押して駄目なら押し倒せ | ナノ


「お、えーっと・・・アリス、だったか」
「えぇ。久しいわね、マダラ」

初めて会った日から暫く、森を散歩がてら見回っていたアリスはマダラに声をかけられて立ち止まった。
いつ死ぬかも分からぬ戦乱の世の中、今回会った彼は怪我の一つもないようだ。

「今からあの川に行こうと思ってたんだけどよ、お前はどうする?」
「行こうかしら。せっかく会えたのだし、今は特にやらなければならないこともないから」

少し考えて出した答えにマダラの表情が綻ぶ。二人は並んで遠くない川辺へ歩き出した。

──────────

森を抜けたその先には先日知り合ったもう一人の少年の後ろ姿。アリスは三人そろった偶然に声を漏らす。ただその座り込んだ姿から覇気が感じられず内心首を傾げた。

「柱間、久しくしていたわね」
「あぁ・・・」
「なんだよ、今回はいきなり落ち込んでんじゃねェか。何があった?」

彼の問いに柱間は顔を合わせないまま「俺は元気ぞ」と答える。しかしここで引かないのがマダラで。
「話してみろよ」「別に」「いいから、言えって」「何にもねェって」と押問答が繰り返される。

「まぁまぁ・・・無理に聞くのも良くないわ」
「遠慮してんなってアリス。 ほら、聞いてやるっつってんだから」
「ほんと何でもねェって。 何でも、ねェんだぞ・・・」
さっさと話せやァ!!
「あら、まぁ・・・」

とうとう振り返った柱間の号泣顔にマダラが怒鳴り、アリスは何事かと頬に手を当てて首を傾げた。次いで彼も柱間の様子がおかしいと気付いて表情を険しくさせる。
改めて何があったか問うマダラに、柱間は再び俯いた。

「弟がな───死んだ・・・!」

悲しみに潰れそうな言葉を絞りだし、溢れ出る涙を袖で拭う。思っていたよりも重い言葉に二人は閉口した。

「・・・ここへ来るのは、川を見てると心の中のモヤモヤが流されてく気がするからだ」
「そうだったのか・・・」
「マダラ、だっけか・・・お前もそうだったりしてな」

近くに住んでいるというアリスとは違い、自分と同じように態々この川まで来るマダラ。その呟きのような問いに答えは返ってこなかった。柱間は続けて口を開く。

「お前等、兄弟とかいるか」
「わたくしはいないわ」
「俺は五人兄弟──だった」
「だった・・・?」

石を拾いながら返された過去形の答えに、今度は柱間が眉を寄せた。彼も、またアリスも、その言葉の裏が分からないほど馬鹿でも子供でもない。

「俺達は忍だ。いつ死ぬかもわからねェ。お互い死なねェ方法があるとすりゃあ、敵同士、腹の中見せ合って隠し事をせず兄弟の盃を酌み交わすしかねェ」

そう語りながら柱間の横に立ったマダラはしかし、すぐに自分の言葉をきっぱりと否定した。大きく振りかぶって先程拾った石を水面に放つ。

「人の腹の中の奥、腸(ハラワタ)までは見ることはできねェからよ。本当は煮えくり返ってるかも分からねェ」

石が水面を滑るように跳ねる。

「腸を、見せ合うことはできねェだろうか」

まだ跳ねる。跳ねる。

「分からねェ。ただ俺は、いつもここでその方法があるかないかを願掛けしてる」

跳ねて、跳ねて──その石は、向こう岸へ届いた。

「今回、やっとそれが決まったみてェだぜ。お前だけじゃねェ。俺も届いた」
「マダラ・・・」
「彼だけじゃないわ」

放心している柱間の肩を叩いて隣に立つアリスは、いつの間にか拾っていた石を手に水面に向き合う。

「・・・昔から世の中の汚いところを見てきた。言葉と心ほど矛盾しているものはないと思えるほどに」

大きく振りかぶって投げられた石は滑らかに水面を跳ねて。

「母も父も亡くなって一時期荒れていたけれど──」

コロリと向こう岸に転がった。

「見も知らぬ一人の少年が、わたくしを変えたわ」

金髪碧眼の太陽のような彼は、今も修行に励んでいることだろう。
嬉しそうに、しかし不敵な表情で柱間とマダラを振り返る。二人の驚いた顔が目に入った。

「規模は天と地ほど違うし、腸を見せ合うというのはとても難しい。けれど、ここには志を同じくする人間が三人もいるのよ。出来ないはずないわ」
「そう、だな・・・」
「あぁ」

三人は顔を合わせて笑う。心強い同志が出来たものだ。
不意に、マダラが柱間の全身を見渡して「腸を見なくても分かるんだけどよ」と切り出した。

「お前・・・髪型といい服といい、だっせーなァ」
「なっ・・・!」

ガーンと柱間が落ち込む。小さく笑ったアリスだが、今度は自分に視線が向けられていることに気付いてマダラを見た。

「アリスは・・・実は良いとこの生まれだったりするか?所作とか言葉遣いが綺麗だ」
「あら、ありがとう。昔の話よ。今はご存知の通りこの近くで一人だもの。マダラは言動に野性味があるわね。それと、柱間と並ぶととても男らしく見えるわ」
「アリスまで・・・!」
「ったく、すぐ落ち込む・・・。そういえば良く届いたな、水切り」

更にヘコんだ柱間を面倒そうに見てから思い出したように話題を変える。切り替えた柱間の視線も集まる中、アリスは「あぁ」と呟いた。

「わたくしは貴方方と違って自由な時間が多いから。毎日練習していたのよ」
「そっか。でも気を付けろよ。ここ等辺だっていつ戦場になるか分からないんだから」
「だな。死んじまったら元も子もねェ」
「フフ、心配ありがとう」
「いいってことよ。──おい、そろそろ帰るか?なんか雲行き怪しくなってきたぜ」
「本当ね。今日はここで解散だわ」
「次はいつになるか分からんが・・・近いうちにまた会おうぞ」

降られないうちにと、三人は各々の帰るべき場所へ急いだ。



少年よ大志を抱け
(嘗て、一人の少年が一人の少女を変えた)
(ならば、)
(三人揃えばきっと世界だって変えられる)

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