6-1 呪霊退治に一緒に行く、と言った五条だが、あれから数か月経つ現在もそれは叶っていなかった。 理由は簡単で、丁度良い距離に丁度良い等級の呪霊がいないということと、五条が忙しく各地に任務に行ったり高専で先生をしたりしているからだ。 その間もアプリで連絡を取ってはいるのだが、ここ最近五条からは雲雀を心配する話題が増えた。 呪霊も危険だが男も不用意に近づくのは良くないだとか、夜遅くに出かけるのは危ないだとか、ナンパされるなだとか。 そんな心配に対して「大丈夫ですよ〜」とフワフワ呑気な返事を返す雲雀を五条がさらに心配するというのが毎度の流れとなっていた。 ────────── 前回会った時から随分と時間が過ぎて、あの時言っていた「呪霊退治」の話は水に流れたかななどと雲雀が考え始めたころ。 今日も今日とて巫女の仕事を終えた雲雀を迎えたのは、神社の傍で車に寄りかかって立つ五条だった。 ヒラヒラ手を振って「お疲れサマンサ〜」なんて声を掛けてくる彼に、雲雀の第六感が面倒事を察知した。 「お久しぶりです、五条さん」 「うん久しぶり。突然だけど雲雀、この後暇?」 「自宅までタイムトライアルする予定なので暇じゃないですー」 「OK!じゃ、行こうか!」 一際明るく言った五条が通り過ぎようとした雲雀の腕を引っ掴んで車に放り込む。 目を白黒させる雲雀に構わず「出して」と言えば車はゆっくり発進した。 「え、あれ、私お断りしたつもりなんですけど」 「雲雀、伊地知とは初めてだよね?呪術師をバックアップしてくれる補助監督だよ」 「八雲雲雀ですお互い五条さんには苦労させられますねよろしくお願いします降ろしてください」 「伊地知潔高です五条さんがご迷惑をおかけしますよろしくお願いしますすみません降ろせません」 どうやら彼は五条には頭が上がらないらしい。 顔を覆って溜息をつく雲雀を五条はケラケラ笑っていた。 「いやー、やっと丁度いい呪霊が見つかったよ。二級で登録されてるんだけど、前に二級呪術師が祓えなかったから一級くらいの力はあると思うんだよね」 「何級なんて言われてもよく分からないんですけど・・・」 「簡単に言えば二級は散弾銃でギリギリ倒せるくらいで、一級は戦車でも心許ないって感じかな」 「すみません降りまーす」 戦車で心許ないって、ただの巫女が手に負える案件じゃない。 まだ死にたくありませんと抗議する雲雀だが、五条は笑って「そんなに謙遜しないでいいのに」と流すだけだった。 「無理ですって私戦闘向きじゃないんですよ」 「前に神社でがっつり祓ってたじゃん。あれ一級だよ?僕びっくりしたんだから」 「あの時は・・・条件が揃っていたから簡単に祓えたんですよ」 「条件が揃っていたとはいえ一級を瞬殺できるなら大丈夫大丈夫!」 まったく諦めてくれる様子がなく太鼓判を押す五条に、雲雀もとうとう観念したらしい。 しばらく考えた後「(まぁ、なんとかなるか)」と了承の意を返す。 元来楽観的かつマイペースな彼女はあっという間に気持ちを切り替えたようで、この後の戦いのために情報収集を始めた。 「どういう呪霊なんですか?術式とか、あ、あとその呪霊がいる場所とか・・・」 「場所は廃校。術式は持っていないはずだよ。二級だからね」 術式を持っていないし喋らないから、二級。 だが二級呪術師が祓えなかったから、実際は一級か準一級相当の力があると推測される。 被害状況は、死者は数人だが行方不明者は呪術師も含めてたくさん出ているらしい。 前回任務に出た呪術師は二人組で、一人は行方不明でもう一人は大怪我を負って帰ってきた。 「学校ですか。いかにもですねぇ。・・・術式を持ってないということは、」 「肉弾戦かもね!」 「あー・・・。・・・・・・なるほど。うん大丈夫です」 「ねぇ沈黙長くない?どう完結したの?急に不安なんだけど」 自分の中で完結して納得した雲雀に、連れ出しておきながら不安を抱いた五条。 彼女に対しては主にふんわりフワフワマイペースな子という印象を持っているため、アプリで連絡を取っているときもそうだったが雲雀の「大丈夫」には不安しか覚えない。 つまり、ただでさえ「大丈夫」という言葉に信用がないのに、渋った末に承諾した案件に連れて行って本当に無事に戻ってこられるのか心配になった。 「死ぬこと以外はかすり傷って言いますしね。心臓と脳みそが無事なら何とかなりますよ」 「何とかなるの定義おかしくない?」 この会話を聞いていた伊地知は、「(五条さんのベースを崩すなんて凄い人だなぁ)」などと考えていたという。 [ back ] |