森山中編 | ナノ

小堀浩志という男



「小堀はたくさん食べるんだな」



小堀の注文した量はとてもじゃないが、私が食べることは出来ない。



「部活終わりだし」



まあ、センターというポジションだからいっぱい食べたほうがいいんだろうな。一番当たりが強いポジションだし。



「それで、本題に入りたいのだが。」
「うん、いつでもいいよ」



世間話もそこそこに私は本題に入った。



「何故か小堀はもう知っているみたいだが、私は森山が好きだ。中一の頃からずっとあいつが好きだ。時間にして今年で六年目だ。
自分でもびくっりさ、私みたいなやつが小堀を好きだなんて。しかもずっと一途に。
何回も諦めようとしたことはあるんだよ?これまでにも。でも、なんか諦められなくて。
これはついこの間の話なんだが私森山に『私のことどう思う?』的なことを聞いたんだ。そしたらあいつ私は眼中になくてな。まあそんなの昔から分かっていたけど。
それで森山に会いたくなくて試合を見に行かなかったのが先週の日曜日のことだ」

「だからあの日来なかったんだ。」

「あいつの顔みたくなかったからな。まあ、でもその後電話来て、うぬぼれてもいいかなーって思っていたわけよ。
そんで、今日、アイツが前に運命の相手だって言っていた女に告白されているトコを見ちゃったわけ。
んで、嫌になっていたら小堀と出くわした」

「だから泣いていたんだね」

「そういうこと。六年だよ?あんな軽い男を六年、ずっと一途に思い続けて、それなのにこの結末さ。本当に運命ってなんなんだろうな。私のほうが誰よりも森山のこと見てきたのに」

「そうだね……。
ごめんね、話聞くって言ったのに、あまりいい返答ができなくて」



私がずっと話し続け、自分があまりいい返事が出来ていないことを小堀は気にしているみたいだった。



「いや、聞いてくれるだけで大分楽になる。ありがとな。
まあ、なんだかんだ理由つけてあーだこーだ言っているけど、最初から私が森山の眼中にないことなんて分かっていたんだ。
何でだと思う?」



私の問いについてすこし考えた後「……検討がつかないな」と小堀は言った。



「あいつ、一回も、私と出会ってから一度も可愛いって言ったことないんだ。
はは、本当に答えは最初から分かっていたな。私はあいつの運命の相手なんかじゃな「かわいいよ」

「ん?」
「俺にとってミョウジはかわいいよ?」



さっきまで私の話をただただ聞いてくれていた小堀はそこにはいなかった。
ただまっすぐ私の目を見てそう言った



「あはは、慰めか、冗談か、いやいやそういうのいいって、あはは」
「慰めでも、冗談でもないよ。本当に思っている。俺はミョウジのことかわいいと思うし、魅力的な女性だと思うよ」



そう言う小堀の顔は真剣そのもので、私の顔もだんだんと熱くなることが分かった。
こんなことを面と向かって今までに言われたことがないせいで、耐性がついていない。
かわいいだとか魅力的だとか、隣にいた男が別の女に向かって言っているのは聞いてきた。
自分に言われていると思うと



「あ、ありが、とう」
「ごめんね、こんなタイミングで」
「いや、べ、べつに大丈夫」



「顔真っ赤だよ?」



座っていると言っても、もともとの身長が高い小堀は少し身体を傾けるだけで私の耳元にまで顔を近づけれるらしい。そのまま自分の現在の状況を普段より少し低めの所謂いい声で言われ、余計に顔は熱くなった。
普段の私ならすぐに蹴るなりしてこの場をしのいだが、真剣な小堀の顔にやられているみたいだ。言っても小堀はかっこいい。こんなかっこいい男に耳元で同じこと言われてみろ、世の女性は皆私と同じ反応さ。
大丈夫だっていう女子がいるなら今すぐ私とポジションを変われ



「う、うっさい!!」



なんとか出た言葉も裏返っていて余計に小堀を楽しくさせたらしい。いつものやさしい笑顔とは違う少し意地悪な笑顔だった。
こいつあれだ、絶対にSだ。












その後もなんだかんだ小堀に森山の話を聞いてもらい、大分遅い時間になったので、この場はお開きになった。



「じゃあ、ありがとう、こんな時間まで」



私が小堀と別れようとすると「家どっち?」と聞いてきたので「こっちだけど」と言うと「じゃあ、送っていく」と言われた。

そのまま家に送ってくれるしい。
一度は断ろうかなとも思ったけれど、まあ、夜道だし、なんにもないとは思うが、用心棒はいたほうが心強いということで送ってもらうことにした。

帰り道は森山の話ではなく、バスケの話で盛り上がった。この間の試合のあれがよかっただ、これは微妙だったとかそういう話。そういった話を今まで小堀としたことはなかったのでとても楽しかった。
バスケの試合を見てきたといっても別にバスケについてよく知っているわけではないので、小堀から聞く話に感動する部分もあった



「あのさ、」
「ん?」
「話変わるんだけど、さっきのあれ」



バスケの話は楽しいのだが、今の私には確認しておかないといけないことがある。



「あれ?」
「だから、あの、か、かわいいとか、魅力的だとかなんかああいうの……」



自分で言うのは恥ずかしくだんだんと声が小さくなってしまった



「ああ、あれか」
「あれは、どういう、意味で」
「そういう意味だと思ってくれていいよ?」
「そういう意味っていうのは……」



ああ、こういうことを聞くのは野暮というやつなのかな



「そうだね、ちゃんと言ったほうがいいよね。ミョウジナマエさん」
「は、はい!」



突然かしこまって私の方を見るから私も緊張してしまった。



「このタイミングで言うのは卑怯だって分かっているけれど、俺にとって君はとても魅力的な女性です。
好きだよミョウジのことが。だから、俺と付き合うことを考えて。今すぐじゃなくていいから」



小堀は真剣に私の目を見ていった。目が離せなかった。



「わ、わかりました。近日中には返事をします……」



恥ずかしくてまた声が小さくなってしまった。でもちゃんと小堀には聞こえていたみたいで「うん、待っている」と言われた。
そのまま私の家まで小堀に送ってもらい。その日は終わった。










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