「お夜食、食べます?」



ダイブルームに詰めっぱなし。勢揃いした九課員がぼうっと扉に意識を向ける。
気を抜くように長く息を吐いたあと、ぱらぱら手が上がる。相当キている。
あーあ、今日も帰れなかった。我が子の寝顔が恋しい。



「ふっと消えたと思ったら夜食取りに行ってたの?スズ。」
「…空気が限界をひしひしと伝えてきたものですから。」



電脳化とか義体化の御時世でも、元は人間である以上、精神力の限界というものは存在する。
手練揃いの9課も例に漏れず。今回は相当煮詰まっている。脳が干からびるのを感じた。
甲斐甲斐しく課員分の夜食を持ってきた彼女もまた、自分の限界を感じたのだろう。休憩はいい判断だ。

どうぞ、と彼女から差し出された夜食を受け取る。基本食事は支給されるものがあるので、普段はそれか、自分が外で買ってきたものを食べるんだけど。
隣に座っていたボーマが受け取った夜食と。俺の夜食。明らかに違って、思わず小さく声を上げた。



「あれ。俺だけいつものじゃない?」



いや、と応えたのはサイトーだった。つまりはノット義体化組がいつものと違うのか。



「…なるほど?そっちだけスズのお手製ってことね?」
「…そいやああったな給湯室なんてもんも!…なんでまた俺らと生身組とで格差が?」
「いえ、私マイクロマシン仕込んだサイボーグ食って作ったことがないものだから…」



いつもの支給される食事ってのが、べらぼうに味気のないものなのだ。これは義体化組もそうでないやつのも一緒。
出来ればどっちも手を加えたかったけれども、サイボーグ食のノウハウがないから、必然的に普通の食事のみになり、義体化組はエネルギー補給を優先して支給品を流用。というのがスズの弁だ。



「確かに俺もサイボーグ食ってどう作ればいいんだか知らないな…生身でよかった。ありがとスズ。」
「顔を知ってる奴が作ったもの食うの何時ぶりだろうな。」



何はともあれ味気無いものを食わずに済むのは単純に嬉しい。片手間に食えるもの、サンドイッチというのは変わらないけれど。てりたま。結構手の込んだもの作ったな。
ぱくつくと、少佐が少し残念そうにため息を吐いた。



「失敗したわねスズ。今優先すべきだったのはエネルギー補給より食事という娯楽だったわ。ボーマを見なさい…明らかに気落ちしてるわよ。」
「…少佐に言われたくねえよ。」



ふとそちらを見れば、2mの巨体がしょんもりと味気無いサンドイッチをもそもそ口に運んでいた。



「またおいひいのが…惜しいのよね」



少佐はといえばスズ本人の分を堂々と奪い取っている。容赦無い。「あ、ずっけー!」とバトーが口をとがらせた。可愛くない。



「次までにこの子にサイボーグ食の作り方でも仕込んどくわよ。ほら、食べたら各自作業に戻る!!」
「少佐料理できるの?」
「出来なさそう」
「煩い」



パンと手を叩いて少佐が促す。うーん、サンドイッチは美味しいけど、まだ少し気乗りしない。



「…コーヒー入れてきます。いる人…」



イマイチ気の乗らない手がぱらぱらと再び挙がった。今夜も長い。





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