02




「でもだめなんです。私の歌にはハートがないらしい。」


まさか本当にここにいるなんて……。
トキヤと初めて会話したあの場所にトキヤはいた。春歌ちゃんと一緒にいるみたいだった。


「そんな、さっきの歌素敵でした。一番」
「多分、HAYATOの歌だからでしょ?一ノ瀬トキヤとして歌おうとすると、だめなんです。」


「同じかも、私と」
「同じ?」
「あの、私も、ピアノが突然弾けなくなって、弾けないはずないのに、指が動いてくれなくて。心が凍りついたみたいになって。だから、一ノ瀬さんも同じじゃないかと……。
大丈夫です、きっと歌えます。私も……!」
「もう結構です」
「え?」
「分かったことを言われるのは耐えられません。私と貴女は違うんですから。失礼」



そういってトキヤはその場所を去っていた



「春歌ちゃん!」
「え?響くん」
「ごめん。盗み聞きした」
「いえ、大丈夫です」
「まあ、このあとは俺に任せてくれ」


私は春歌ちゃんをおいて先ほど去っていたトキヤを追い掛けた。


「トキヤ!!!」


かにり先を歩いていたトキヤを私は呼びとめた。


「あなたもですか、なんですか寄ってたかって、そんなに面白いですか?私がAクラスに落ちたことが」
「……イライラするのも分かるしプライドを傷つけられたのも分かるよ。でも、春歌ちゃんがそういうつもりで言ってないことくらいトキヤにだって分かるでしょ?」
「……」
「私もトキヤを嘲笑いにきたわけじゃないよ。これを渡しに来ただけだから」


私は先ほど完成したばかりの楽譜をあげた。


「時間をかけて作ってないから雑だけど、でも、トキヤに歌って欲しくて作った曲だから、どうしても受け取って欲しい」
「私には歌えないので、受け取れません」
「……そんなことない。トキヤは歌える」
「私にはハートがないらしいですから」
「今のトキヤにはなくても絶対に歌えるようになる」
「一体何を根拠に?」
「根拠なんてないよ、ただ私がトキヤの歌を聴きたいだけ」
「私は貴女にそこまで思ってもらえるような人間ではないですよ」
「あーもう!!!うじうじうるさいな!!とりあえずそれはもらっていってよ!!!」



私はそのまま楽譜をトキヤに押し付けて自分の部屋に戻った。













「あーやってしまったー……」


そりゃ、SクラスからAクラスに移ったら気持ちは消沈するよね……。しかも、自分はアイドルで、小さい頃から活躍していて……。それなのに心がないって言われて。そんなの自分が言われたら耐えられない。
なんで私あそこで怒ったんだ、バカか。もっとトキヤのことを考えて行動するべきだった。
でも、曲をトキヤに渡すっていうミッションは完了したし、それだけはまだましか。



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