押して駄目なら押し倒せ | ナノ


「マダラ」
「・・・」
「マーダーラー」
「・・・・・」
「ねぇごめんったら。わたくしが悪かったわよ」

次の日の朝、未だに蹲って痛みと戦っているマダラにアリスが呆れた様子で声を掛ける。頭領がこの様では一族に示しがつかない。時間的に見てももう朝食だというのに人前に出られる状態ではないというのは如何なものか。
こうなった原因の自分が言うのも何だが今の彼は正直情けない。昨日の鬼畜っぷりは何処へ行った。

「お腹空いた・・・」

傷口に触れないよう腹の辺りをそっと撫でる。自分で食事を取りに行ってもいいだろうか。いや、その前に顔を洗いたい。どちらにしても使用人を見つけなければ。

膝と手を使って襖まで体を進めればマダラから待ったが掛かるが、動ける様子ではないのを一瞥して部屋を出ていく。壁伝いに膝立ちで厨房に向かっていると途中で女中を見つけた。

「そこの貴方」
「はい・・・って、アリス様!? お、おはようございます!」
「おはよう。悪いのだけど顔を洗う湯を用意していただけないかしら。それと居間に食事の用意も」
「かしこまりました。あの、マダラ様は・・・」
「・・・少し疲れているようだからまだ横になっているわ。朝食はいるか分からないけれど一応御結びを作っていただけるかしら」
「はい」

女中は近くにいた者に朝食を用意するよう伝えるとアリスに付き添って顔を洗う支度をする。さっぱりしたところでようやく朝食にありつけた。


さて、部屋へ戻ってきたアリスは声を掛けて中に入る。マダラは同じ体制で布団に蹲っていた。

「マダラ、御結びを持ってきたわ。仕事の時間のこともあるし、そろそろ起きないと」
「・・・今日は休む」
「無理に決まっているでしょう。皆に何と説明するの」

揺すっても叩いても動こうとしないマダラに困り果てるアリス。そうこうしているうちに時間は過ぎて、彼女達の部屋に男が一人訪ねてきた。

「失礼します、マダラ様、アリス様」
「あぁヒカク。入ってちょうだい」

助けが来たとアリスはヒカクを部屋へ招き入れる。彼は扉を開けて目に入ってきた光景に内心首を傾げた。

「久しいわね。元気にしていた?」
「はい。アリス様も傷が良くなったようで何より・・・それはそうとマダラ様はいかがなさいましたか」
「いえ、まぁちょっと・・・」

気まずそうに顔をそらす彼女と股間を押さえて蹲るマダラ。大体の事情を察したヒカクはアリスに席を外すよう言った。
縁側に座って広い中庭を眺める耳に二人の会話がごそごそと聞こえてくる。時折「いきなり舐めろと言ったんですか?」やら「え、噛まれた?」やらと耳に入って顔が赤くなった。
しばらくして中から入ってもいいと言われて部屋に戻ったアリスは心配そうにヒカクを見る。

「大丈夫ですよ。時間を置けば治りますから。今日の仕事は休みにしておきます。アリス様はマダラ様について差し上げてください」
「でもわたくし・・・いえ、分かったわ」

帰りたい。そう言おうとしたのだがヒカクの申し訳なさそうな表情を見てその言葉も引っ込んだ。小さく息を吐いて了承したアリスにヒカクはもう一度謝ると、二人に頭を下げて部屋を後にした。

──────────

「──ということで、今回のアリス様嫁入り作戦も失敗に終わりました」

此方うちはの集会場。緊急招集をかけられた一族はヒカクを筆頭に昨夜の出来事を纏めていた。

「お二人が中々結ばれないことに関して、理由や改善策が見つかりましたら意見をお願いします」

「毎回のことながらアリス様の意思が固く、マダラ様への恋情よりも里への愛が強いことが壁になっていると思われます」
「里が創立されてから今日までを見るにアリス様の中のマダラ様の存在は里を超すことが出来ないでしょう。そもそもアリス様は“里の人間”という括りの中でマダラ様を愛している節があります」
「今更ではありますがアリス様の「愛してる」という言葉も里という括りからくる慈愛なのかマダラ様を男性として見た恋愛なのか、決めあぐねますな」
「お二人が結ばれるにはやはりアリス様の意識改善から努めなければ希望は薄いかと」

次々に出てくる意見を書記が書き取っていく。
まぁ見て分かる通り今回の題材は頭領とアリスだ。どうしたら二人が結婚できるか一族全員で考えて、動く。つまり一族挙げての恋愛騒動である。本人達の知らないが。
くっつきそうでくっつかないという歯がゆい日々を繰り返して早数年。一時期はアリスが亡くなりマダラが里抜けという解散直前にまで追い込まれた彼等だが、現在はそのぶん力が入っている。

「いっそのこと既成事実でも作ってしまえば早いんだがな・・・」
「アリス様も忍として優秀なお方だ。そう簡単にはいかないだろう」
「数年前の情事で子が出来ていれば・・・」
「急所を噛まれたとあっては子作りという策はしばらく出来ませんね」
「少し前も寸前で止められてしまいましたし、上手くいかないものですな」

