押して駄目なら押し倒せ | ナノ


意識を取り戻したアリスは焦点の合わない目で天井を見渡した。この感覚は覚えがある。場所は違えどまたかと息を吐いた。

「具合はどうだ」

すぐ隣から声がして体が反応する。少しだけ首を動かして見てみればマダラが自分と同じ布団に横になっていた。声を出すのも億劫で無視して視線を天井に戻せば頭を引き寄せられて無理矢理口付けられる。

「っは、・・・っマダラ、傷が、痛む・・・」
「俺を無視するからだ。この前の戦いでお前は負けた。ともすれば俺には従順であるべきだろう・・・違うか?」
「あの時行かなければまた里の方に被害が出ると思ったから行ったのよ。賭け事にまで乗ったつもりはないわ。望みの薄い賭けに出るほど愚かではないと知っているでしょう」
「ふん、それでもお前が負けたことには変わりない。勝者は敗者を支配する権利がある」

痛みに歪むアリスの顔を見つめて再び唇を重ねて舌をねじ込んだ。何とかしてそれを追い出そうと躍起になっていたアリスだが、突然腹部に激痛が走って声にならない声を上げる。視線を下げれば千鳥で貫通した腹をぐっと押さえられていた。そのままグリグリと手を動かされてアリスは痛みに目を見開く。

「ッッ・・・ッア˝グゥ、ッ!」
「俺に逆らうな。俺に従え。お前は俺に負けて、このうちはマダラのものになったのだと自覚しろ」

ようやく離された手にアリスは息を荒くしてマダラを睨み付ける。が、マダラは構うことなくアリスの体を引き寄せて抱きしめた。
痛いと言っているのに。この男、自分をヌイグルミか何かだとでも思っているのか。

「愛している、アリス。もう少し傷が良くなったら子を作ろう」

頬や額、瞼へ口付けながらマダラはそう囁いた。

──────────

それから半月程、アリスは実に屈辱的な日々を送っていた。何せ今の彼女は赤子同然の身。食事やら着替えやら、何から何まで人にやってもらわなければならない。しかもその相手は使用人でも同性でもなく、自分を囲っているうちはマダラだ。
部屋を空けるときでもご丁寧に影分身を残していくものだから文字通り二十四時間ずっと一緒にいる状態である。因みに気配はすれども使用人を見かけないのだかこれ如何に。

傷の治りが早いとはいえ流石に穴が開いたり深い傷は治りにくいということで寝たきりであったが、最近になってようやく自分で体を起こして移動するくらいには動けるようになってきた。
足の腱は三日に一度程のペースで傷付けられていて、体が動くようになるにつれて警戒が高まっている。
そして動くようになると言えばだ。そろそろ貞操の危機を感じる。二、三日前に「そろそろいいか」と呟いていたのを聞いてぞっとした。

「ねぇマダラ」
「なんだ、大人しく抱かれる気にでもなったか」
「そうではなくて。外に出た「駄目だ」ずっと布団の中では気が滅入ってしまうわ」
「例え病んでいるお前でも生涯愛していられる自信はある。安心しろ」

嬉しいはずの言葉なのに彼が言うと怖いのは何故だろう。そんなことを考えていたら、座っていたところを後ろから抱きしめられた。

「・・・ねぇ、当たってる」
「何がだ?」
「言わせないでいただけて」
「最近溜まっていてな」
「昔、怪我人に無体を働くほど下衆ではないと言っていたわよね」
「昔は昔だ。お前はこういう時でなければ情事に運ぶのが難しい。怪我人だなんだ言っている場合ではないと学習した」

前に回された手はさり気無く胸を触っている。こんな怪我で相手などして堪るか。

「そ、そういえばマダラ。わたくしが此処に来てから結構経つけれど柱間達は動いてないの?看病のためとはいえ監禁なんてあの人たちが黙っていないと思うのだけど」
「話し合いはしている。だがどちらも譲らないせいで平行線だ」

取り敢えず見捨てられたということはないらしい。良かった・・・いや、良くない。服の上で動いていただけの手が浴衣の中まで入ってきた。
乳頭を摘まれて体が跳ねる。無論危機的な意味で。

「恥ずかしがらずともいい。お前の体なら既に隅から隅まで見ている」
「こ、のっ、痴れ者・・・!」

確かに着替えやら体拭きやら、この数週間で奴には全て見せきったと言ってもいい。毎日毎日使用人を寄越せと言うのに軽く一蹴されて、此方が動けないのをいいことに堂々と服を脱がせてきた。羞恥に気が狂いそうになったこの恨みは一生忘れるものか。
そして隅から隅まで見たからと言って情事に及んでも良いなんてことは絶対にない。

