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今日はアイドルコースの歌のテストがある。各クラスで課題曲が違い、その課題曲は各クラスの作曲家コースの人間が作った曲になる。Sクラスの課題曲は私の曲が選ばれた。
皆が歌っている曲は全て私が作った同じ曲のはずなのに、人それぞれ歌い方が違った。仕事の依頼のときは、誰かのために作ったりするので、不特定多数の人間に自分の曲が歌われるという経験が今までなかった。だから、少し楽しかったのかもしれない。自分の曲を一人一人が考えて歌ってくれたことが。
最後に歌うのはトキヤだった。トキヤが歌い始めると龍也の顔が渋くなった。トキヤの歌は先ほどまでの誰とも違って一音もはずさない、全て楽譜どおりのまさしく私が作った曲だった。
でも、今まで歌ってきた誰の歌よりも私は好きじゃなかった。


「リズムも音程も譜面通り、発声のバランスもいい。まさに、完璧だ。だかな、ここは正確な歌を決める場じゃねぇ。アイドル目指しているんだぜ?」


龍也の言葉は今のトキヤには辛いものだ。


「入学してから三ヶ月。繰り返し注意してきたのに一向に変わらねぇな。言っただろ、お前の歌に足りねぇものがあるって。
ハートだよ。……そろそろ潮時だ。
一ノ瀬トキヤ。お前をもうこのクラスにいさせるわけにはいかねぇ。」









それからトキヤのAクラス行きが決まった。


その噂は瞬く間に学園中に広まった。




「え!?トキヤが?」
「ああ。Sクラスから外されることになった。」
「一ノ瀬さん」
「トキヤ……。いつもすごい努力してんのに。俺、なんて声かければいいんだろう。」
「理論で学べることじゃないだけに、厄介ですね。」
「歌に、ハートがない、か。」
「え?」
「Sクラスから一般クラスへの移動か。辛いよね。」





私がトキヤに出来ること、か。
私には関係ないことかもしれない。でも、少しでもトキヤが心から歌えるきっかけを私が作れたら……。
以前スタッフに言われた言葉を思い出した。
多分私もトキヤを自分と近い存在だと思っているんだろう。小さい頃からこの世界に入っていろんなものを見て、その苦しみや辛さを乗り越えてアイドルとなった。
だから、トキヤにココであきらめて欲しくない……!!!


授業が終わってから私はすぐに部屋に戻り作曲作業をはじめた。
トキヤの、HAYATOの彼のことを思って……。















「なんとか、形になった……!」


即興で作ったりものだから、お世辞にもよいものとは言えない、が、これを早くトキヤに渡したい。私が思うトキヤを書いたこの曲を早く彼に渡したい。
私は急いでトキヤの部屋に向かった







コンコン


「はーい」


扉を開けてくれたのは一十木くんだった


「トキヤいないか?」
「トキヤならまだ帰ってきてないよ」
「そうか……」


トキヤどこにいったんだろう……。仕事かな……。事務所が違うから仕事があるかの確認も出来ない。


「響」
「ん?」
「俺トキヤにどう接したらいいんだろう」


一十木くんは真剣な顔で私を見つめ、少し辛そうに聞いた。今の状況のトキヤにどう接したらいいかなんて、私にも分からない。


「分からないけど、今までと同じでいいんじゃないか?
多分、トキヤは同情は嫌いだと思うんだ。だからいつもの一十木くんが一番トキヤも安心するんじゃないかな?」
「いつもの俺……うん、分かった!響ありがとう」
「おう、じゃあな、邪魔して悪かった」
「うん、おやすみー」





さてっと他にトキヤのいそうな場所か……。







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