「──っぅ・・・」
風が枝葉を揺らす音で、アリスは浅い眠りから覚めた。
クラクラする頭を押さえながら辺りを見渡せば見渡す限りの森、森、森。
思わず「は?」と間抜けな声を漏らして固まってしまう。
「・・・どこなの此処」
五分ほど経って漸く思考回路が動き出したのだが、すぐには結果を出せなかったようで小さく呟いた。
改めて考えなおそうと思い至ったところで少し離れた場所から水の流れる音が聞こえてくることに気付き、足を向ける。
「川・・・」
見る限りでは人の手が全く加わっていない、自然の川だった。
気持ちを落ち着かせるために一掬い喉に流して近くの濡れない場所に腰を下ろす。
「──あー・・・あの古い巻物が原因ね」
暫くして心の中で決着がついたのか、何とも言えないような表情で空を仰いだ。
例の巻物は手元にない。
此処が何処だか分からない。
時代もいつか分からない。
時空間移動に特別優れているわけでもない。
つまり、帰れる見込みがない。
「どうしたらいいのよ・・・」
気を抜いていた過去の自分を引っ叩きたくなった。
場所が移動しているだけならまだマシだ。だが、もし世界や時代を越えていたとしたら自分ではどうすることも出来ない。
「取り敢えず散策かしら」
ここで落ち込んでいたところで事態が好転するとは思えないし、ならば辺りを散策して情報を集めた方が賢明だろう。
アリスは両頬を軽く叩いて気合を入れると、森に向かって地面を蹴った。
──────────
────────
──────
「──それで集まったのが」
軽く四キロほど行って戻ってきた彼女は戦利品を河原に並べる。
手裏剣、クナイ、鎧の破片、その他諸々──見事に忍が使用する道具の数々だった。
ただ、手裏剣やクナイなどの形が知っている物のどれとも一致しない。里によって多少形状に変化がある忍具だが、耳にしないほど小さい里のものなのだろうか。
それに今時鎧なんて珍しい。確か侍は身に着けていたと思うが、それとも違うようだ。大体彼等がここまで出てくるとは考えられない。
「・・・まさかね」
一瞬嫌な予感がよぎって思わず空笑いが零れる。
見たことのない忍具──そう言えばアカデミーの歴史の教科書で見た
今時珍しい鎧──こちらも説明付きで教科書に載っていた
任務で世界を駆けたはずの自分が全く知らない土地──都合よくそんなところに飛ばされる確率は高くない
ともすれば、
「これは・・・冗談では済まされない事態になったわね」
どうやら自分は過去へ来てしまったようだ。元の時代に戻れる見込みは限りなく低いだろう。というより、そんな予感がする。そしてそういった予感ほど良く当たる。
だからこの際帰ることは潔く諦めてしまおう。
涙を流すのは、これっきりだ。
青空の下
(二度と皆に会えないと悟った)