そんなこんなで、二人の色事にも精通しているうちは一族だった。

──────────

「マダラ、その、まだ痛む?」
「・・・あぁ」
「チャクラが使える状態であれば掌仙術で治せるのだけどね・・・(というより薬を投与したはずなんだけどな)」

また一日経った頃、ようやく普通に横になったマダラがアリスの問いに小さく答える。薬草を用意してもらって作った痛み止めを飲ませたがあまり利いていないようだ。調合は間違えていないはずなのにどうしたことだろう。

「くそ、薬に耐性を付けるとこういう時に不便だ」
「・・・( そ れ か )」

戦争時であれば毒を使う相手にも対抗出来て大変便利なものを身に付けたと称賛できるが、今この瞬間ではさっさと捨ててほしい厄介な体質だ。
仕方がないから強力なものに変えようか。副作用もあるが痛みよりはいいだろう。


「ん、ぐ・・・うえ。おいアリス、今日の薬苦いぞ」
「強いものに変えたのよ。少し怠くなるかもしれないけれど、仕事は持ってきてもらったのだし良いわよね」

束になった書類に目をやったマダラは面倒くさそうに息を吐く。そしてアリスを見て眉を顰めた。

「なんでそんなに離れている」
「もうあんな思いはしたくないもの」
「それは俺の台詞だ」

双方苦々しげに顔を顰める。どちらが被害者かなど分かったものではない。

「あぁくそ、口の中がまだ苦い・・・」
「でも呑み込めただけ凄いわよ。戦時中に使っていたけれど、苦過ぎて呑み込めずに吐き出してしまう子が多くて使用中止にしたくらいだもの」
「そいつ等が柔なだけだ・・・と言いたいところだが、確かにあれは呑み込めんぞ」
「それはほら、元々塗り薬として使うものを無理矢理飲むタイプにしたから」
お い

へらりと笑って言うアリスにマダラが待ったをかける。医学を嗜んでいるだけあって安全性も効果も心配していないが、まさかそんな裏話があるとは思わなかった。

「道理で苦いわけだ。あの味、変えられないのか?」
「今のところ目処は立っていないわね」
「この先もあれを飲まなければならないと思うと憂鬱だな。・・・ま、効果は確からしいが」

自分のモノを見下ろして言うマダラにアリスはほっと胸を撫で下ろす。
これでも駄目ならどうしようか思った。
そんなことを考えているとマダラがアリスの下へ歩いてきて強引に唇を重ねてきた。

「んっ・・・、ンン?っんー!んん、ン!!」

舌を入れられたところでマダラの飲んだ薬の味が口の中に広がり顔が歪んでいく。マダラは暴れて逃げようとするアリスを押し倒して拘束した。

「──っは。ハァ・・・ハァ・・・苦い、口の中が苦いぃ・・・!」

うあぁぁ、と悶えるアリスにマダラが小さく笑った。中々見られない表情で可愛い。
舌を絡ませただけでここまで苦しむという事は直接口にしたマダラのダメージはどんなものだろう。

その後数回口を漱いでやっと落ち着いたアリスはぐったりと机に寄りかかる。マダラも被さるようにして体重を預けた。

「・・・こうして二人の時間を過ごすことが出来て幸せだ」
「人の足を奪っておいて良く言えるわね。毎回傷付けられるわたくしの身にもなりなさい」
「俺は好きなんだがな、あの瞬間が。お前の悲鳴と歪む顔はこの上なくそそられる」
「最っ低」

机に伏したアリスの髪を掻き上げて耳に舌を這わせるマダラ。ピチャピチャと音を立てるそこに身を捩るアリスだが、「そういえば」と耳元で呟く彼に動きを止めて彼を見た。

「腱を切る代わりに呪印をつける方法を考えた。俺とてお前にはあまり苦しい思いをさせたくないからな」
「呪印?」

アリスは眉を顰めて聞き返す。どんなものかは知らないが自分にとって良いものでないことは確かだろう。
足首を撫でるマダラの手を見ながらそう考えた。

「対象の機能を奪う術だ。今ここでやって見せよう」
「え、いやいらないわよ。ちょっと!」

抗議を無視して印を組んだマダラがアリスの両足首を掴む。ジュウ、とそこが熱くなって術式が枷のように刻まれた。

「これで傷が治っても立ち上がることは出来ない。あぁそれと、ついでだ」
「っ、やだ!マダラやめて!」

足に気を取られた隙に目元にも手を押し付けられて視力が奪われていく。開けども見えぬ目と力の入らぬ脚を見てマダラは満足そうに笑んだ。

「馬鹿!!何てことするのよ!今すぐ解きなさい!」
「心配せずともお前の面倒は一生俺が見続けるさ。だからお前は俺だけを感じていろ。俺だけを欲していろ。俺にはお前しかいないように、お前には俺しかいないんだ。・・・愛している。
返事は?」
「わたくしには貴方以外にも大切なものがあるし、貴方にもまたわたくし以外に大切なものがあるでしょう。──う˝っぐ、」

急に首を絞められて床に叩きつけられる。息を詰まらせて酸素を欲するが深い口付けにそれは叶わない。

「・・・アリス、頼むから俺の欲しい言葉をくれ。いい加減お前を壊すか殺すかしてしまいそうだ」

頬を撫でながら悲観的に言うがしかし、感じる雰囲気は酷く愉しげだった。



愛するが故に
(君の全てが欲しい)
(狂愛?違うな)
(これは純愛の最たるものだ)

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