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「あら、こんにちわ」
「おう!こんにちわ!」
「・・・あぁ」

名も知らぬどこぞの少年二人にあったのは、この森に住み始めて凡そ一週間経った頃だった。

──────────

その日、アリスは鹿を罠にかけて捕らえていた。
可愛らしい動物を捕獲して捌くというのは少々心が痛むが此方も食べなければ生きていけないのだから仕方がない。
チャクラを指先に集めて頭をトンと突けば気を失って四肢が投げ出される。
彼女はそれを持ち上げていつもの川へ向かった。


「──よし、やりますか」

鹿とクナイを手に川の底が浅い場所へ入り、目を覚ます前に頸動脈を切って息の根を止めると初めの頃より慣れた手つきで内臓を摘出していく。
この作業、本当は陸地でやりたいのだが、近くに住んでいる身としては血の匂いを残したくないし頻繁に来る川辺を血肉で汚したままにはしたくない。
切り取った内臓を流水にさらして一息つく。面倒な作業ではあるが、血抜きをしっかりやっておかなければ肉が臭くなってしまうのだ。

「まったく、こんな生活を強いられるだなんて思ってもみなかったわ」

100%自給自足、とまではいかないが(時々通る商人と取引する)それでも占める割合は今までに比べて跳ね上がった。
故に決して楽な生活だとは言えない。けれど、だからと言ってどうにもならないことは事実なのだから嘆くよりは楽しむ方が賢いはずだ。

物思いから脱して続けて皮を剥いで肉を解体──しようとしたところで、此方に向かってくる二つの気配に気づく。
近くまで来たと思ったところで顔を上げれば川辺に二人の少年が立っていた。

「あら、こんにちは」
「おう!こんにちわ!」
「・・・あぁ」

とまぁ、こういった経緯で冒頭の会話が交わされることとなったのだ。

元気に返事を返してくれる御河童頭の少年と、少々訝しげな表情のツンツン頭の少年。ここにきて漸く同い年くらいの子供に会えたアリスは手を止めて改めて彼等に体を向けた。

「貴方達、ここ等辺に住んでいるの?」
「うんや!少し離れた所の集落ぞ」
「俺もここから少し走った所に住んでる。そういうアンタはどうなんだ?」
「あら、二人共同じ集落ではないのね。わたくしは近くのログハウス・・・木の上に作った小屋に住んでいるわ。今は見ての通り鹿の血抜きをしていて・・・もしかして、下流で遊んでいた?」

彼等がやって来た方向に気付いたアリスは申し訳なさそうに眉を下げる。
川で遊んでいたところに血が流れてきたから驚いて見に来たのかもしれない。

「遊んでいたというか・・・まぁそんな感じだな!良かったらお前もどうだ?えーっと・・・」
「アリスよ。よろしく」
「アリス、アリス・・・よし、覚えたぞ。俺は柱間だ!そんでこっちが」
「マダラだ。よろしく」

自己紹介をしたところで漸く警戒が解けたらしいマダラがニッと笑う。だが、今度は反対にアリスの表情が固まった。
理由は言わずもがなだろう。

「は、しらま・・・マダラ・・・!?」
「あぁそうだが・・・どうした?」
「いえ、その、昔どこかでその名を聞いたことがあった気がして。きっと知り合いに似たような名前の方がいたのね」
「ふぅん。ところでよ、お前も忍か?」

マダラにそう問われてアリスは一瞬首を傾げる。が、川に立って血抜きをしていたことを思い出して頷いた。

「“も”ということは貴方方も?」
「おうよ!んでもってマダラとは水切りのライバル!ま、今のところ俺が勝ってるけどな!」
「うっせぇよ!」
「ハハッ、怒るな怒るな!あ、そうだ。その血抜き手伝うからさ、終わったらアリスも水切りやらねぇか?」
「あ、ありがとう・・・でもわたくし、水切りというのは見たこともなくて」
「そのくらい教えてやるって!」
「マダラはまず自分が出来るようになってからだな!」
「オメェは毎回一言多いんだよ!少し黙れ!」

ガーン・・・

マダラのツッコみに暗いものを背負って座り込む柱間。「あぁもうコイツ面倒くせェ!!」と頭を抱えるマダラにアリスが一拍おいて声をあげて笑う。

「──フフッ・・・フゥ、教えてもらえるなら、是非やってみたいわ。鹿肉を手伝っていただいてもいいかしら。今から皮を剥いで部位ごとに分けるところだったの」
「おう、任せろ!」
「さっさと終わらせちまおうぜ」

──────────

それから三人は肉の処理を終えるとそれらを流水に晒して柱間とマダラが水切りをするという河原まで下りてきた。

「丸くて平たい石を使うんだ。こうして──」

柱間が拾った石を構えて水面に向けて放つ。軽快な音を立てて向こう岸まで辿り着いたそれにアリスは小さく感嘆の声を上げた。

「簡単そうに見えて結構難しいんだぜ。石の形、投げ方、角度、水面の揺れ・・・いろいろ考えてやらないと上手くいかねェんだ」
「そうそう。それで?上手くいかないマダラは何が足りないんだろうなー?」
「うっせぇ一々口挟んでくんな!」

口喧嘩を始めてしまった二人を置いて、アリスは辺りを見渡すと手ごろな石を一つ手に取った。

「ねぇ、こんな石でいいのかしら」
「──だからテメェは・・・あ?あぁ、見せてみろ」

喧嘩を中断して石を見るマダラと一緒になって覗き込む柱間。
顎に手を添えて少し考えた二人は「ちょっと待ってろ」と言うとそこ等辺から平たい石を持って来た。

「ほら、こんな感じで片面は丸くて片面は平たい形がいいんだ」
「あとこれくらい小さい方がいい。あまり大きいと投げ辛いからな」

そう言われてアリスは改めて石を拾いなおす。『習うより慣れよ』ということで、アリスは二人が見守る中水面に向けて石を放った。

ポチャン...ポチャン、ボチャン...

二回跳ねた石は三回目で底に沈む。残念そうに息を漏らすアリスの肩を柱間がポンと叩いた。

「最初はそんなもんだって」
「やってるうちに感覚が掴めてくる」
「ありがとう。頑張るわ」

三人は日が暮れるまでそこで過ごした。



少年少女は出会う
(後世まで語り継がれる御仁とお友達になりました)

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