「我が9課は階級なし。独立公正の最優先ラインだ。」
私の後を付いてくる彼女の顔は、随分と間の抜けた顔をしていた。
「…どうした?」
「いいえ、人を従える時の顔はまた違うんですね。」
「…そう?まあ、接する立場によって有利な顔というのは、確固として存在するわ。」
言われてみれば、最初に彼女にあった時の顔は情報を引き出すための顔だった。
「『少佐』と呼ばれているみたいだけど。」
「あだ名みたいなものよ。軍属の頃の名残。そう呼ぶ必要は無いわ。」
「…草薙さん?」
恐る恐ると彼女が口にしたえらく他人行儀な呼び名に、苦笑を漏らしてしまう。
初々しくて悪くないが、後々溝になってしまいそうだ。
呼び名というのは、人との距離を詰める上で重要になることは多い。というのは持論。
「素子でいいわ」
「…素子さん。」
その響きを確かめるように自分の名前を口で転がされると、なんともこそばゆい気持ちになる。
そんな呼び方をさせたのは久しぶり、のような気がする。
「なんだか珍しい顔してるなあ。ちょっと気持ち悪いぞ少佐ぁ」
「…そうね。絶対貴方なんかには見せたくないもの。公安中にバラ撒かれて笑い話の種になる。…彼がイシカワ。貴女には主に彼の援護をしてもらう。」
彼女はほぼ生身。右手のみ義体。施設に幽閉されていたようなものだから、直接的な戦力としては全く期待できない。
お荷物になりかねない可能性を考慮しても彼女を引き抜いてこれたのは、彼女が組む攻性防壁の独特さと堅さ故。
サーチャーとして常に脅威に曝される彼の鎧として使う、という建前。
「おう。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「それじゃあ、今日のところは彼にいろいろ聞くといい。後で迎えに来るわ。」
元々その線の知識は大量に蓄えているわけだから。彼に任せれば数日ですぐ使えるようにしてくれるだろう。
ひらひらと手を振ってそこを後にすることにする。
扉を一枚隔てたところで、耳につく声色でイシカワが彼女にひっそりと言葉を投げるのが聞こえた。
「確かに似てるかもなあ。少佐からゴリラ分を抜いた感じだ。」
「…素子さんってそんなにゴリラゴリラしいですか?」
「そりゃあもう。一度現場見りゃあ分かるぜ。」
彼らの情報管理能力については再教育の必要があると課長に報告しなければならないだろう。
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