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「・・・遅い」
「まぁまぁ」

垂直にそびえる崖の下でマダラとアリスは柱間を待っていた。始めて会った頃からそれなりに時が経ってもう両手では数えきれないほどに集まっていた三人だが、大抵柱間が最後に来る。
大らかで温和な性格の彼とは反対に 大雑把に見えて意外とマメな性格をしているマダラは腕組みをして眉を寄せていた。

「(マダラってやはりサスケ・・・と、イタチに似ているわねー。いや、二人がマダラに似ていると言うのかしら。特に目元とか、少し上から物を言うところとか・・・)」

ジッと見つめて観察していると不意に視線が混ざる。「どうした?」と首を傾げる彼にアリスは小さく笑って首を振った。そこへ聞こえてくる一つの足音。

「マダラ!アリス!オレすっごい術考えてきたぞ!一緒にマスターしようぞっ!」
「へーぇ。どんな」

マダラの険しい顔もなんのその、興奮した様子の柱間は真剣な表情で続ける。

「体術奥義・超火遁幻術切り大手裏剣二段落としの術!」
「いや、イメージできねェよ。つーか、体術なのか幻術なのかどっちだ」
「ごめんなさい柱間。わたくしも、その、分からないわ」
「そこを詳しく説明すると、「うるさい!今日は直角崖登りを競う」」

説明しようとする柱間を一蹴して上を指すマダラ。アリスがフォローを入れる間もなく柱間はその場で沈み込んだ。

「あぁ、また・・・」
「一々落ち込むな!それがテメェの弱点だ」
「そう思い込むのがお前の弱点ぞ?」
「あ?」
「俺の弱点と思わせてか ら のォ──直角崖登り!!」
「なっ、テメェ!」
「まったくあの二人は・・・!」

柱間より一拍遅れて駆けだしたマダラを、更に一拍置いて追いかけるアリス。

「ハハハッ!お先ぃ!」
「落ち込むふりしてやがったな!?」
「一本取られたわね」


「「「ハァ...ハァ...ハァ...」」」

上まで上り詰めた三人は座り込んで息を整える。流石に九十度に高くそびえる崖を全力疾走するのはキツかった。

「わたくしの、勝ちね。ハァ...」
「やっぱ速ェな、アリスは・・・」
「当たり前よ・・・取り柄だもの」
「さっすが。それに比べて、フライングしたくせに、みっともねェぞ柱間ァ・・・」
「お前には勝ったけどな」
「そりゃそうだろ。先にスタートしたんだからよ」

二人の視線が交わる様を息を整えながら見つめるアリス。ナルトとサスケもそうだったように、二人は互いをライバル視している。そしてそこに自分はどうしても入れないのだ。今回だって柱間は自分を褒めてくれて、マダラと順位を競っている。
仲間外れにされているとは微塵にも思わないし、二人は男で自分は女だから自然とそういう図になってしまうのは仕方がないのかもしれないが、やはり少々の寂しさは否めない。

「・・・わたくしも、男に生まれたら良かったわね」

ポロリとこぼれた言葉に二人が同時に振り向いた。

「ど、どうしたんだよ、アリス」
「男?別に女でもいいじゃないか」

妙に狼狽えるマダラとは反対に柱間は落ち着いた様子で首を傾げる。二人の対応の違いにアリスは小さく笑った。

「だって、ねぇ。わたくしも男だったら、遠慮なく三人で競うことができたでしょう?今のままだと、どうしても、ほら」
「そんな事ねェって!今だって上手くやってるし、これからもそれは変わらねェよ!それにアリスは絶対女の方がいい!俺はアリスが女で良かったと思ってるぞ!なっ?柱間!」
「あ、あぁ・・・そうだな。男だけじゃ浮かばないこともあるだろうし、女でいて悪いことばかりでもないだろ」

必至なマダラから何かを察したらしい柱間もアリスの説得に加わる。彼女は再び小さく笑って「ありがとう」と呟いた。
会話が一段落したところで三人は目の前に広がる広大な森を見渡す。


「ここだと森が一望できるな」
「あぁ、遠くまでよく見える。目の良さならお前等に負けねェ自信がある。勝負すっか?」
「急になんだそれ。やけに目にプライド持ってんなぁ」
「そりゃそうだろ。何せ俺は写、・・・」

得意気だったマダラが急に黙り込んだ。柱間は「どうした」と声をかけるがマダラは続きを言う気はないらしい。

「いや・・・そうでもねェな、やっぱ」
「なんだぞ。お前にしちゃやけに素直だな」
「だったら兄弟が死んで、見守ることも出来なかったくせに、何が、何が・・・」
「マダラ・・・」

すっかり暗い雰囲気になってしまったところでマダラが「わりィ」と謝罪を入れた。

「なぁ、もう兄弟はいねェのか」
「いや、一人だけ弟が残ってる。その弟だけは、何があろうと俺が守る。・・・お前の兄弟は」
「俺も一人残ってる。俺も絶対に弟は守るつもりぞ」

強い意志を宿した二人の瞳に、今回ばかりはアリスも静かに見守っていた。兄弟姉妹のいない自分には分からない感情だろうから。

「決めた!」

急に声を上げた柱間に二人の視線が集まる。彼は広大な森に目を向けていた。

「ここに俺達の集落を作ろう!その集落は子供が殺し合わなくて良いようにする。子供がちゃんと強く大きくなるための訓練をする学校を作る。個人の能力や力に合わせて任務を選べる。んでもって──」

柱間の語る“集落”にアリスが目を細める。
嗚呼そうか、ここが──

「(のちの、木ノ葉の里・・・)」

熱いものが込み上げてきて涙が溢れそうだ。彼の願いはいずれ形となり、火の意志と共に後世まで語り継がれていくのだろう。自分は今、その土地に彼と共に立っている。

「ヘッ、そんな馬鹿なこと言ってんの、お前ぐらいだぞ」
「あら、わたくしは賛成よ。きっと素敵な集落になる」
「お前はどうなんだよ」
「・・・悪くはねェな」
「満場一致!だったら決まりぞ」
「あぁ。その集落造ったら、今度こそ弟を、一望できる此処からしっかり守ってやる!」

三人顔を見合わせて笑う。
とても大きな目標で、全て手探りの状態で、叶えるまでには多くの困難が待ち受けるだろうけれど、それでも自分達は突き進むと決めたのだ。

「それはそうとちょっと来いマダラ」
「あ?なんだよ」

立ち上がってマダラを手招きする柱間。アリスには待ってるよう告げて少し離れたところに連れ出した・・・途端、がっちりと己の腕をマダラの肩に回す。面白いものを見つけたようなニヤニヤした表情を浮かべていた。

「な、なんだよ気持ち悪ィな」
「お前さ・・・アリスのこと、好きだろ」
「な・・・!!」

思わず大きな声を出して固まったマダラ。アリスが不審そうに此方を見るが、柱間は笑って「なんでもないぞ」と躱す。

「なっなん・・・お前・・・!」
「ハッハッハッ!隠さなくていいぞ!確かにアイツが男になったら困るな」
「テメェ・・・!」

過去の話を掘り返されてマダラの顔が更に赤くなる。「どこに惚れた?」という柱間の問いに、マダラは森を眺めて未来の木ノ葉に思いを馳せているアリスへ視線を移した。

「あの意思の強い芯の通った表情が好きだ。俺達の夢の話をする時はいつもあんな顔だった。──あ、あと笑った顔も良い。それと、戦えなさそうに見えて意外と強いところも。そんで勝負事に勝った時のちょっと得意気な顔も良い。あとは」
「わかった、わかったからその締りのない顔やめろ」

後半の惚気に柱間がストップをかける。前半だけなら同意して応援したくなるというのに。

「んで、告白しねェのか」
「まだな。アイツの性格からして、集落が完成して安定するまではそっちに集中したいだろうし。それに俺達全員いつ何が起こるか分からないしな」
「・・・それもそうだな」

柱間が頷いたところでこの話は終わったらしく、二人そろって戻ってくる。

「あら、おかえりなさい。随分と盛り上がっていたわね」
「そりゃもう!マダラがさ「は、柱間!それ以上言ったらここから突き落とすぞ!」それは勘弁ぞ」
「何よ、気になるじゃない」
「急ぐ話じゃねェし、いつか教えてやる」

無理矢理話を終わらせたマダラに、いまだニヤニヤしている柱間、そして意味が分からずそれに従うしかないアリス。
だが今はそれでもいいのかもしれない。三人で集まって、修行して、語って、馬鹿やって。

「・・・いつか俺達が造った集落で、様々な一族の子供達がこうして戯れるようになったらいいな」
「あぁ」
「頑張りましょう」

決意した表情で、三人は頷き合った。



眼前に広がる森
(いづれ火の意志が煌々と燃え上がるだろう)

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