綿菓子みたいな | ナノ

5-2

十数分後、たわいない会話をしているとパフェが運ばれてきたのだが、ビッグパフェというだけあってデカかった。
ラーメンのどんぶり程の容量があるパフェグラスにこれでもかというほど山盛りに盛り付けてある。

「わぁ、思ったより大きいですね。美味しそうです」
「ホント大きいね。あ、あとでそっちのちょうだい」
「もちろんです。私も貰いますね」

二人して大きなスプーンを手に取り、上の方からすくって、食べる、食べる、食べる。
時々相手のパフェを抉りながら(やはり遠慮なくゴッソリ持っていく)、あれ美味しいこれ美味しいと言い合っていると、あっという間に山盛りだったパフェグラスが平らになった。

「ところで五条さん。今まで突っ込んでいいのか分からずにスルーしていましたけど、なんで目を隠してるんですか?というか目隠ししてて周り見えてます?」
「んー?見えてるよ。僕の目、少し特殊でね。見えすぎちゃうから隠してんの」

そう言って雲雀に顔を向けてチラッと布を上げて笑む五条。
相変わらず顔が整いすぎていて、見つめあうのが気恥ずかしくなった雲雀は困ったように視線を彷徨わせた。

「その布、外さないでください。・・・えっと、特殊ってどう特殊なんですか」

少し顔が赤いまま問いを重ねた彼女に五条は小さく笑いながら目を隠して、少し考える仕草を見せた。
まだ味方だと確定したわけではない彼女に教えてもいいものかと迷ったのだが、呪術界では六眼は有名なため問題なしと判断したらしい。
一つ頷いて口を開いた。

初見の術式情報の視認や緻密な呪力操作を可能とする眼で、術式に原子レベルで緻密な呪力操作が必要となる無下限呪術を可能としている。
そういったことを簡単にまとめて説明するのを、雲雀はとても興味深そうに聞いていた。

「昔は高い懸賞金なんてかけられちゃってさー。いろいろあったよホント」
「一攫千金ですねぇ。・・・ちなみにその懸賞金って今も有効です?」
「雲雀ちゃん?」
「うふふ、冗談ですよ」

コロコロ笑ってパフェを一口頬張る雲雀。
冗談、なんて言うが、懸賞金の確認をした時すごくいい笑顔であった。
しかしすぐに難しい顔になって考え込む。

「無下限ってあまり馴染みがなくて想像がつかないです。収束する無限級数を現実にする術式、と言われても普段見えないものですし・・・」
「だよねぇ。説明も難しいし、ちょっと僕の手の上に雲雀の手を置いてみてよ」

テーブルに置かれた五条の手。
雲雀はよく分からないまま自分の手を重ねた。
──否、重ねようとして、あと少しのところで止まった。

「・・・あら」
「"アキレスと亀"とか"反比例のグラフ"みたいな。あぁいうことなんだけど」
「つまり近づいてはいるけど追いつけないんですね・・・大体わかりました」

ジッと手の間の"無限"を見つめる雲雀。
そんな彼女を五条も観察していた。

数秒の後、雲雀が五条から手をどけてパフェを食べることを再開する。
彼も手を引っ込めて、雲雀のパフェから掻っ攫った大きな苺を頬張った。

「それでさ、雲雀の術のことだけど・・・というか今日はこれが本題なんだよね」
「ええー・・・五条さんが凄過ぎて話したくなくなりました」
「僕は目のことも術式のことも話したのにー。情報抜き取るだけ抜き取ってサヨナラなんてひどーい」

よよよ、と嘆く素振りをする五条に雲雀の良心が痛む。
確かに相手の手の内を聞くだけ聞いて自分は話さないのはアンフェアかもしれない。
そんな至極まともな考えをする雲雀だがしかし、御三家の一つである五条の情報は術師の間では有名だったりする。

「私の術式なんて、無下限術式と比べたらある意味単純ですし・・・」
「雲雀の家って代々呪術師?」
「え、あ、いえ。呪術師ではないです。集落で神職みたいな役割は務めていましたけど」
「結構長く続く家?」
「かなり長いみたいですよ」

「ふーん」と何でもないように返事を返す五条だが、内心では「(八雲なんて家聞いたことないな)」と記憶をたどっていた。
実際、地図にも乗らないような山奥の集落だったため力は本物だが知名度はない。

「ま、いっか。直接見ればわかるし。ということで雲雀、今度僕と呪霊退治にいこうか」
「えっ、いやです」
「距離と等級が丁度いいのがあったら連絡するね」
「着信拒否設定しておきますね」
「車は出してもらえるから神社まで迎えに行くよ」
「ねぇ聞いてください行かないですって」
「大丈夫、死にかけたら助けてあげるから」
「死にかけるまで助けてもらえないんですか」

呑気に笑う五条に雲雀は嫌な予感しかしないまま最後の一口を頬張った。



※※補足※※

─雲雀─
術式や家について話そうと思っていたけど、直前になって「そういえば勝手に話して家に迷惑が掛からないか」と心配になった。
人間不信などではないが自身の術式が特殊であることは自覚しているため慎重。
六眼の説明を聞いて「ちょっとまずいな」と思った。

─五条─
雲雀がナンパされてるのを見て心がザワザワした。
彼女の術式が視認できないのホント意味分からない。珍しい事象だから自身が気になるというのもあるが、予想が正しければ上層部や呪詛師側に知られるとかなり面倒なもののため詳細を把握しておきたい。


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