれを吸っている姿。
うん、嫌いじゃない。むしろ好き。だから腹立つ。

ポケットからライターを出す。たばこの山の一角の適当なところに火を付けた。


なんでたばこが嫌いかって、彼を格好良くする存在であるからだ。





「めらめらとーやきつくせー」





小さくため息をつきながら、燃えが悪いなあと他の適当な所にも火を付けた。
滞りなく黒煙を吐き出し始めたたばこの山を、しゃがんで呆けながら見つめる。
こんなことして何になるんだろう、と、思わなくもない。
むしろモロに思っている。でも体は動いてしまったのだ。
至極単純な理由だ。ただ嫌いなものを消したかっただけだ。
相手は無生物だ。簡単に消せるから消しにかかったまでだ。





「…ほんっと、何やってるんだか。」
「ホントだよ」





不意に後ろから聞きなれた声が聞こえて、驚きに体が僅かに跳ねる。
大好きな声だ。聞き間違えるはずも無い。
悪戯を見つかった子供のような気持ちになりながら、そっと振り向いて後ろに立っていた人物を確認する。





「…静雄、おかえり。今日はちょっと早かったんだね。」
「おう。お前も来たんなら部屋で待ってりゃいいのによお。こんなとこで火遊びなんかしてねえで。」





彼の視線が、私の手元に転がっていたたばこの包装紙をちらりと捉える。
怒るかなあ、と、焦るわけでもなくただ、なんとなく思っていたら、
いきなり首根っこを掴まれた。首絞まる。
バランスを崩して後ろに倒れ込んだところを見事につかまえられた。





「なあに、びっくりするでしょ。」
「…たばこってのはなあ、煙が出る場所が二箇所あって、その場所によって煙の名前が違うんだけどよ。」





くどくどと主流煙と副流煙の話をされた。知ってるよ。





「ってワケで普通に燃えてる方の煙はものっっっっっっっっっっすごく体に悪いんだよ。分かるか。」
「分かるよ。」
「だから、」





目線を合わせられるように彼もしゃがみ込む。そうした所で長身な彼と対等な目線になることはないんだけれども。
何食べたらこんなふうになるんだろうと、サングラス越しの彼の目を見つめていたら、
デコピンされた。結構痛かった。





「こんなもん燃やして遊ぶのはやめとけよ。」





そういうわけで燃やしてたんじゃないけど、まあいいか、と素直に頷いておいた。
彼は私の足元に置いてあったペットボトルのミネラルウォーターをだばだばと火元にかけて鎮火する。
今の彼の口にはたばこは無かった。歩きたばこは絶対やめてよ、って言ったの、聞いてくれているらしい。

私は自分のポケットから小さい紙の箱を取り出す。たばこだ。
今さっき燃やしたたばことは銘柄が違う。軽めのやつだ。私がたまに吸うためのもの。
少しだけ嘘を付いた。私はたまに吸うぐらいにはたばこが嫌いじゃない。
一本取り出して、彼の寂しい口元に突きつける。





「はい、お詫び。」





一瞬怪訝な顔をしたが、「おう」と素直に彼はそれを咥えた。
ライターで火をつけてあげると、立ち上がって私に背を向ける様にして紫煙をくゆらせる。
彼の姿を見て、ああ格好いいなあ、と、思った。





「ねえ、しず。」
「ん」
「たばこ、もう少し軽いのに変えようよ。」





彼の格好良さに免じて、私が彼のたばこが嫌いな理由の後者2つは、多少目を瞑ろう。





「…そうだな」





でもやっぱり彼の体は心配なので、そこは譲れない。





「よさげなの見繕ってあげるからさ。」
「おう」





譲歩、譲歩。






タバコ撲滅運動




(私の心の中の葛藤にて譲歩案が成立)





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