「あ、君がウワサの9課の新人さんかぁ!!」



底抜けに明るい声を発しながらコミュニケイトしに行ったのは、9課が誇る思考戦車。



「あなたがタチコマ、くん?さん?」
「僕達に性別は無いよ!便宜上「僕」って言ってるけれどね。そうだね、タチコマ『先輩』と呼んでくれたまえ!」



全体的に丸みは帯びているが、大きさはまあそこそこであるから威圧感もあるし、
視覚的に表情を読み取れる箇所というのは全くない。
身内というか、保護者というか。メカニックの贔屓目なしにでも、
それでもその所作と声から愛らしさを感じてしまうから不思議だ。戦車なのに。
案の定9課の新人である彼女にはすんなりと受け入れてもらえたようだった。
ニューロチップもそうだが、課員の教育の賜物なのだろうか。非常に興味深い。



「よろしくお願いします。タチコマ先輩。」



パッと見お堅めに見える彼女だが、冗談の通じる部類の人間らしい。
微笑ましいやり取りをしている。確かにこの感じはほんの少し草薙少佐に通ずるところもあるかもしれない。
調子乗るなよな、と、付き添いと思しきボーマが窘める。



「スズちゃん今日は僕に会いに来たのかな?ついでに右手のメンテナンスって感じ?」
「よく分かりましたね先輩」
「…右手?」



訝しげにボーマが彼女の右手を見る。
プロフィールもチェックしていなかったのか。彼は電脳戦に特化していたはずだが。
そんなんじゃ潜り込まれたとき困らないか?まあ、連れてきた人間が人間だから疑っていないのか。
…或いはその年頃の女のプロフィールを見るのに罪悪感でも感じたか?可愛らしいことだ。



「やだなあボーマくん見れば分からない?確かに上物だけどお。スズちゃんは右手のみ義体化してるよ?」
「…知らなかった。てっきり全身義体かなんかだと思ってた。少佐が連れてきたからかな。」
「麻痺してるな感覚が。まあ9課にいればそういう感覚になるのもわからなくは無いがな。」



思わず口を挟んでしまう。まあ。彼女を呼ぶついで。ついで。手招きをしながらカルテを見る。
右肩から先が彼女の義体化部位だ。年も歳だし、わりとコンスタントに換装しなければならないのだが。
情報を見る限り管理がズボラだ。これはいけない。



「義体化率で言えばトグサくんより高くてサイトーさんよりちょっと低いってことになるねー。左目分。」
「なんでまた右手なんだ?」



ボーマが首を傾げる。まあこの年の普通の子供なら、事故とかが妥当だと思うが。



「…まだ施設に入る前、ダイブしてるとよく意識が飛びかけたものですから。戻ってくるために、右手をよく傷つけちゃってたので。
 ある日とうとうバキバキに折ってしまったんで、それを機に。」



なるほど。確かに手で掴んだり傷つけたりしたようなダメージが随所に見られる。
それにしても「とうとうバキバキ」とは。なかなか恐ろしいことを言う。



「そういえばお前、あの授産施設から来たんだっけな。電脳閉殻症ってことだろ?今は大丈夫なのか?」
「軽度だったので、ほぼ治療とリハビリは終わっていたんです。今はマイクロマシンを週一で入れるぐらいで。」



軽度?あの施設自体が「重度の閉殻症患者」を対象にしていたのに?
明らかに噛み合わない会話に閉口する。きっと彼女も、それに気づいている。
21世紀の流行病と呼ばれたそれに、彼女も恐れを抱いて生きてきたのだろう。
まあ、その恐れが表に出てしまったのが、右手の義体ということになるのだろうな。



「だが未だに腕にこんなにダメージが行ってるんだから…もう少しマイクロマシンの摂取頻度を上げたほうがいいかもしれないな。」
「…分かりました。」



躱すように読めない微笑みを浮かべる彼女。うーん、いけないな。



「腕は肩から換装する。一応荒事にも備えて強化フレームを使おう。
 メンテ頻度は最低でも2週に一度。違和感を感じたらすぐ来ること。いいな。」
「お願いします。」



プラグを接続するために彼女の首に手をかけると、あからさまにぴくりと肩を揺らされる。
こりゃあまた癖のありそうな課員だな。パーツを一瞥しながら彼女の過去と未来を案じた。





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