心の中で恨み辛みを吐いていたアリスだがしかし、不意にマダラは帯を外したところで動きを止める。素肌を見られているのかと必死に前を隠したがどうにもそうではないようで、アリスは考え込むマダラを覗き込んだ。

「マダラ、どうしたの」
「・・・ふむ、それもいいかもしれない」
「マダラ?」

一人で答えを出して納得してしまった彼に眉を顰める。此方を向いたマダラはまた何かを思いついたようで悪い顔をしていた。

「あ、あの・・・」
「あぁいや、今回は少し変えてみようかと思ってな」

変える?何を。
首を傾げたアリスを向い合せにさせたマダラは膝立ちになってズボンと下着を下ろす。目の前に現れたソレにアリスは石のように固まった。

「舐めろ」
「・・・は?な、なめっ!?」
「舐めろと言った。早く口を開けろ」
「冗談でしょう!?こんな・・・!」

マダラの顔を見上げていたアリスは視線を下ろして目に入ったそれに顔を背ける。しかし髪を掴まれて再び目の前に男根を突き付けられた。

「ほら、早くしろ。負け犬」
「負けい、ぬ・・・!?」

弾かれるようにマダラを見ると酷く愉しげな彼と目が合う。ギリ、と歯を噛み締めたアリスは眉を吊り上げた。

「このわたくしを何処まで愚弄すっんぐ、ンンーッ」
「別にそんなつもりはないさ。だがどちらが上かということは十二分に叩き込んでおかなければならないだろう」

嗤いを含んだ声で言いながら、無理矢理男根を咥えさせられたアリスの頭を揺らす。なるべくソレに触れるまいと舌を縮こませている様子にそれならばと奥まで入れてやれば苦しいのか顔を歪めた。
・・・面白い。

「舌を動かせ。絡ませろ」

そう指示を出すが恨めし気に此方を睨むばかり。尤も、始めから素直に従うとは思ってはいないから喉の奥を数回突いてやる。そうしてようやく口の中のモノに舌を這わしてきたアリスに喉を鳴らして小さく笑えば最早殺気を含んだ鋭い視線が向けられた。
戒めのつもりでもう一度突くと今度こそ目を伏せて大人しく舐め始める。たどたどしい舌遣いではあるが、やはり盲目なまでに好いた相手だからか痺れるほどに気持ちが良い。

「は、・・・ふっう、もっと舌を使え」

マダラの言葉にアリスは小さく眉を顰めるも、二、三回喉の奥を突いてやれば先程よりは動きが良くなった。筋をなぞって先端を舐めて。クチュクチュ響く音が聴覚を刺激する。ツゥ、とアリスの口から納まりきらなくなった唾液が流れた。

「ククッ・・・いい子だ」
「ん、んん˝っ・・・ンヴ、」

徐々に大きく固くなってきたソレにそろそろアリスの口が悲鳴を上げ始めた。
苦しい。いっそのこと噛み千切ってやろうか。

「・・・おい、噛むなよ。噛んだら朝までヤリ続けるからな」

歯を閉じようとしたところで気付いたマダラが低く言う。
今のでも十分屈辱なのにあの時の行為を朝までなんて無理だ。思わず口の動きを止めた。
こうして世の中の女性達は喰われていくのだ。


─── な ん て 思ったら大間違いだ。

「っ!!!ぐっああ・・・!!」

“ガリ”だか“ザク”だか、いやな感覚と共にマダラが呻き声をあげて崩れ落ちる。アリスの口から血に塗れた男根が引きずり出された。

「い、ってェ・・・!う˝、あ・・・はっ・・・くそっ、」

まさかあぁ言われて噛むとは。想定外もいいところだ。
布団を掴んで激痛に悶えるマダラのソレは暫く使い物にならないだろう。
一向に起き上がることのない彼を横目にアリスは安堵の息を吐く。しかし数秒後には自分の仕出かしたことに少し顔を蒼くした。恐る恐るマダラを呼ぶが痛みに声を上げるばかりで全く反応がない。
いや、自分だってここまでやるつもりはなかった。というより“朝までヤる”なんて言われた時点で本来であれば戦意喪失している。だがしかし今回は状況が違った。
屈辱的な言葉に屈辱的な行為、身包み剥がされ全身触られたという黒歴史が彼女の背を押したのだ。
結果助かったわけだがどちらが被害者か分からない。

「ま、わたくしは優しいからこれまでの無礼はもう水に流して差し上げるわ。これに懲りて二度と変な気を起こさないことね」

アリスは机に置いてあった水差しと湯呑を手にして口を漱いだ。



仔羊の反逆
(食べ物の恨みは怖いというけれど)
(自尊心を傷付けられた恨みも十分怖い)

prev / next
[ back ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -