押して駄目なら押し倒せ | ナノ


とある建物の一室で、千手兄弟とマダラとアリスは机に広げた地図を囲んでいた。珍しく全員が真剣な表情で柱間の指差す先を見つめている。

「──ここ等辺も意外と見落としがちだからな。しっかりカバーしなければあっという間に突破されてしまう」
「いくらか人を増やした方が良いか」
「とはいってもあまり充てることも出来ないだろう。防戦では勝てん。出来るだけ攻めに人手を割きたい」
「ならば感知に優れている忍と二つ三つの班を充ててはいかが?早めに敵を見つけて先手を取ればいいわ」
「ふむ、それがいいな。選出は俺が受け持つ隊から出そう」

「失礼します。お茶をお持ちしました」
「あら、ありがとう。皆、少し休憩にしましょう」

話が一段落したところでお茶の時間となった。地図を丸めてお茶とお菓子を並べる。今日の茶菓子は羊羹だ。

「ふぅ……最近は忙しくてゆっくり出来ないから、ちょっとした休憩が貴重に思えるわ」
「お前は働き過ぎだ。くノ一部隊と医療部隊の調節に作戦考案、里人の様子見までやっている」
「そうだぞ。倒れては大変だ」
「貴方方の方が大変でしょうに。くノ一部隊と医療部隊を合わせても、わたくしの率いる人数は柱間達より少ないわ。それに目が回るほど忙しいのは仕方がないでしょう。
 ・・・戦争、なのだから」

そう、今の木ノ葉は戦争の準備に翻弄していた。アリスの知識にある第一次忍界大戦の開戦が目前まで迫っているのである。
時が近づくにつれて忍の緊張は高まり、里の人間にも飛び火していく。いつ攻められるか、いつ死ぬか分からぬ戦乱の時代が、再びやってくるのだ。

「アリス、やはり参戦はやめた方がいいんじゃないか?いや、お前の腕を疑っているわけではなくてな。ただ俺は・・・」
「心配してくれるのは嬉しいわ、マダラ。でもせっかく持っている力だもの。ここで使わずしていつ使うというの。それに、くノ一部隊も医療部隊も随分形になってきたから絶対に成果を上げることができるわ」

大分時が経ってすっかり仲を戻した二人が相変わらずの会話を繰り広げる。しかしこのやり取りも暫く出来なくなるだろう。
願わくば戦争が終わったとき此処にいる四人で再び顔を合わせたいと、そう思いながら最後の一欠けらとなった羊羹を口に運んだ。

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「これより、くノ一部隊と医療部隊は戦地へ赴く」

里を発つ当日、アリスは己が率いる部隊の前に立って口を開いた。

「くノ一部隊!女は男より劣っているという常識を覆す時が来たわ。全員戦地で活躍できる立派な忍よ。存分に腕を振るいなさい。
医療部隊!今回の戦の要は貴方達よ。力だけが勝つ手段ではない。医療忍者は勝敗を左右する重要な戦力だわ。頼りにしているわよ。

それと、何度も言っているけれど、わたくしの部隊は生存率を第一に考える。里のために死ぬ必要はない。捨て身の攻撃も厳禁。貴方方には帰りを待つ家族がいることを忘れては駄目よ。
・・・なんとしてでも、生き残りなさい」
「「「はっ!!」」」

全員の顔を見渡したアリスは、息を大きく吸って出立の合図を出した。

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時が経つのは早いもので、第一次忍界大戦開戦から一年と数か月ほどが経った。千手兄弟もマダラも特に大きな怪我はないそうで、アリスはホッと胸を撫で下ろす。
自分の部隊も五分の四が残っていて順調だと言えるだろう。現在はたまたま里への帰還が重なった柱間とお茶を飲んでいる。扉間は途中で中隊を率いて別れたらしい。すぐに戻るそうだ。

「それで、お前のところの部隊はどうだ」
「調子はいいと思うわよ。くノ一も医療忍者も着々と成果を上げてる。珍しいこともあって名も広がっているらしいわね」
「おうおう!アリスの美貌と強さは世界中に轟いているぞ!」
「柱間、わたくしではなくて部隊よ」
「ハハッ!分かっている。最近では俺やマダラと並んで会いたくない部隊だそうだな。怖い怖い」

豪快に笑う柱間にアリスは眉を下げて笑う。彼女の部隊は少し変わった戦法をとるからそれも名の広がる原因だろう。戦法、といってもアリスが敵の部隊に突っ込んで一気に数を減らしてから、くノ一部隊が残りを潰していくという極シンプルなものだ。まぁその突っ込む人間がマダラや柱間お墨付きの実力となれば相手にとっては堪ったものではないだろうが。

「そういえば近頃では休戦協定を結ぶところが増えているようね。木ノ葉もいくつか結んでいるし、このまま落ち着きそうね」
「おぉそうだ!そろそろ終戦の時が近い。だが最後まで気を緩めてはいけないぞ」
「えぇ、もちろんよ」

その後、帰ってきた扉間も交えて、二人は少し長いお茶の時間を楽しんだ。

──────────

スッ、スッ、と森を駆け抜けるくノ一達。終戦が近いということでその足は軽かった。

「漸く戦争も終わるのですね」
「そうね。もう少しぶつかり合いはあるでしょうけれど、平和は目前だわ」
「やっと家族とゆっくり出来そうです」
「私もこの戦争が終わったら子供との時間をたくさん作ろうかと」
「えぇ、それがいいわ。今まで働いた分、しっかり休みなさ「──!アリス様、二百メートル先、大隊を感知しました」」

突然、感知タイプの忍が先頭を走るアリスに焦り気味に言う。アリスは一旦隊を止めると戦闘の陣形になるよう指示を出した。

「あちらの様子は」
「真っ直ぐこちらに来ていて・・・恐らく気付かれています」
「一人、先頭を走る忍のチャクラが相当強いです」
「偶然鉢合わせたわけではなさそうね。出る杭を終戦前に打っておこうという魂胆かしら。時間がないからいつもの通りで行くわよ」
「「「はっ」」」

どうやら相手は真正面から突っ込んでくるタイプの敵らしい。グダグダしていたら後手に回ってしまう。
アリスが速度を上げ、数テンポ遅れてくノ一部隊が続く。近づくに連れて速度を上げた彼女は勢いをつけたまま敵の間をすり抜けた。直後、通った付近の忍の首が落ちる。
百人程度を削ったところで くノ一部隊が戦闘に加わった。

「──さて」

さらに数十人の頭を落としたところで、アリスは後ろからの気配に振り返る。数メートル先の枝に立っている大男。隊を率いていたから隊長で間違いない。頭を叩くのが戦闘を終わらせる一番の近道だ。ビリビリとした雰囲気の中で二人が構える。

「木ノ葉隠れの鎌鼬と見受ける」
「あら、なぁにその名前」
「お前が通った道は切り裂かれた死体が残るという噂だからな。目に見えぬ攻撃は我々も警戒していた」
「それでも貴方の部隊は被害にあったわね」
「チッ、女のくせに・・・」
「男尊女卑の時代はもう古いわよ。それで、貴方は?」
「雲隠れの雷影だ」
「・・・あら」

どうやら自分達は雲隠れの大軸の部隊と当たってしまったらしい。これは少し不味いかもしれない。
ならばさっさと打ち取ってしまった方がいいだろう、とその場で印を結んだ。
アリスの風遁と雷影の雷遁がぶつかり合って森が吹き飛ばされる。
遠距離での術のぶつかり合いで決着をつけたいところだが、電撃を纏った相手が近距離戦に持ち込もうとするせいで上手くいかない。
仕方がないから風のチャクラを纏わせた刀で相手の希望通り近距離に持ち込んだ。両者共に一撃でもまともに喰らったらアウトである。

「思ったよりやるな」
「油断していたらパックリいってしまうわよ」

全身に小さな傷を負いながら攻防を繰り返す二人。しかしアリスは途中で気付いた。自分の部隊が随分と押されていることに。戦力云々よりも圧倒的に数が少ないせいだ。己の部隊は勝敗よりも命優先。戦死者が増える前に撤退させるのが吉か。
アリスは風遁で森ごと雷影を遠くまで飛ばすと部隊に召集をかけた。氷の壁で周りを囲って外界から遮断する。

「状況を見て分かる通りこのままだと死者が増えるばかりだわ。もし勝ってもそれでは意味はない。・・・撤退を、命じます」
「アリス様!?私達はまだ戦えます!」
「それにこの状況では引くことも出来ないでしょう。追撃されるのが落ちです」
「わたくしが残るわ」
「ならば私も「駄目よ。残るのはわたくし一人。貴方達は全員里へ帰還しなさい」
「アリス様・・・!」

くノ一達が顔をゆがめる。仲間想いな彼女達にアリスは顔を綻ばせた。

「異なる一族が互いを想い合えるになって、わたくしは嬉しいわ。それでこそ里を造った甲斐があるというもの。貴方達になら里を任せられる」
「さ、里を任せられるって!」
「無論死ぬつもりはなくってよ。ただ今回は相手が相手だからこの先がどうなるかなんて分からない。だからこそ、ここで貴方達が命を落とす必要はないわ。里に戻って未来の子供や孫のために生きなさい」

いつもより少し低い声で朗々と言ったアリスは三枚の紙を取り出した。「最後に一つ頼まれてくれるかしら」と問いながら筆で文字を書いていく。

「柱間と、扉間と、マダラに。手紙・・・というほど長くはないのだけれど、伝言程度のものをね」
「うぅ、それじゃ手紙でも伝言でもなくて遺書じゃないですか・・・」
「縁起でもないこと言わないの。わたくしは生きて帰るつもりなんだから」

苦笑いを零したアリスは最後の一枚、マダラへの文を書いている途中で躊躇うように筆を止めた。少し迷ってから「仕方ない」とでも言うように眉を下げて小さく笑みを零すと何かを書き足す。そして紙を折ったら誰宛か分かるようにそれぞれの紙に“柱”“扉”“斑”と記した。

「これを、あの三人に渡して。貴方達にしか頼めないことだわ」
「はい・・・」
「それでは今から退路を確保する。方向は医療部隊を待機させている方よ。合流してそのまま里へ帰還しなさい」

印を組んだアリスが外に向かって手を翳す。氷に覆われた道が出来上がった。

「・・・行って。生きて、里に戻って」
「「「はい」」」

先導を任されたくノ一に続いて全員が走り出す。一キロほど行ったところで氷の道は終わり、外に出れば結界に守られている医療部隊と合流することが出来た。
事の次第を説明して両部隊は里へ向かって走り出す。

途中、地響きが起きて全員が振り返ると、アリスが交戦している場所辺りで全てを吹き飛ばすような大爆発が起こっていた。

──────────

「くノ一部隊及び医療部隊、ただいま帰還いたしました」
「あぁ、今回もご苦労だったな」

代表のくノ一が数人、千手兄弟とマダラの前で膝をつく。普段であれば報告はアリスが行うというのに、何かあったのだろうかと三人は眉を顰めた。

「それで・・・その、少々良くない報告が」
「・・・聞こう」
「雲隠れの、雷影の部隊と当たって撤退しました」
「よく振り切ることができたな」
「はい。アリス様が・・・アリス様が、その場に残って雷影達と交戦を「アリスが?それで、アリスはどこにいる」」

顔を強張らせたマダラがくノ一の言葉を遮って問う。彼女は息を大きく吸うとゆっくりと口を開いた。

「未だ連絡はついていません。ただ、大きな爆発があったので・・・生きている可能性は、──っぐ!」

マダラの手がくノ一の首を絞める。持ち上げられて地面につかない足を必死にバタつかせるも、眩暈がするほどの殺気を感じて大人しくなった。

「マダラ!落ち着け!」
「女を離せ!殺すつもりか!?」
「何故だ・・・!何故あいつを置いて帰ってきた!」

柱間と扉間に押さえられたマダラが唸るように怒鳴る。蹲って息を取り込むくノ一の背を撫でながら、別のくノ一が怯えながら口を開いた。

「アリス様の命で、里に帰れと。私達は死ぬべきではないと・・・」
「だ、だから私達は仕方なく、」
「仕方なく、里へ戻ってきた?アリスの命令だったから?
 ──そんな言い訳通用するものか!貴様等はアリスを見殺しにしたんだ!自分の命惜しさにな!それを命令だのなんだのと!これだから女は・・・!」
「おいマダラ!・・・すまぬな。お前達も疲れているだろうに」
「いえ、アリス様のお役にも立てず不甲斐ないばかりで・・・。そ、それで、あの・・・アリス様と分かれる際に預かったものが」
「預かったもの?」
「はい。アリス様より此方を・・・」

今にも飛び掛かってきそうなマダラに震えながらも、くノ一はポーチから三つの折られた紙を取り出す。

「柱間様と、扉間様と、マダラ様に、と・・・。特にマダラ様はよく読むようにと言伝を承っております」

そう言って渡された紙をマダラは開いた。急いで書いたらしく少し乱れた字が並んでいる。

柱間と共に木ノ葉を守り導いてほしいと、
子供達に火の意思を継いでほしいと、
自分の一族を大切にしてほしいと、
そういった趣旨が書き連ねてあった。

なんだ、また里や里人のことばかりではないか。どうしてお前はいつもこうなんだ。
自分がどれだけ焦がれてもその想いは受け入れてもらえず、里のことばかり考えていて、とうとう手の届かないところまで行ってしまった。
思考も億劫になるほど酷い虚無感を感じる。
手足の感覚もなくなって目線が低くなることで初めて自分が膝をついていると分かった。

「アリス・・・、」

ふと紙の一番下が不自然に折れていることに気付いた。無意識に手をかけて元に戻すとそこに隠れていた文字が目に入る。

愛してる

「嘘、だろう・・・」

零れた声と共に涙が滑り落ちた。



愛してる
(最後になるかもしれないから、ね)
(その言葉をお前の口から聞きたかった)

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