押して駄目なら押し倒せ | ナノ


あれからというもの、三人は時間を見つけて集まるようになった。現在アリスの目の前では柱間とマダラが向かい合っている。

「用意・・・始め!」

彼女の鋭い声が響いた瞬間、二人が走り出して拳を交える。ガッガッガッと鈍い音が続くのをアリスは真剣な表情で見ていた。

「(流石千手とうちは。時代の影響もあるでしょうけど強いこと。二人のこのような面を見ることができるなんて、わたくしったら贅沢者ね)」

「「──ぐっ」」

暫くやり取りがあったところで互いの拳が頬にヒット。二人は同時に後ろへ飛ばされた。

「体術と組手、やるじゃねェの。俺と相打ちとはよ」
「いーや、相打ちじゃない。俺は立ってるぞ!」
「ぁあ?」
「あ、柱間・・・」

得意気な表情の柱間、の頭上が視界に入ったアリスは少し慌てた様子で呟く。次の瞬間、降ってきた石が彼の頭に直撃した。声を上げて倒れる柱間にアリスが片手で顔を覆う。

「なんだって?どこが相打ちじゃないって?」
「いつの間に!?」
「ハッハッハッハッ! 吹っ飛ばされた瞬間に投げたのさ!そう簡単にやられるかっつーの」
「柱間、大丈夫?」

決着がついたと判断した彼女は柱間に近寄って顔を覗き込む。倒れるほどの勢いで当たったなんて、頭が心配だ。

「大丈夫大丈夫!ちょっと油断しちまったな」
「これじゃ引き分けよね。勝ち残りという決まりなのに」
「長く立ってた俺の勝ちじゃねェか?」
「いや、お前無様にこけただろ。俺の作戦勝ちだ」
「先に倒れたのはマダラだろ」
「計算の内だっての!」

そこからワイワイと喧嘩が始まる。後世に名を残す忍といえど普通の男の子であった時期も存在するのだな、と考えながらアリスは二人の仲裁に入ったのだった。

「──あーあ、結局引き分けかよ」
「それはこっちの言葉ぞ。俺はアリスとも戦いたかったのに」
「俺だってそうさ」
「まったく、二人共修行熱心ね」

呆れたように言うアリスに柱間は「それだけじゃねェぞ」と体をこちらに向ける。彼女は頭にハテナを浮かべて小首を傾げた。

「アリスはさ、今まで俺が戦ってきた忍とは、なんかこう・・・いろいろ違うんだ。だから勝負するとすっごく勉強になる」
「だよな。動きとか考え方とか。特にスピードなんか驚いたぜ。力で押しただけじゃどうにもならないから頭使わなきゃならねェ」
「あぁ、そういうことね。だって二人共強いんだもの。正面からぶつかり合うのでは勝敗は見えているでしょう?勝たなければ意味のない戦場では頭脳も立派な戦力。使えるものは使わなきゃ。ついでに言えば、スピードだけなら誰にも負けない自信があるのよ」

なんてったってパワーを諦めてスピードに全て注ぎ込んできたのだから。
いたずらっぽく笑う彼女に二人は肩を竦める。育った環境が違うと発見が多くて面白い。

「取り敢えず休憩にしないこと?よく動いて喉も乾いたでしょう」
「そうだな。どの道続けては無理だし」
「少し休むか」

──────────

大きな岩の上。三人はそこに座り込んで水の入った竹筒を手に取った。一息ついた柱間が二人の顔を順に見て口を開く。

「んで、あの話だけどよ。具体的にどうやったら変えられるかだぞ。先のビジョンが見えてないと」
「まずはこの考えを捨てねぇ事と、自分に力をつけることだろうが。弱い奴が吠えても何も変わらねェ」
「それどころか裏切り者か危険分子として処分されてもおかしくないものね」
「そうだな。とにかく色々な術マスターして強くなれば、大人達も俺達の言葉を無視できなくなる」
「苦手な術や弱点を克服するこったな。──ま、俺はもうその点、弱点らしい弱点なんてねェけどよ」
「へぇ、それは凄いぞ」

岩から飛び降りて歩いていくマダラにそう声をかけた柱間だが、不意にアリスの方を振り向いてニィと笑った。

「…どうしたの柱間」
「いやいや。ちょっと確かめたいことがあるからマダラの後をつけようと思ってさ。アリスも行くか?」
「確かめたいこと?面白そうね。もちろん行くわ」

意外とノリが良いらしいアリスは柱間の後を追って岩から飛び降りた。


「ふぅー…、っ!」

川で用を足していたマダラはフと感じた気配に体を強張らせる。いつの間にか後ろにいた柱間は「本当に止まるんだ」と馬鹿にしたような表情で彼に言い放った。

「だから俺の後ろに立つんじゃねェ!」
「ププッ...弱点みっけ」
「小便したばっかの川に投げ込むぞゴルァ!!」

そのまま追いかけっこに発展する柱間とマダラ。ここで漸く森の木の裏にいたアリスが出てきた。

「もう、確かめたいことってこれだったのね。柱間ったら女性を誘うなんて・・・!」

羞恥に顔を染めた彼女が溜め息と共に小さく呟く。だが、すぐにその平和な光景に微笑ましげな表情を浮かべた。本当、噂や書物からは分からない純粋な面が多い。

「あ、ちょっと二人とも危な──」

ボチャーン!

見守っていたアリスが言い終わる前に二人が団子になって川に落ちる。彼女は慌てて駆け寄って覗き込んだ。

「柱間、マダラ、大丈夫?」
「あ、あぁ・・・」
「プッ…落としてやるとか言って、結局お前も落ちたな」
「笑ってんじゃねェぞ柱間ァ!」
「喧嘩は後にして。早く上がっていらっしゃい」

再び喧嘩が始まってしまう前に声をかければ、二人は水を滴らせながらアリスのいる場所まで戻ってきた。

「ほら、上がったら着物の水を絞って──あぁでも濡れたままだと風邪をひいてしまうかしら。仕方ないわ、うちへいらっしゃい。温かいものを作ってあげるから。着物は暖炉に火をつけて乾かしましょう」
「いいのか?」
「えぇ。それと修行で負った傷の手当もついでに。薬を塗るくらいだけれど」
「よっし!そんじゃ早く行こうぜ!濡れたままの着物じゃ気持ち悪ィ」
「だな。動いて腹も減ったしよ」

濡れた着物を着なおした二人はアリスと共に森を歩き始めた。上流へ遡って暫く、木の上に構えるログハウスが見えてくる。
柱間とマダラが興味深そうに木の周りを一周する様子を、アリスは小さく笑いながら眺めていた。

「ほら、いらっしゃい」

先に木の上に登った彼女が玄関前から二人を呼ぶ。登ってきた柱間とマダラを前にアリスは扉を開いた。

「どうぞ入って」
「邪魔するぜ・・・お?」
「どうしたマダラ」
「い、いや、なんか・・・広い」

引き攣ったような声で言うマダラの後ろから顔をのぞかせた柱間は、一拍おいて楽しそうに目を輝かせた。

「おおー!広いな!どうなってるんだこれ!忍術で広くなってるのか!?」
「あー・・・まぁそんな感じかしら」

曖昧な返事をして二人を中に促すアリス。まさか拡張魔法を使っていますだなんて言えるわけがない。部屋に入って暖炉に火をつけてから、二人に服を脱ぐように言ってバスローブと傷薬を渡した。

「おいおい、服が乾くまでだってのに本当にいいのか?」
「・・・マダラ、お前女子の目の前だってのに下着一枚で過ごす気か?」
「なっ・・・!?んなわけねェだろ!人を変態みたいに言うな!」
「喧嘩は良いけれど家の物を壊さないでちょうだいね。スープを作ってくるから少し席を外すわ」

椅子の背に服をかけて暖炉にあてたアリスは二人を置いてキッチンに向かう。材料を確認して少し考えるとキャベツと卵を取り出した。鍋に水を入れて沸騰させるまでの時間にキャベツをざく切りにする。キャベツを茹でて調味料を入れたら溶き卵とごま油を投入。

「味は──よし」

出来上がったそれに満足そうに頷いたアリスは二人の待つ部屋へ行き、持っていくのを手伝うよう言った。柱間が鍋を、マダラが皿を、そしてアリスがスプーンとお玉と鍋敷きを持って移動する。

「な!な!フタ開けていいか!?」
「えぇ、構わないわ。キャベツと卵の中華スープよ」

柱間がフタを開ければフワリと良い香りが漂う。三人は席について自分の皿にスープをよそった。

「んじゃ、いただきまーす!」
「いただきます!」

沢山動いただけあって二人の勢いは凄かった。美味い美味いと言いながらどんどん食べ進める二人をアリスは嬉しそうに眺める。自分の皿にも一杯分入っているが正直見ているだけでお腹いっぱいだ。たくさん作っておいて良かった。

「・・・二人共そんなに食べて大丈夫なの?家に帰ってから夕食が入らなくなるでしょう」
「問題ねェって!」
「そうそう。育ち盛りだからな!」

良い笑顔で言われてしまえば納得するしかない。鍋が空になる頃、ちょうどアリスの皿も空になり再び三人で食器と鍋をシンクへ持っていく。
洗い物を終わらせた後は顔を突き合わせて戦略を考えたり討論したりして過ごした。
そして日が傾く時間になると完全には乾ききらなかった服を着なおして二人はアリス宅を後にしたのだった。



木の上の
(彼女の隠れ家)
(中々に快適でしょう?)

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